飲んでも平気な地下水から揮発するベンゼンで,空気中濃度が環境基準の数百倍になる不思議

 各務さんと畑明郎さんらの公開質問状は,地下ピットのベンゼン濃度を計算して,地上の濃度を計算した専門家委員会の計算が間違いと指摘しています。なんとも的外れな指摘ですが,それにしても地下ピットのベンゼン濃度が大気環境基準の7万5千倍とは穏やかではありません。実際にピット内で測定すると,大気環境基準の1/10程度で,外気より低かったりするのにです。

 地下ピットを実測すると全然問題ないのに,計算ではこんな大きな値になる理由の一つは,地下水環境基準の100倍の1mg/Lの地下水が全面にあるという仮定だからなのは説明するまでもないでしょう。実際に100倍になっているのは,100か所以上のモニタリング地点の1か所です。第9回モニタリング結果を単純に平均すれば,0.014mg/Lになりますので,ピット内の濃度は3mg/㎥になります。ところが,これでも環境基準の1000倍になります。というか,地下水濃度が環境基準の0.01mg/Lでも,地下ピットの空気中濃度は,環境基準の760倍以上になります。飲んでも大丈夫な井戸水なのに,井戸の空間にベンゼンが溜まって危険だという奇妙なことになってしまいます。

 なんか変ですね。これはそもそもヘンリーの平衡式が揮発によっても液相中の濃度は変化しないという仮定だからでしょう。地下水から空気中にベンゼンが揮発しても,地下水にはベンゼンが供給されて濃度は変わらないと考えているわけです。極めて小容積の密閉空間なら,成り立つ仮定ですが,建物スケールの空間では成り立たない仮定なのではないでしょうか。地下ピットは換気していませんが,それでも空気は入れ替わっています。さもなければ,怖くてピットに入れません。酸欠必至ですからね。

 逆にいうと,ヘンリーの平衡式が成り立つような密閉空間では,飲んでも問題ない地下水があっても危険だということになります。ここからは,私見になりますが,通常の建築空間の空気環境維持は換気が基本です。有毒ガスを隔離密閉すると,そこの濃度が高くなって危険です。以前,千葉県のイワシ博物館の爆発事故がありましたが,空気より軽い天然ガスが屋根裏にたまったのが原因でした。対策はとにかく通気です。

 非常に濃度の高い人工的な有毒ガスはタンクなどに密閉隔離する必要がありますが,飲料水にできるような地下水から揮発する程度のベンゼンを盛土で被覆して防ごうというは非常に疑問があります。どうせ盛土のような材料で密閉は不可能ですし,大気中に放出してしまえば何の問題もないと思うのですけどね。