「眠り姫問題」で記憶が無くなるのは、曜日情報不明というだけ

■ 条件付確率の条件は、因果関係の原因でも、順序関係の先でもない

 前の記事は、数式が多すぎました。数式を追わなくても、八分表をみればわかる簡単なことですが、今回は、できるだけ言葉で、何故「眠り姫問題」は錯覚しやすいのか説明してみます。

 条件付き確率では、「Aが起きる場合に、Bが起きる確率」も「Bが起きる場合に、Aが起きる確率」も考えます。このことからも、AとBには因果関係も順序関係もないことは明白です。例えば、感染症検査で「陰性の場合に感染している確率」は、感染の事前確率より小さくなるのが普通ですが、陰性になった結果、感染しにくくなったのでないのは言うまでもありません。感染していなければ陰性になりやすいので、陰性者の中の感染者は少ないということ以上の何も意味しません。これに異論を唱える人は稀だと思います。

■ 眠り姫問題は、条件付き確率と考えにくい

 眠り姫問題も「目覚めた場合に、コインが表の確率」という条件付確率を問われていると考えれば、簡単に答えられます。表であれば、実験者が裏の場合の半分しか起こしてくれないので、目覚めた場合に、表で有ることが少なくなります。そのため、表の確率が1/3になるのは何の不思議もないのですが、そのように考えにくいのです。「目覚め」を条件付確率の条件と考えにくいのです。何も条件は付いておらず、表の事前確率と同じ、と考えてしまうのです。何故なのでしょうか。

■ 眠り姫問題は、多数回試行で数える対象を錯覚する

 感染症検査問題と眠り姫問題には、設定に微妙な違いがあります。検査問題では、多数回試行で考えやすくなっていて、一人の確率を考える代わりに、大勢の検査で考えることができます。例えば、感染の事前確率1/2だと、1000人が感染し、1000人が感染していない集団と考えることができます。この集団を検査すると、非感染者は1000人全員が陰性になり、感染者は500人が陽性、500人が陰性となるとします。この例では、陰性の場合の感染の確率は500/(1000+500)=1/3と困難なく考えることができます。

 一方、眠り姫問題では、「表が出た500人の眠り姫と裏が出た500人の眠り姫がいる」というところまでは考えやすいです。しかし、その後、「表が出た500人は1回だけ起こし、裏が出た500人は2回起こす。起こされた場合に表である確率は」と問われた時、500回/(500回+500回+500回)と考えにくくなっています。回数ではなく、500人/(500人+500人)と人数で数えたくなります。記憶を失い別人格になったようでも、1人の眠り姫が2回起こされただけですからね。

■ 記憶が無くなる設定は、なくてもよい

 しかし、記憶を無くさなくてもよいのです。記憶を失わないならば、起こされたときに眠り姫には曜日が分かるので、月曜日なら1/2、火曜日なら0と答えられます。そして、月曜日に答えるのは1000人で火曜日に答えるのは500人ですから、平均は、(1000×1/2+500×0)/(1000+500)=1/3です。記憶をなくす代わりに、表の確率の平均値を問う問題にすればよいです。

 ただ、「確率の平均値」は、問題文に簡潔に表現しにくいのですね。眠り姫問題では、記憶をなくすという非現実的設定によって、曜日の情報を消し去って、月曜と火曜の平均を問う問題になっています。

■ 「眠り」は、条件だとすぐにわかる

 眠り姫問題にはさらに考えにくくする仕掛けがあります。「寝ている場合に、コインが表である確率は」という問を考えさせないようになっています。考えてしまったら、「コインが表の確率は1」と簡単に分かってしまいますからね。眠っている眠姫には、尋ねられないという点をうまく利用しています。

 記憶が無くなる設定は、曜日情報がないとして考えよというだけのことです。主観確率やら人間原理やらは不要です。