久しぶりの「眠り姫問題」ー なぜパラドクスと錯覚するのか

■ 錯覚

 「眠り姫問題」について、久しぶりにツイッターでやり取りしていて、初歩的な錯覚をしてしまいました。

 「今日が月曜なら、表の確率は・・・」と「今日が月曜でかつ表の確率は・・・」を良く読まずにうっかり同じと書いてしまいました。前者は、月曜という条件を満たすケースのうち、表のケースの割合で、後者は、すべてのケースのうち、表かつ月曜のケースの割合です。全く違いますが、言葉で表すと違いが見えにくくなります。ちゃんと読めばいいのですが、粗忽者の私は、頻繁にこういう錯覚をします。

 言葉では曖昧になるときは、図解がよいので、条件付確率の説明でよく使う四分表と八分表で表してみました。なお、表には青字かっこ書きもありますが、それは後で説明します。とりあえず無視してください。

「今日が月曜なら、表の確率」は、

(①+③)/(①+③+⑤+⑦)=1/2

で、「今日が月曜でかつ表の確率」は、

(①+③)/(①+②+③+④+⑤+⑥+⑦+⑧)=1/4です。

 図表と、式で表せば明瞭に違います。ところが、言葉で表したものが、図表と式ではどうなっているのか、私は明確に意識していなかったようです。これでは、混乱しますね。

 

■ 眠り姫問題の仕掛け

 眠り姫問題には、私がした錯覚と同じような錯覚を引き起こす巧妙な仕掛けがあると思います。私が最初に読んだバージョンには、次のようななお書きがありました。

なお、コインを投げるのは日曜でなくとも、眠り姫が答えた後でも問題の設定に影響しない

 私は、目覚めという条件付き確率の問題だと思っていたのですが、そこへ、コインを投げるのは、眠り姫が眠りにつく日曜日でも、目覚めた後の月曜でも、どちらでもよいのなら、事前確率と同じ1/2だと思ってしまいました。今から投げるコインの表が出る確率は当然1/2です。それは全く正しいのですが、眠り姫が尋ねられた質問はそれとは違います。眠り姫が質問を受けるのは火曜の場合もあり、その場合は既にコインは投げられていて裏なんです。そして、眠り姫には月曜なのか火曜なのかわかりません。

 コインを投げるのは日曜でも月曜でも、問題の設定に影響しないのは確かにその通りです。しかし、設定に影響しないだけで、「目覚めている」という条件と「月曜日に目覚めている」という条件は違います。

 この仕掛けに嵌り、1番目の質問「目覚めたとき、表の確率は?」に1/2と答えると、2番目の質問「月曜に目覚めたとき、表の確率は?」で混乱します。1番目の質問の答えが、事前確率と同じ1/2と考えてしまうと、目覚めている場合の裏の条件付き確率も1/2になります。そして、目覚めていて裏の場合には、月曜と火曜がありますので、月曜に目覚めて裏の確率は、半分の1/4になります。すると、月曜で目覚めという条件での表の確率は、(1/2)/(1/2+1/4)=2/3になってしまいます。月曜という条件がつけば猶更、事前確率と同じ1/2になるはずなのにならないので、混乱してパラドクスと感じてしまいます。私がまさにそうでした。一方、最初の仕掛けに引っかからなければ、1番目の問は1/3、2番目の問は1/2と答えてパラドクスとは感じないのではないでしょうか。

 ここで、八分表でそれぞれの確率を再確認しておきます。

表である事前確率:P(表)

=(①+②+③+④)/(①+②+③+④+⑤+⑥+⑦+⑧)=1/2

目覚めの場合に表である条件付き確率:P(表|覚)

=(①+②)/(①+②+⑤+⑥)=1/3

月曜で目覚めの場合に表である条件付き確率:P(表|覚⋀月)

=(①)/(①+⑤)=1/2

 

■ 曜日の条件は無視されやすい

 眠り姫問題には、表か裏か、月曜か火曜か、目覚めているか寝ているかの3つの条件があり、8つの可能性の八分表に表せます。問われているのは、目覚めている場合のコインが表の確率です。この条件のうち曜日はどうも無視されやすいようです。月曜も火曜も同じ眠り姫の経験する事象なので、裏月と裏火を二つの事象と考えにくいのです。仮に、一つの事象と考えるならば、表月と表火も一つの事象と考えなければ首尾一貫しません。ところが、表月は目覚めていますが、表火は寝ていますので、この事象は目覚めか睡眠か決められません。「目覚めている時に表である確率は何か」という問題自体が成立しなくなります。

 私も最初は、八分表ではなく、曜日の条件のない四分表で考えました。すると、P(表∧覚)、P(裏∧覚)、P(表∧眠)を、1/4、1/2、1/4にすべきか1/3、1/3、1/3にすべきかで混乱しました。その後、八分表で考えて、表裏の事前確率が1/2ならば、前者になり、後者は表の事前確率が2/3になることが分かりました。表の青字かっこ書きは後者の立場を示しています。

■「哲学」は要らない。

 眠り姫問題主観確率やら人間原理を持ち出して哲学的に解説する人もいます。そういう立場を全く否定するわけではありませんが、私には理解できませんし、必要性も感じません。

 そんなことを考えなくても、眠り姫問題は、「表裏」、「覚眠」、「月火」の3つの条件の八分表を作れば簡単に解けます。特に、3つの条件が互いに独立ならば、3つの事前確率を掛算するだけで、八分表のマス目は埋まり、そこから条件付き確率も計算できます。実際の眠り姫問題の3つの条件は独立ではありませんが、問題の設定を満足するように、八分表を埋めればよいだけです。

 

■ まとめ

 眠り姫への質問は次の3つです。

 

問1:「いまは日曜日、実験開始直前である。場合 A(表) である確率は?」

問2:「さあ、あなたは目覚めた。場合 A(表) である確率は?」

問3:「さあ、あなたは目覚めた。今は月曜日である。場合 A(表) である確率は?」

 

 問1に1/2と答えたなら、問2は1/3、問3は1/2ですし、問1に2/3と答えたなら、問2は1/2、問3は2/3です。混乱して、これらが入り混じってしまうと矛盾、パラドクスに陥ります。ここまで述べたことをまとめると以下の通りです。

 

  • 月曜日と火曜日を一つの事象と考える立場では、眠り姫問題が成立しない。
  • コインの表の事前確率を1/2と答える立場なら、問2は1/3。
  • コインの表の事前確率を2/3と答える立場なら、問2は1/2。
  • コインの表の事前確率を1/2と、問2に1/2と答える立場は矛盾し、パラドクスに陥る。
  • 問2も問1と同じ事前確率を尋ねているという立場なら、問2は1/2か2/3。ただし、問題の様々な設定は無関係とする、つまらない立場である。