株を買わなければ配当金はもらえない

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日本の大学の研究業績が低下したのは、大学の研究室が縦型社会であるため、若者が海外に出ないのが原因である。この古い文化を衰退させるためには、若い時代に海外へ行くチャンスを作ってやることだ

  いろいろ書いてありますが、黒川清氏の論はこの程度に要約できます。2021年に書かれたとは思えない新味のない主張ですが、「若い時代に海外へ行くチャンスを」には異論はありません。ただし、海外に行けば日本の大学の研究業績が向上するとは限りませんね。同じようなことは誰でも考えていて、いろんな改革が行われました。改革の一つに、海外に行かせるためかどうか知りませんが、国内の大学の居心地を悪くするという方法があり実際に実行されました。大学の予算が大幅削減され、ポストもなくなりました。効果覿面で、海外に若者に限らず人材が流出しました。ただ黒川清氏の期待とは裏腹に日本の大学の業績も国際ランキングも低下しました。当たり前ですね。

 黒川氏の「若い時代に海外へ行くチャンスを作ってやる」という主張は正しいとしても、チャンスを作るのと追い出すのでは随分違います。そして、追い出しに貢献したのが財務省です。なぜそんなことをするのかというと、財務省に限らず公務員には投資という考え方がないからだと思います。

 でも、研究・教育は長期的な投資です。当面は支出しかありませんが、将来的にはリターンがあります。だから国家百年の計として教育にかつての日本は力を入れましたが、それも今は昔の話です。かくして投資は減りましたが、少ない投資をどこにすべきかについては、有望株はどれかとばかり皆が頭をひねりました。事業仕分けがその一例です。

 しかし、残念なことに儲かる投資法はないというのが経済学者のほぼ一致した見解です。(ケインズはバリュー投資戦略で儲けたそうですが、これは後で述べる堅実なやり方かもしれません)映画や歌のヒットを予想するのもほぼ無理です。歴史を顧みると予想はことごとく外れています。唯一可能なのはインサイダー取引のような情報の非対称性を利用したやり方ですが、不正なのでしてはいけません。結局、大儲けする方法はありませんが、堅実なやり方はあります。多くの株に分散して投資すれば、経済が発展している限りリターンはあります。他者を出し抜いて大富豪にはなれませんが、世間一般並みの利益は得られます。一方、事業仕分け的な選択と集中は危険です。選択と集中がうまくいったとしても、政府が国民を出し抜いて大富豪になってはいけません。それじゃ、「越後屋、お主も悪よのう」と悪徳商人と結託して暴利を得る悪代官です。

 研究・教育への国の支出もそういうものではないでしょうか。大学改革と称して、様々な方策が行われていますが、細かいことを考えてもそれがうまくいくか予想することは困難だと思います。とにかく広く投資する(予算を増やす)、それしかなさそうです。そのうちのいくつかが当たります。博打みたいですが、国民がまともで、国ほどの規模の予算なら大丈夫でしょう。

 投資した株のリターンに相当するものが税収です。国の支出が回り回って、経済を発展させます。ただし、研究・教育分野のリターンは研究・教育機関からの納税という形をとりません。研究・教育の成果は、数多の国民の収益を増やし、その税金として国に戻ってきます。

 現実の財務省は財政危機だからと支出(投資)を減らし、経済を縮小させ、税収を減らしています。税収が減ったので再び支出を減らすというスパイラルを数十年繰り返しています。おそらく、国民を投資先として信頼していませんね。一投資家ならその投資家の収益がなくなるだけで、他の投資家で経済は動き、株式市場も存続します。しかし、財務省は経済を殺す力をもっています。その結果は恐ろしすぎて私には書けません。