環境基準が行政目標であるわけ

 以前の記事でも述べましたが,環境基準は、「維持されることが望ましい基準」であり、行政上の政策目標です。なぜかというと,大気,河川水,地下水という共有環境を,一個人や一企業の努力だけで改善したり,維持するのは不可能で,行政が長い目で誘導して達成するしかないからでしょう。考えてみれば当たり前です。

 例えば,食品工場の屋内の空気環境は空調設備などで制御できますし,排水も処理設備で浄化できますので,規制することも可能です。しかし,食品工場の立地する場所の大気環境や地下水,あるいは近隣の河川水をその工場がコントロールすることはできません。当然,規制も出来ません。地下水は敷地外まで流れていきますし,敷地外からも流れ込んでいます。大気の汚染物質は中国からも飛来します。それでも,工場内の環境を維持できれば,別に支障はありません。

 このようなことを考えると,豊洲市場の地下水を環境基準以下にするという目標は極めて特殊で無謀な計画に思えてきます。この無謀な計画を実行するために,利用もしない地下水の流れを遮断する地中壁を設置するなど莫大な対策費を投じています。普通はこんなことはしません。環境を維持するのではなく,環境の変化に影響を受けないように対策をします。いうまでもなく,地震で壊れないように建物は作らなければなりませんが,地震が発生しないように地球環境を維持するなんてのは不可能です。地下水の水質維持はそれほどではないにしても,それに近いものがあるんじゃないでしょうか。別にそんなことしなくても,建物の中の状態は衛生的に保てるのですけどね。

 なんでまた,こんなことになったのかは,世論の安心や納得という気分的な理由からのようです。気分的な理由は途方もなく無謀な対策をしれっと求めることがありますからね。