豊洲市場の地下水の浄化が過剰になった馬鹿みたいな原因

 豊洲市場の2月の地下水調査が発表されました。「ベンゼン依然高く基準の130倍検出」との見出しで報道されていますが、一部の人を除き、それほど話題にもなりません。

 話題にもならないのは、「基準」と言っても、飲料水並みの水質を求めるものだと周知されたからだと思います。それにしても、豊洲市場建設にあたって、何故、かくも過剰な目標を設定したのでしょうか。それは、環境基準を読み解いていくとなんとなくわかってきます。実に馬鹿みたいな原因が浮かび上がってきました。

 環境基準とは何かについて、環境省は次のように説明しています。

 人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準として、終局的に、大気、水、土壌、騒音をどの程度に保つことを目標に施策を実施していくのかという目標を定めたものが環境基準である。

 つまり、水道水水質基準のような、守らなければならない最低基準ではなくて、将来の目標値です。現状では達成出来ていないので、将来目標として掲げているわけです。なんというか、目標値に「基準」とネーミングするのは不適切です。このネーミングも過剰対応の一つの原因だと思いますが、まだ不足です。さらに、環境基準を詳しくみていくと、もっと単純な原因が見えてきます。

 環境基準にもいろいろあり、対象には、大気汚染、騒音、水質、土壌があり、そのそれぞれに付いて、「人の健康の保護」と「生活環境の保全」のための基準に分かれています。(分かれていないものもあります。)そのうち、水質関係の一覧を下図に示します。

 ご覧になれば分かる通り、「人の健康の保護」と「生活環境の保全」で定めている物質は全く違います。「生活環境の保全」の方は、利用目的によってさらに分かれ、工業用、水道、水産などがあります。水道というのは水道の源水の意味でそのまま飲めるという意味ではありません。一方「人の健康の保護」は、説明はありませんが、厚労省の定める水道水質基準とほぼ同じなので、そのまま飲用する場合を想定していると推測できます。

 豊洲市場の場合、地下水は飲料用はおろか、一切利用しませんので、浄化目標としては、当然、「生活環境の保全」でも十分すぎるくらいです。ところが、地下水については「人の健康の保護」しかありません。「人の健康の保護」があるのは、井戸からくみ上げて、そのまま飲料水にすることがあるためだと思いますが、「生活環境の保全」がないのは何故でしょうか。多分、河川や海域のように、目に触れませんし、直接的な生活環境ではないということでしょう。井戸水として利用しない限り、汚水が流れていても生活環境には影響しそうにないからです。

 河川などの水質汚濁の告示が昭和46年なのに比べて地下水の告示は平成9年とはるかに新しいです。河川などでは、水質汚濁による、異臭発生、水産物被害、水浴不能、景観悪化などの生活環境上の問題が昔から、実際に生じています。それに対して、地下水では井戸水が飲めなくなるぐらいの問題しかありません。「生活環境の保全」上の問題は現実には発生していないのでしょう。

 以上は、私の解釈で環境基準の説明を読んでも書いてありません。書いてないということは、私と違う解釈をする人もいるでしょうし、そもそも解釈などせずに、機械的に不適切な適用をされてしまうかもしれません。豊洲市場がまさに、機械的に不適切な適用をしてしまった実例と私は思います。地下水の基準は飲料用しか存在しないので、それを使っただけじゃないでしょうか。

 豊洲市場の周囲は東京湾です。海域の「生活環境の保全」の環境基準には、ベンゼンもシアンも、水銀もありません。湾内は整備不良の船舶も航行しており、燃料やオイルが漏れているかもしれません。強風時には波の飛沫が市場に降りかかります。地下水のベンゼンを気にする人ならば、こっちの方が心配で夜も眠れないはずなのですが、そういう指摘は皆無です。食の安全の心配なんて、本当にしているんでしょうかね。約束は約束だと、高利の利息の取り立てをしているようなものではないかと。