デマレベルの情報を流す専門家

 多分,私の気分が悪いのも同じ理由だ。東京都民でもないし,卸売市場がどこに行こうと大して興味はなかった。ただ,豊洲の施設の耐震性がないとか,床が抜けるとか言われると気になった。構造計算書や図面をつぶさに見たわけではないが,不備を指摘する理由が出鱈目なのは一目瞭然だった。市場問題PTに持ち込まれたひょろ長い柱の地下ピットの模型にはあきれ果てた。佐藤委員が激怒するのは当然だ。

 建築の専門家ではない市場関係者がこういうデマに騙されるのは仕方ないかもしれないが,建築専門家が素人向けのデマのプレゼンテーションをするのは腹が立つ。

 土壌汚染については私も素人だが,自分なりにも調べてみたし,専門家が食の安全には影響せず,安心という気持ちの問題であると公式の場で発言したことも確認した。さらに,移転反対の中心人物らしい中澤委員長も気持ちの問題であり,豊洲の施設が築地よりも立派であると図らずも認めてしまった。

 にもかかわらず,豊洲施設に重大な欠陥があるように言い続けている。豊洲施設に重大な欠陥があるから移転に反対しているのではなく,移転したくないから,豊洲施設に重大な欠陥があるように言っているとしか思えないのである。本当の移転したくない理由を表に出して訴えないのは何故だろうか。そんな理由はないからなのか。ならば,施設の問題もないのであるから,移転できない理由はない。

 ある食堂が食材の仕入れ先で内紛していたとしよう。片方の仕入先の食材が汚染されているという噂が食堂のお客に流れ,食堂の店主は風評を恐れ,お客にどちらにするか決めてもらおうと経営者らしからぬことを言い出した状況を想像してほしい。卸売業の専門家からすればこの噂がデマレベルであることは一目瞭然である。しかし,食堂のお客にとってはそうではない。しかも,噂の出所は専門家と称する人間である。風評に影響される食堂の経営も大変かもしれないが,精魂込めて選んだ食材を蔑ろにされた仲卸業者は激怒して当然ではないか。

 建築の世界も医療の世界に近づいてきたようだ。トンデモ医者だけでなく,トンデモ一級建築士がメディアで活躍するようになって,建築家も医者のように冤罪で裁かれる恐れがでてきた。他人ごとではない。