■ 通貨の発行者の通貨の累積収支は「赤字」
その4で述べたように、偽札でも出回らない限り、通貨の発行者は、発行した以上の通貨を徴収することはできません。従って、累積収支は「赤字」にしかなりませんし、それで何も問題ありません。通貨を発行するのは、政府が公用で使うものを調達するためというよりも、国民にお金を使って経済成長してもらうためです。公用の調達目的だけなら、通貨を発行して使うなどと回りくどいことをせずに、直接、必要なものを供出させればよいわけで、実際に年貢米というものがありました。政府はその権限を持っています。
通貨の発行に当たっては、調達の対価という形式で支出し、通貨として使えるという信用を与えています。政府と国民は対等な立場で商取引を行っているのではありません。また、信用を損なわないよう、通貨発行者が注意しなければならないのは、通貨流通量を適正に調整する事です。穏やかなインフレで通貨発行量が増えていくことが経済成長であり、政府財政は、一時的に黒字になることはあっても、長期的には適正な赤字でなければなりません。そもそも、通貨発行者に対して赤字とか黒字という言葉を使うこと自体が間違いでしょう。
しかし、財務省は馬鹿の一つ覚えのように「健全財政」という念仏を唱えるばかりです。健全財政が「黒字」を意味するのならば、その馬鹿馬鹿しさは、単純化した地域通貨を考えてみることでよくわかります。
■ 地域通貨の発行と回収
地域通貨は、地域活性化のために「使われる」ことを前提とした通貨です。貯蓄には適していません。例えば、マイナス金利や使用期限を設けて、ため込まずに使わせるようにできています。
地域通貨を手に入れるには、ボランティア活動を行うほか、日本円で買うなどの方法があります。前者は、ボランティア活動を事務局が発注し、地域通貨で支払うとも解釈でき、国の公共工事等の発注に対応しています。
後者の場合は、地域外の観光客などが日本円を地域通貨と交換するような例があります。普通は、地域通貨を日本円には替えることはできないので、地域内で消費するしかありません。これは、日本円という外貨を得たことに相当します。
以上が地域通貨の発行になりますが、使用期限がある場合は、特に、税として回収する必要はありません。徴税は通貨流通量の調整のためで、支出に使う為の収入ではないことが、地域通貨だと理解しやすいと思います。地域通貨では、徴税しなくても、期限が来れば消滅し、流通量は発行だけで調整できます。
■ 地域通貨事務局の収支
地域通貨の事務局は、日本円での会費を徴収する場合もありますが、地域通貨は徴収しません。従って、支出だけあって収入がないのですから、事務局の「地域通貨の収支」は、当然「赤字」です。事務局の「赤字」が地域住民の「黒字」であり、「黒字」自体は単なる数字もしくは紙切れに過ぎませんが、経済活動に使われ、実体的な富を生み出します。それが地域活性化です。
では、事務局の人件費などの経費はどのようにしているかといえば、ボランティア活動や日本円での会費で賄います。地域が活性化して潤えば、そのごく一部を戻せば済みます。というか、ごく一部で済まないようであれば、地域は活性化しておらず、地域通貨は失敗です。
このように、事務局の運営と地域の活性化が地域通貨では明確に分かれています。地域の活性化のために地域通貨を発行し、その管理のために事務局は運営されるわけで、事務局の運営のために地域通貨があるのではありません。以上について、大抵の人にはご理解いただけると思います。
ただ、世の中にはいろんな人がいて、国レベルの規模になり、さらに事務局(政府)の運営も地域経済(国民経済)も同じ日本円で行われていると、ご理解いただけない人々も少なからず存在します。
日本村の財務省は一風変わっていました。新しく地域通貨を発行しようと計画しましたが、そのために地域通貨を集めようとしたのです。つまり、世の中に存在しない「地域通貨」を税金として徴収しようと不可能なことを考えました。さすがにこれは無理なので、とりあえず地域通貨を発行しました。しかし、これはバラマキであり事務局の「赤字」ということなので、解消しなければならないと決意しました。とはいえ、集めた地域通貨を全く支出しない訳にもいきませんので、多少はボランティアに支出しました。ただし、全額支出はせずに必ず手元に残す「黒字」の健全財政を目標としました。累積では絶対に黒字にはなりませんが、単年度の収支では黒字もあり得るため、妄想の目標が実現すると信じ込んだのです。その目標に向かって邁進し、やがて地域通貨は総て回収され、累積赤字も解消しました。ただし、地域経済は活性化どころか、停止しそうになりました。現実には日本円や民間通貨が使われて経済活動は続きましたが、財務省という地域通貨事務局は地域通貨と共に消滅しました。