- 悲惨なアンケート結果
「眠り姫問題」は確率の問題としては単純ですが、あいまいな問題文をあいまいと感じさせずに混乱した解釈に引き込む問題だと思います。
そこで、事前確率を尋ねられていると感じるのか、条件付確率を尋ねられていると感じるのか、それとも、特に意識しないのか、問題の設定によってどのように感じ方が変化するかを確かめようとツイッターのアンケートをしました。しかし、残念ながら、フォロワーがわずかしかいない零細アカウントのためカウンターはゼロのままでした。初めてアンケート機能を使いましたが、フォロワー数が私より二桁ほど多いアカウントの人が使うものですね。恥をかいてしまいました。
問1研究所での実験。コインを投げ表なら、クローン目覚め姫1体とクローン眠り姫1体を、裏ならクローン目覚め姫2体を培養する。クローン目覚め姫にコインが表だった確率を尋ねると何と答えるか
— zorori (@zorori_hshinz) 2021年4月3日
問2 研究所での実験。コインを投げ表なら、もう1回コインを投げ2回目が表ならクローン目覚め姫を、2回目が裏ならクローン眠り姫を培養する。1回目が裏ならクローン目覚め姫を培養する。たまたまの来客がクローン目覚め姫を見かけたので、コインが表だった確率を尋ねると何と答えるか
— zorori (@zorori_hshinz) 2021年4月3日
問3 おもちゃ工場で、コインを投げ表なら、目覚め姫人形1体と眠り姫人形1体を、裏なら目覚め姫人形2体を生産する。作った人形から1体を抜き出したら目覚め姫人形だった。コインが表だった確率はいくら
— zorori (@zorori_hshinz) 2021年4月3日
問4 おもちゃ工場で、コインを投げ表なら、もう1回コインを投げ2回目が表なら目覚め姫人形を2回目が裏なら眠り姫人形をつくる。1回目が裏なら目覚め姫人形を生産する。作った人形が目覚め姫人形だった。コインが表だった確率はいくら
— zorori (@zorori_hshinz) 2021年4月3日
眠ると存在しなくなる異世界バージョン
— zorori (@zorori_hshinz) 2021年4月3日
問5 おもちゃ工場で、コインを投げ表なら、目覚め姫人形1体を、裏なら目覚め姫人形2体を生産する。作った人形が目覚め姫人形だった。(それ以外の可能性はないが)コインが表だった確率は
眠ると存在しなくなる異世界バージョン
— zorori (@zorori_hshinz) 2021年4月3日
問6 おもちゃ工場で、コインを投げ表なら、目覚め姫人形Aを、裏なら目覚め姫人形Aと目覚め姫人形Bの2体を生産する。作った人形が目覚め姫人形Aだった。コインが表だった確率は
予想では、問1、問2は1/2の回答、問3、問4は1/3の回答が多いと思いましたが確かめることはできませんでした。問1は寝覚め姫視点、問2から4は第三者視点の違いがありますが、基本的に同じ問題を違う表現にしただけです。
なお、問5、問6は、眠った眠り姫が存在しなくなる異世界バージョンです。「眠り姫問題」では眠っている(コインが表で火曜日)出来事が無視されやすいため、それならと、最初から存在を消してしまったものです。このケースでは、最初から寝覚めている3つの出来事しかありませんので、寝覚めて質問を受けていることは、範囲を狭める条件にはならず、問5は、事前確率を尋ねていることになります。問6は問5と同じ設定で月曜日という条件付き確率を尋ねています。「眠り姫問題」の問3に対応しています。この場合、コインが表の確率は2/3になりますが、別にパラドクスとは感じないと思います。「眠り姫問題」でパラドクスが起こったと混乱するのは、別の問題である問1から問4と問5、問6が頭のなかで区別できずに混じってしまったためでしょう。
- いくつかのタイプの確率問題
確率は0~1の分数です。確率の問題は、言語で表現した設定から、分子と分母をどのような数にするのが妥当かを問いかけます。言語表現の解釈が明確に定まる場合でも、誤解釈はあり、その代表例が「モンティ・ホール問題」です。誤解釈に気づくのが難しい場合、大論争になりますが、いずれ決着します。
また、解釈が定まらず、それが分かりやすい場合は、あいまいな問題だと誰もが考えるので、問題の不備とされて終りです。分かりにくい場合は違う解釈をする者の間で大論争になります。この場合はそれぞれの立場の者は自分の解釈に自信があるので、別の立場の解釈もあることに気づかないと論争は決着しません。どちらかが間違っているわけではないからです。違う問題について考えているのに同じ問題だとお互いに勘違いしている状況です。設定に不備のある「もう一人も女の子の確率問題」がこの例です。
以上とはまた一風変わった「眠り姫問題」は、あいまいな問題の異なる解釈が一人の人間の頭の中でせめぎあう面白い例だと思います。どちらかの立場に決めてしまえばスッキリしますが、なかなかそうは割り切れない非現実的な設定になっています。二つの立場は両立しませんのでパラドクスに思えます。現実的な設定にするとどちらかの立場に落ち着くのでパラドクス感は消えますが、あいまいな設定が残っていれば、違う立場との論争は続きます。
アンケート問1は「眠り姫問題」とほぼ同じ非現実設定で、なおかつ眠り姫視点なのでパラドクス感が強くなります。問2は第三者視点なので問1とは違う問題だと感じる人もいるようですが、寝覚めた眠り姫と第三者に与えられた情報は全く同じです。問3と問4は現実的設定でパラドクス感はありませんが、違う立場での決着のつかない論争はあるかもしれません。
- 多義図形、不可能図形
錯視の一種に「多義図形」、「不可能図形」があります。
多義図形の中でも、だまし絵タイプでは片方しか見えない場合があって、別の見え方をする人と論争になったりします。不可能図形はパラドクスのような不思議な印象があります。この言語版が「眠り姫問題」ではないでしょうか。立体を平面上に表現すると情報が不足するので二通りの解釈ができるように、現実の出来事を言葉で表現すると二通りの解釈が可能になる場合があります。日常会話でも「そういう意味じゃなくて」という場面はよくあり、お笑いのネタにもなっています。また不可能図形は先入観のため不可能に見えるのですが、実際に立体として作ることもできます。これに対応しているのが問6です。下記のリンク先の説明を参照してください。不可能に見えるのは「連続している」、「平面である」、「直角である」と勝手な先入観があるからで、「非連続」、「局面曲面」、「非直角」にしてしまえば不可能図形立体が出来上がります。