平均寿命、平均年齢、平均死亡年齢-Grokと私の錯覚-

■ 3年前の記事の間違い-平均寿命の錯覚-

 平均寿命の記事はちょうど3年前にも書きました。

    ■ 平均寿命は恣意的か? - shinzorの日記

 この3年前の記事で、とんでもない間違いを書いていました。

 「平均寿命とは、1年間に亡くなった方の死亡時年齢を平均したものではありません。」と書いてあるものがありました。・・・しかし、・・・「1年間に亡くなった方の死亡時年齢を平均したもの」になります。

 

 いやいや、「平均寿命とは、1年間に亡くなった方の死亡時年齢を平均したものではありません。」で間違いありませんでした。平均は平均ですが1年間に亡くなった方の死亡時年齢の平均ではなくて、0歳の人が将来に亡くなる年齢の平均です。過去のある1年間の実測値の平均ではなく、100年を超える未来までの予測値の平均です。その予測は、現在の各年齢の死亡率が変わらず続き、年齢構成が定常状態に達した時のものです。Grokは錯覚していると指摘していながら、同じ錯覚を自分がしていました。

 平均寿命、平均年齢、平均死亡年齢、この3つは全く違うもので、実際に計算すれば違いはすぐわかります。ところが、なんとなく字面を見ただけの印象では同じに感じます。三年前の反省も兼ねて、以下に、字面では分からない3つの違いを文字にして整理します。そして、高齢者や若い世代の死亡が増えると、それぞれがどのように変化するか実際に計算して確かめます。

 

■ 平均寿命、平均年齢、平均死亡年齢の整理

 平均寿命、平均年齢、平均死亡年齢の定義は次の通りです。

  • 平均寿命:x歳の人が亡くなる年齢の平均値をX歳の平均余命といい、0歳の平均余命を平均寿命という。現在の各年齢死亡率を用いて計算する。
  • 平均年齢:ある集団に属する人のある時点における年齢の平均値
  • 平均死亡年齢:ある集団に属する人がある時点から1年の間に死亡した時の年齢の平均値

 2025年の平均を計算する場合の違いをまとめると次のとおり、全然違います。

  平均寿命 平均年齢 平均死亡年齢
対象者 2025年に0歳の人 2025年の生存者 2024~2025年の死亡者
年齢 上記の人が亡くなる年齢 2024~2025年に亡くなった生存している人の年齢

2024~2925年に亡くなった人の年齢

同左

時点、

期間

2025年生まれが全員亡くなるまでの期間 2025年 2024~2025年

人数、

生存数

2025年生まれがX歳になった時の生存数(予測) 2025年にX歳の人数 2024~2025年にX歳で亡くなった人数

使用

データ

2025年の各年齢死亡率(実績) 2025年の生存者数とその年齢 2024~2025年の死亡者数とその年齢

計算

概要

2025年に0歳の人が死亡した年齢の平均(予測) 2025年の生存者の年齢の平均 2024~2025年の死亡者年齢の平均

 

■ 若い世代の死亡が増えるとどうなる。

 前述のまとめからわかりますが、ここはちゃんと計算して確かめます。ただし、ほぼ5歳で死に絶える動物のような簡単な計算例です。

 

 示した計算例は若い世代(0~1歳)の死亡が増えた場合ですが、高齢者の死亡が増えた場合も含めて以下にまとめます。

  • 平均寿命はどの世代の死亡が増えても下がる。
  • 平均年齢は、若い世代の死亡が増えると上がり、高齢者が増えると下がる
  • 平均死亡年齢は、若い世代の死亡が増えると下がり、高齢者が増えると上がる。

 

 ここで、考えている死亡の変化とは、現時点の変化です。新型コロナ流行で高齢者の死亡が増えたというような変化のことで、高齢者以外は変化しないこともあり得るわけです。この変化は、ある1年間の平均年齢や平均死亡年齢の計算には、ズバリそのまま使います。高齢者の死亡数や生存数だけ減り、他の世代は変化しない場合の平均になります。

 しかし、平均寿命の計算は前述のとおり0歳の人の将来を含みますので、ある年齢で死亡が増え、生存数が減れば、その減少はその後も影響するわけです。死者が蘇らない限り。平均寿命の説明グラフのある年代で生存数が減ると、グラフが急勾配になります。つまり死亡率が上昇します。その後、死亡率が回復する年代になっても、死者は蘇らないので生存数は回復しません。

 したがって、グラフの下側の面積を0歳の生存数で割った平均寿命は、必ず下がります。

 

■ 何故、錯覚するのか

 一般的な平均値、例えば、10円、20円、30円の饅頭がそれぞれ5個、2個、4個あるときの平均の値段は、(10×5+20×2+30×4)/(5+2+4)=19.1円と計算します。饅頭の個数に特に条件はありません。ところが平均寿命の計算においては、饅頭の個数に相当する各年齢の生存数に、条件があります。各年齢の生存数は0歳の生存数から、その年齢までの死亡数を差し引いたもので、死亡数の合計は、言うまでもなく0歳の生存数です。

 単純で言うまでもない条件ですが、Grokは「平均寿命付近の死亡増加だけの場合:平均寿命はほぼ変わりません。」と言ってしまいます。

 

【05/20修正】表中の赤字修正しました。

 

 

 

 

 

AIは人間の錯覚を真似する-平均寿命をめぐって-

■ 前回の記事と同じ次の質問をGrokにもしてみた

 前回の記事で誰かが尋ねた質問に対してAIは間違えた回答をしました。AIもいろいろなので、同じ質問をGrokにしてみましたよ。

質問:「平均寿命を迎えた人が多く亡くなると平均寿命は下がるのか?」

回答

 どうも、質問が曖昧でしたね。「平均寿命を迎えた人」とは平均寿命以上の年齢の人という意味で尋ねたのですが、Grokは平均寿命付近の人だけと解釈したようです。どちらの解釈でも平均寿命は下がり、この記事の本質には影響しませんが、Grokは「平均寿命付近の死亡増加だけの場合:平均寿命はほぼ変わりません。」とやはり間違えました。

 多分、Grokも前回の記事で書いた「錯覚の原因③」に陥ってしまったのですよ。平均寿命とは、0歳児が将来死ぬ年齢の期待値(平均値)つまり将来の予測なのですが、Grokは、現在の人口構成の平均年齢と区別できていません。2025年の平均年齢は平均寿命よりかなり若い49歳程度です。この後、Grokの錯覚がどこから出てくるのか考えてみます。

 

■ Grokの錯覚

 先ず、平均寿命の復習です。ある年に生まれた100人が、0~1歳d1死に、1~2歳d2死に、・・・X~X+1歳dx死に・・・100人全員が死んだ場合Σ(X・dx)/100 が平均寿命です。ここで、X~X+1歳で死ぬ人数dxが変わると、それ以降の年齢で死ぬ人数も変わります。死ぬ人数の総計は100人と一定ですから当然です。

 例えば、80歳未満で死ぬ人数が60人、80~81歳で3人死ねば、81歳以上で死ぬのは37人です。ここで80~81歳で死ぬ人数が5人に増えれば、81歳以上で死ぬ人数は35人に減ります。

 AIは「平均寿命付近の死亡増加だけの場合:平均寿命はほぼ変わりません。」と回答しましたが、「平均寿命付近の死亡増加だけ」というありえないことをあり得ると錯覚してますね。

 

■ 錯覚の原因

 この錯覚の原因は、平均寿命の計算に用いる「生命表」の「定常人口」をある年(例えば2025年)の人口構成の「人口」と誤解しているためだと思います。ある年の人口構成のある年齢層の人口だけが減ることはありえます。その年齢が平均年齢の49歳だったとすると、平均年齢は変化しません。しかし、平均年齢以上の人だけ減ると、平均年齢は下がり、平均年齢以下の人だけ減ると、平均年齢は上がります。それに対して、平均寿命の方はどの年代の死亡が増えても、下がります。

 仮想的に平均寿命80歳付近の人だけ致命的に影響する病が今年流行ったとします。今年は80歳付近だけ人口が減り、他の年齢は減りません。この流行が今年だけなら人口減は上の年齢に移動していき、やがて現在80歳の人が全員死に絶えて元にもどります。しかし、流行が続き定常化すると、人口構成も定常状態に至ります。その定常状態での年齢の平均が平均寿命です。定常年齢というネーミングの理由をAIは知らないのでしょう。

 

■ AIは人間並みに錯覚できるように進化した

 人間はいろいろ錯覚しますが、その多くは古い時代の環境では生存に有利であったため淘汰されず残ったもの、つまり進化の結果です。

 生成AIの仕組みは全く知りませんが、「大量のデータからパターンを学習し、その知識をもとに新しいコンテンツを生み出せる」と解説されています。この「大量のデータ」には人間の錯覚も含まれているなら、AIは人間と同じような錯覚ができるように進化したと言えるかもしれません。

 ただし、人間がパターン学習した古い時代の環境では生存に有利だった錯覚も環境の変化で不利になったものも数多くあります。平均寿命の錯覚もその一つです。多分。

 

【補足】Grokの回答をよく見たら、平均寿命が下がるのは若い世代の死と言っているので、平均年齢と勘違いしているわけでもなさそうですね。若い世代(平均年齢より若い世代)の死は、平均年齢を上げますからね。

結局、どのように考えているのか分かりませんが、辻褄が合わない錯覚とはそういうものですね。平均寿命と平均年齢と他にもよくわからない概念がゴチャゴチャになっているのかな?

 

【補足の2(2026/5/17)】Grokの錯覚(気持ち)が分かってきました。若い世代の死が増えると、平均年齢は上がりますが、平均死亡年齢は下がります。平均死亡年齢と平均寿命の混同かな?

AIに騙される人

■ AIの珍回答

 「平均寿命を迎えた人が多く亡くなると平均寿命は下がるのか?」とAIに尋ねた人がいました。新型コロナ感染に関連した質問のようです。AIの回答は、「基本的に下がりません」と出鱈目ですが、錯覚は誰でも起こすものなのでこの記事を書きました。「錯覚」はこのブログのテーマです。

AIの回答

 その前に、先ずAIの間違いを片付けてしまいます。

 図1は平均寿命の説明図です。平均寿命とは0歳の平均余命のことで、x歳の平均余命は、x歳の人が死ぬまでの年数の平均値です。0歳児についての将来の予測であって、 現在の人口構成の平均年齢ではありません。誕生した人が徐々に亡くなって減っていく状況を予想したものです。

 これに対して、年齢構成から計算した平均年齢は49歳程度にしかなりません。ただ、平均寿命は将来の予測ですが、死亡率は現在の統計値を使っています。そうしているのは、他に手立てはないからで、現実には違ってくる可能性は多いにあります。その一例が新型コロナ流行による、死亡率増と平均寿命低下です。

 平均寿命は図1の曲線の下側の面積T0を0歳の生存数l0で割った値です。高齢だろうと若かろうと死亡率が増えれば、曲線は下にへこみ面積は減ります。つまり、平均寿命は下がります。AIの回答を採点すると、0点です。



■ 錯覚の原因①:平均寿命を直感的にしか理解していない点を突く

 ここからが本論の錯覚の原因です。AIは、「直感的な説明」として次のように雑な説明を始めます。

・多くの人が「平均寿命の年齢」に達して無くなる。

 →それは平均通りの死亡が起きている状態です。

・平均を下げるには、若い年齢での死亡(早期死亡)が増える必要があります。

・高齢になってからたくさん亡くなっても、それは「平均を達成」しただけで平均値を引き下げません。

 クラスの算数のテストの平均値は、上位の優等生の点数が下がっても平均を引き下げない。と言われれば、誰も相手にしないでしょう。でも、何だか難しそうな平均寿命では「そうかも」と騙される人がいるかもしれません。

 平均寿命は、l0人の0歳の生存年数の平均値に過ぎません。年齢にかかわらず誰かの生存年数が縮まれば、平均寿命は下がります。

■ 錯覚の原因②:全貌を見せず、視野を狭める

 全貌が分かりやすい図を見れば、AIが妄言を発しているのは一目瞭然ですが、表現を変えて局部に意識を誘導すれば騙される可能性が大きくなります。「直感的な説明」文がその一例ですが、私も別の方法を考えてみました。

 下表は、平均寿命を計算する「生命表」の超簡略版です。この例の上の表では、0歳から70歳まで一人も死にません。70歳から80歳までに半数の50人、80歳から90歳までに残り半数の50人が死にます。平均寿命は80歳になるのは計算するまでもなくわかると思いますが、ちゃんと計算しても80歳です。

 ここで恐るべき感染症が襲い、80歳以上の高齢者が90人死ぬ事態になりました。この状況が下の表で、平均寿命を計算するとなんと84歳に上がりました。この説明に騙された人は、表に黄色でマークした「50」→「90」の変化だけ見てしまったのではないでしょうか。その上の欄もちゃんと見ると、70歳から80歳の死亡は10人に減っています。

超超簡略 生命表

 表を全体が見えるグラフにすると分かりやすくなります。図2の平時が黒線で、嘘パンデミックが青破線です。青破線では、70歳から80歳の死亡がパンデミックのおかげで減っています。非現実的ですね。よりあり得る設定として、感染症が平均寿命80歳より若い人には何ら影響を与えず、80歳以上の死を早めた状態が赤破線です。この場合、80歳以上の死亡は50人で変わりませんが、死期を早めるので、平均寿命はe''0 に下がります。当たり前ですが。

■ 錯覚の原因③:目の前の現実は見えるが、将来の予測は錯覚しやすい

 平均寿命は0歳児についての将来の予測ですが、将来はイメージしにくく、今見ているものだと錯覚してしまうのではないでしょうか。感染症流行で多くの人が亡くなり、死亡率が上がると、現在の年齢構成が変化します。その変化した年齢構成の平均年齢が平均寿命と錯覚するのではないでしょうか。若齢者が多く亡くなり、高齢者ばかり生き残ると、現在の平均年齢は上昇します。あるいは、高齢者の減少以上に若齢者が減っても平均年齢は上昇します。しかし、平均寿命は必ず低下します。現在、見えている現象に人間の理解は左右されやすいのかも。

  

(補足)生命表と平均寿命の説明 

平均寿命の計算方法は、下記に説明がある。 

www.mhlw.go.jp

 厚労省の説明では、積分で表現してあるが、年齢も生存数も連続量ではないので、l0人の0歳の生存年数の平均値(Σx/l0)と考えた方が分かりやすい。

「男性への性転換手術」

 タイトルの「男性への性転換手術」の意味は、次のどちらでしょうか?

 

1.女性が男性になる手術

2.男性が女性になる手術

 

 「への」は、方向行き先目指す先・辿り着くを所などを示します。問題はこの行き先です。手術した結果と解釈すれば1.の意味ですが、手術する対象と解釈すれば2.になります。

 

 実際の図書で似たような例があり、指摘を受けました。2.の意味だったので、修正しました。タイトルの文なら次のように修文です。

 

 「生まれは男性の性転換手術」

 

日本語ではよくありますね。

 

「私は酒は飲む。」

 

ameblo.jp

 

■ 「は」の重複

私は、酒は、飲む。

 この文をワードに入力すると、表現の推敲に引っかかって二重アンダーラインが付けられてしまいます。右クリックすると「助詞の連続」と表示されます。文法的に間違いではないと思いますが、稚拙というか違和感がありますね。何故でしょうか。主語(正しくは主格)が二つあるからと考える人がいますが、少なくとも、「酒」は主語ではありません。「酒」は、「飲む」の対象ですからね。主語にするなら「酒は飲まれる。」でしょう。

 

■ 題説構文

 一方、「私が酒を飲む。」なら至って普通の叙述構文です。また「私は、酒を飲む。」や「酒は、私が飲む。」という文も普通です。後の二つの文は、題説構文と言われます。「私は」や「酒は」は、主格ではなく題目部で、係助詞「は」で示されます。その後に題目についての解説部が続きます。

 

 題説構文は、自問自答のようなものです。「私について解説すると酒を飲む奴なのだ。」や「酒について解説すると私が飲むものだ。」という意味合いです。「私は、何を飲むのか。」への答えが「酒を飲む。」であり、「酒は、誰が飲むのか。」への答えが「私が飲む。」です。逆だと回答になりません。

 

 つまり、質問の対象が、題目部で、回答が解説部で示されます。題目部の「私」が誰なのか読者は知っていますが、解説部では、新しい情報が示されます。

 

■ 稚拙に感じる理由

 以上の題説構文と叙述構文の分類は、一つの学説で、異論もあるようですが、これを前提にすれば、「私は、酒は飲む。」が稚拙に感じる理由を次のように説明できそうです。あくまで私見ですが。

 

1.文型からすると、「私は」と「酒は」に対する解説部(回答)は、「飲む」だけで、回答として不十分。

 

2.意味的には、「私は」に対する回答は、「酒を飲む。」で、「酒は」に対する回答は、「私が飲む。」と解釈できないこともないが、助詞「は」を「を」に変えたり「が」に変えることになる。

 

3.つまり、題説構文の文型と意味の解釈が整合していないので、言いたいことは分かるが、どこか稚拙な印象になる。

 

4.なお、「私は、彼は、酒を飲む。」の場合は、二つの題説部に対する解説部が全く同じである。文型と意味の解釈は整合しているが、普通は、「私と彼は、酒を飲む。」と言う。「私は、彼は、…」では、並列の助詞「と」をうまく使えないような稚拙さがある。

「私は酒は飲む」の場合は、「私と酒は飲む」とは、できないため、稚拙さが多少減る。

 

■ 読みにくい

 文型と意味は整合しており、稚拙ではないものの、すこしばかり読みにくい次のような例もあります。この例は、よく見かけます。

 

飲み物は、私はコーヒーで、彼は紅茶だ。

 

 これは、複題説構文とでも呼べます。

 

 ただし、二つの小解説部を読み終わるまで大題目部を覚えていなければならないので分かりにくいです。次の様にするか、文を分けると脳の負担が減って読みやすくなります。

 

私の飲み物は、コーヒーで、彼の(飲み物)は、紅茶だ。

私は、コーヒーを飲み、彼は、紅茶を飲む。

 

 前者の題目は「飲み物は」であり、後者の題目は「私は」と「彼は」となります。

 

 まあ、この程度なら覚えられますが、3段階、4段階と更に複雑になると記憶の負担が大きくなります。

 

飲み物は、私は、朝はコーヒー、昼はココア、彼は、朝は、紅茶、昼は、緑茶だ。

 

 「飲み物は」の解説を期待して読んでいるのに、新しい「題目部」が次から次に出てきて「あれれ」とつんのめります。

追加被ばくが0なら、追加リスクは0である

 前の記事でも述べましたが、INWORKS研究の図1で蓄積結腸線量が0なのに相対リスクが1.0にならないのはどう考えてもおかしいです。原因となる線量が増えていないのにリスクが増えるという奇妙な結果が得られたのは何故でしょうか。

 

 可能性としては、放射線以外のリスクを追加放射線によるリスクと誤認したのかもしれません。この誤認の原因を以下に説明します。あくまで推測です。

 下図は、自然放射線も含む総累積線量とがん死率の関係を示しています。がんは放射線以外の原因、自然放射線、追加放射線(事故等)によって発生します。放射線以外の原因、自然放射線によるがん死率に対して追加放射線を含むがん死率の比率が相対リスクです。

 相対リスク1.0のところがA点ですが、自然放射線160mSvやがん死率30%は変動しますので、関係曲線上を移動します。さらに放射線以外によるがん死率も変動するので、関係曲線自体が上下に移動します。この変動は確定できないのでA点の位置は不明です。 

 図にはA点をがん死率30%としていますが、放射線以外の原因によって31%に増える程度の変動は普通にあります。31%に増えても、追加累積線量は0なので、相対リスクは1.0です。これを混乱して、31/30=1.03としてしまった可能性があります。

 INWORKS研究のグラフを追加線量0で相対リスク1.0になるように修正すると、ICRP勧告による推定値とそれほどの差はなくなります。いずれにせよ、約30%のがん死率には数%の変動があるのに、低線量追加放射線の0.5%以下の影響を詳細に調べる意味がどれほどあるのでしょうかね。

 

「国際核施設労働者調査(INWORKS)の最新報告」への疑問

■従来の知見を覆す報告

 原子力情報資料室のサイトに「国際核施設労働者調査(INWORKS)の最新報告~低線量率・低線量被曝の健康リスクがさらに明らかに~」という記事が掲載されています。菊池誠さんと鴨下全生さんの4時間余の対話で言及された報告です。

cnic.jp

 この報告が正しいのか報告そのものを読んでいない私には分かりませんが、この報告が正しいとすると今までの放射線防護を大幅に見直す必要がある内容だと思います。最初にこの報告を知った時は、疫学的に確認が困難だったLNT仮説を確認しただけと思いましたが、違っていました。なんと低線量域の方が、影響が大きいというLNT仮説を否定するものでした。図1がその結果で、従来の図2とは異なります。傾きの異なる二本の直線で近似できそうで、少ない量の方が大きな影響がある範囲があります。かつての環境ホルモンを思い出しました。

 なお、図1は、縦軸の相対リスクが0からではなく0.8から描かれていることに要注意です。追加線量によるリスク増が強調されています。

■疑問1 等価線量と吸収線量

 報告そのものは読んでいませんが、原子力情報資料室の記事だけみるといくつか疑問があります。先ず、等価線量(シーベルト)ではなく吸収線量(グレイ)を使っていることです。両者はほとんど同じですが、等価線量は臓器への影響による重み付けをしている違いがあります。死因のがんの種類に偏りがあれば結果に影響しそうですが、この点は大した影響ではないかもしれません。

 

■疑問2 低線量のリスクが大きい

 第二の疑問は、従来から疫学的に確認できていたはずの100mGyから200mGyの影響も大きくなっていることです。今まで疫学的に確認できなかった100mGy未満を確認したというだけでなく、従来と異なる影響を確認したという報告なのです。少なくとも、どちらかが間違っていることになります。どちらが間違っているか私には分かりませんが、仮にこの報告が正しいなら、追加線量は少ないほど良いとはならず、影響が最小になる範囲にすべきとなってしまいます。ラドン温泉俗説みたいに、適度に放射線を出す原発が健康によいとは思えませんが。

 そして放射線防護上非常に厄介なことになります。追加線量は少ないほど良いのではなくなり、200~300mGy程度に維持する必要が出てきます。あるいは完全に0にするかです。ところが、グラフを見ると、追加線量0で相対リスク1.0に向かっているようには見えません。追加線量0の時の相対リスクは1.0ですから、低線量部分のグラフはかさ上げされてしまっている疑いも出てきます。

 

■疑問3 追加線量のリスクを分離できるのか

 最後の疑問は、本当にこんな低線量の影響を疫学的に確認できるのかです。数十万人の労働者を追跡調査すれば0.5%以下のがん死亡の増加全体は検出できるでしょう。それが原子力情報資料室の記事で強調されていることでもあります。しかし、それはバックグラウンドと追加線量による死亡の合計です。バックグラウンドのがん死割合は数%の変動があります。追加線量による0.5%未満の死亡率の増加は変動にかくれて見えないのではないでしょうか。

 同じことがグラフの横軸にも言えます。追加累積放射線量が正確に把握できるのでしょうか。バックグラウンドの線量も結構変動します。線量バッジで個人の被曝を計測してもそれには変動する自然放射線も含まれており、追加線量だけ分離することができるのでしょうか。

調査人数を増やせば相対リスク(がんによって死亡する人の割合)は精度よく計算できるでしょう。しかし、その相対リスクにはバックグラウンドと追加線量によるものがあって、追加線量による追加相対リスクは、バックグラウンドの変動よりはるかに小さいですからね。