国家財政と家計の違いは何かな?(その6 日銀当座預金は何のためにある)

 先ず、言い訳です。本シリーズは、素人が財政、経済、金融を聞きかじって自分なりに確信したことを書いてきましたが、今回は確信がありません。確信がないと、言い切ることができないので文章が長くなって書くのが面倒くさくなってきました。そこで、あえて言い切ることにしました。言いきっていますが、怪しいこと書いてます。

 

■ 日銀当座預金の原資は何?という質問

 ネット上には、もやもやしたQAがあります。

日銀当座預金の原資はなにか?

日銀当座預金は、日銀に銀行が預けているのか、日銀が銀行に貸しているのか?

 これらの回答は分かるようでよく分からない釈然としないものが多いですが、形式的な答えは明確で、日本銀行が模範解答しています。

日本銀行が取引先の金融機関等から受け入れている当座預金のことです。

 つまり、銀行が日銀券を預けています。では、その日銀券を銀行はどのようにして手に入れるかというと、銀行の取引先が預けたもので、さらにその現金は日銀が発行しています。ということは、日銀当座預金の原資は日銀が提供していることになります。ただし、何もせずに、日銀がお金をくれるわけがありません。何かと交換してしているはずですが、何でしょうか。もやもやします。

 さらに、次のような事実もあります。

金融自由化以前は、銀行は準備預金の大部分を日銀から借入することにより調達していた。自由化以後は、インターバンク市場で他の銀行からの借入により行っている。

 金融自由化以前だと、日銀から借りて日銀に預けていたことになります。これは一体何をしているのでしょうか。また自由化以降のインターバンク市場というのは、日銀当座預金に余裕のある(法定準備率より多い預金がある)銀行から他の銀行が借りるのですから、日銀当座預金の中で融通しあっているだけです。相撲協会年寄株みたいです。

 この疑問と少し違いますが、似たような疑問もあります。

whatsmoney.hateblo.jp

 ここで、言われているのは、日銀は、日銀当座預金を民間銀行から調達したのかという疑問です。冒頭の疑問は、その逆で民間銀行は日銀当座預金に預ける現金をどこから調達したのかです。鶏と卵の議論みたいですが、明らかに日銀が最初に日銀券を生み出しています。「収入」、「支出」、「借金」という言葉は、お金を発行する政府日銀の行為に使うことは不適切ですが、「調達」や「原資」も同様です。言葉使いの間違いです。

■「負債」という言葉の意味

 再び、基礎の基礎にもどり、負債としてのお金の発祥を考えます。物々交換は時間的に同時に行われ、両者は対称な関係にあります。しかし、先ず、釣り針を受け取り、後で釣れた魚を渡すのは、時間的に非対称な関係になります。将来は不確実なので、履行を保証する借用書を書きますが、それがお金の発祥でした。借用書があっても確実とはいえないので、利子をつけて補います。交換しているものは、物品と紙切れ(信用)で、全く性質が異なります。

 また、借用書を発行する側が負債を負い、その時点ではまだ取引は完了していません。後で負債を負った側が約束を果たして、取引完了です。完了すれば借用書は消滅します。最初は釣り針と借用書を交換し、次に、借用書と魚を交換するという二段階があります。現在ではお金を使った取引が普通ですが、それらは、本来の取引はまだ完了していないとも言えます。負債を負った人がいなくなって完了だと考えれば、貨幣経済では、多人数の間の複雑な取引が継続して行われ決して終わることなく続いていることになります。

■借用書と借用書の交換

 さらにややこしいことに、借用書と借用書の交換も行われます。現代の金融ではそれがほとんどです。さて、この場合の負債を負うのはどちらでしょうか。それは、信用度の低い借用書を発行した側でしょう。信用度を定量化すれば、借用書の利息になります。利息の小さい借用書は、信用度が大きいということになります。

 この例として、銀行の融資があります。融資では、直接、現金を貸すのではなく、融資を受ける側の借用書と銀行の借用書を交換します。銀行の借用書とは銀行預金のことです。銀行預金は現金と交換を約束した借用書です。非常に信用度が高く、現金に交換せずに預金のまま取引に使われるので、現金と同じ通貨と日銀も認めています。現金や当座預金には利息はありませんが、融資を受ける側の借用書にはしっかり利息があります。融資とは銀行が貸し手側というのが常識的解釈です。

■ 銀行預金通帳を通帳発行銀行に預ける。

 ここから、仮想的な話になります。当座預金には預金通帳がありませんが、仮に通帳があったとしても、預金通帳を銀行に預けることは普通しません。会計的意味がほとんどないからです。そんなことしても、預金通帳預かり証(預金通帳の通帳)を銀行に持っていき、預金通帳を引き出して、その預金通帳を銀行に示して現金を引き出すことになり、手間が増えるだけです。

 普通預金には通帳がありますが、預金者は、それを発行銀行に預けません。借用書の発行者に借用書を預けることもしません。ところが、それと同じことを銀行はしなければなりません。日銀が発行した通貨を日銀に預けたのが日銀当座預金だからです。

 日銀券も日銀当座預金も日銀の負債なので、その信用度は同じです。銀行にとって、日銀券と日銀当座預金を交換(現金を日銀に預けること)しても、意味はありません。どちらかの負債が増えたということもなく、同じようなものを交換しただけなので、片方がもう一方に預けたとか、貸したとか、そういう解釈もできません。会計的には、何の変化も起こっていません。

■ 当座預金とは

 では、何故日銀当座預金があるのかを考えるにあたり、先ず民間銀行にもある当座預金の機能をおさらいします。当座預金の「当座」とは「さしあたり」の意味です。当座預金には、お金を長期間保管するとか、銀行に運用を委任し利子を得るというような用途はありません。現金を使わずに、取引相手との決済を効率的に行うためのものです。日銀当座預金も同様で、銀行間の決済や、政府から民間への支払い(支出)や民間からの徴税・国債代金受け取り(回収)に使うものです。

■ 日銀当座預金の残高は別に何も表していない

 日銀当座預金は決済(お金の受け渡し)に使うだけで、政府口座の残高が政府の財政状況を表しているものでも、民間銀行口座の残高が銀行の経営状況を表しているわけでもありません。しかし、ボーっと生きていると、家庭の収入を預けている普通預金の残高のように見えてきます。そこに付け込んで、財務省は子供だましのたとえ話をします。たとえ話は私も好きですが、ボーっと聞いていると、子供だましの与太話に騙されます。最近も週刊現代が騙されて記事を書いていました。お金を発行できない庶民の住宅ローンをお金の発行できる政府日銀の国債にたとえています。

gendai.ismedia.jp

■「日銀当座預金の原資はなにか」の答

 最後に冒頭の疑問への答えをまとめます。

  • 日銀当座預金は、日本銀行が民間の金融機関等から受け入れている当座預金です。
  • 民間の金融機関等は、日銀当座預金に預ける現金を取引先との取引で得ます。取引とは借りることです。金融機関は直接的な物品サービスの生産は行わないので、物品サービスとの交換ではなく、なんらかの借用書と交換します。
  • 現金が一番最初に日銀から民間の金融機関に渡るのは、政府が何らかの支出をしたときです。例えば、公共工事を発注すれば、建設会社の取引銀行の日銀当座預金に現金が振り込まれます。

 紆余曲折はあるものの、政府の支出が民間銀行の日銀当座預金の源です。そして政府の支出とはお金の発行のことです。銀行は何もしないでお金を得たように見えますが、建設会社に対する負債としての銀行預金ができますので相殺します。銀行は政府と物品サービスを提供する建設会社の仲介をしているだけです。その仲介に使うのが日銀当座預金です。

 政府日銀には、「原資」など必要ありません。自分が発行した日銀券と交換して、公共工事などの物品サービスをえる権限があります。