陰謀論の誘惑

豊洲市場の地下水「有害物質」基準超え 仲卸業者激怒、専門家は「理解できない」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170114-00000004-jct-soci&p=1

 豊洲市場の最終モニタリングで,環境基準の79倍のベンゼンの他シアンなども検出されました。また,環境基準越えの個所も大幅に増えています。8回までの結果とあまりに違いすぎるため,専門家会議の委員も戸惑っています。今までは,実質的な危険性はないことについてあまり発言してこなかった平田座長が珍しく次のように言っていることからも当惑がうかがわれます。

「(市場関係者は)地下に汚染があることによって、豊洲市場のブランドに影響が出ないかということを心配されている。科学的に見れば、土壌汚染対策法上では何の問題もないのですが、一般の消費者に納得して頂くのは難しい。安心のために、地下水の調査を続けています」

 一方,環境資源システム総合研空所の浦野紘平所長は,今までの分析値が過少評価されていた可能性を疑っています。分析会社とサンプリングする人が変わったからその疑いが高いと述べています。
https://jcc.jp/news/11797117/

 また,仲卸業者さんも,以前の調査を疑っています。

 「東京都さん、申し訳ないんですけど、本当に信用できないですね。1回目から7回目まで不検出で、8回目と9回目で急に(有害物質が)出てきて、一体何があったんだと。素人からして見たら、『改ざんがあったのか』『ウソをついた数字を出していたのか』と疑われても仕方がないじゃないですか」

 逆に,今回の調査が異常値ではないかと疑う人もいます。実は,私もその口で,もっと酷いシナリオが脳裏をかすめました。誰かが意図的に汚染物質をバラまいたという陰謀論です。日ごろ,陰謀論を批判している私ですが,人のことは言えませんでした。

 こういう疑いや陰謀論の証拠が今後出てこないとも限りませんが,今のところそんな証拠はありません。仮に,以前の調査が改ざんなら,今回も改竄すれば騙しとおせたのに間抜けです。東京都にとって都合が悪い結果を正直に出したことで,嘘つきと疑われるのも奇妙な話です。私の移転妨害の陰謀に至っては奇妙を通り越した妄想です。

 妄想はほどほどにして,今回の汚染が地上の建物環境にどの程度影響しているかというと,していません。ベンゼンが環境基準0.01mg/Lの79倍ということは,0.79mg/Lですが,専門家委員会の資料では0.45〜3.1mg/L(平均1.1mg/L)とすれば地上空気は大気環境基準の半分以下なので,計算上も影響しません。実際にも,建物内や地下モニタリング空間ではベンゼンは検出されていません。

 1.1mg/Lでも地上には影響しない地下水を環境基準0.01mg/Lにするという対策が過剰だったとしか言えませんが,過剰でも達成できなかった以上,改ざんだ,ウソだとかいわれてしまい,不安や妄想を招いてしまいました。過剰な安全対策が安心を与えるとは限らないということですね。