安全は気合と根性で担保できるか

 中澤委員長は,これまで豊洲の施設にあれこれ文句をつけてそんなところへは行けないと言っていた方です。施設の問題ではなく,人間の技術だというのなら,今までの豊洲施設への難癖は一体何だったんでしょうか。中澤委員長によれば,良いベンゼンと悪いベンゼンがあるそうですから,豊洲市場には悪い地縛霊がいて,人間の技術を無力化するのかもしれません。卸売り市場とは異世界のようです。そんな異世界について論評する知識は私は持ち合わせていませんが,建築施設に関わる人間としては,築地より豊洲の方が施設は立派だと認めて頂いたのは慶賀の至りです。

 異世界漫遊はほどほどにして,本題に入りますが,現実世界で安全を担保するのは施設ではなく,人間の技術でしょうか。実は,建設業界ではそれらしきことが長い間信じられていました。ことあるごとに「安全意識の向上」と念仏の様に唱えていました。昔のスポーツ界も根性と気合で勝利が担保されると言われていましたが,建設業界も注意力と気合で安全を担保しようとしていました。その,長年にわたる数多くの先人の努力の甲斐あって,事故は徐々に減ってきました。

 なんてことはありません。大嘘です。事故は減りましたが,根性と気合の成果ではありません。建設業界が安全意識に頼っていたのには現場作業という事情がありました。工場作業のように,安全設備を設けることが困難だったからです。不注意で馬鹿をしても事故にならないフールプルーフや一つの失敗が重大事故に発展しないフェールセーフの設備や施設がなかなか整備できませんでした。

 しかし,徐々に現場作業でも安全設備や整備され,法規制も厳しくなり,その効果で事故はかなり少なくなりました。それでも他の産業にくらべればまだまだ危険ではあるのですが。

 似たような状況が交通事故でもあります。運転免許更新にいくと,警察の講師の方が安全運転を心がけるように口を酸っぱくして言います。でも,それにどれほどの効果があるかわかりません。大抵,居眠りして聞いていますからね。交通戦争と称された昔にくらべれば,交通事故は大幅に減っています。これは,ドライバーが安全運転を心がけるようになったからとはとても思えないのですね。多分,道路や自動車の安全設備が改善されたのが大きいと思います。自動ブレーキは既に実用化され,自動運転もいずれ実用化されそうです。

 もちろん,安全意識,安全運転は大事です。ただし,実際に効果が大きいのは安全設備です。これは,どんな産業でも言えることだと思うのですけどね。それとも,市場の仲卸業だけは,「安全を担保するのは施設ではありません」と言える異世界なのですかね。

【追記】
築地市場の現状は,半世紀昔の建設現場のような劣悪な労働環境並みです。安全は人間の技術で担保するしかないというのは,なるほど納得できます。業務独占権で保護された社会はその閉鎖社会内での競争しかないから,このようなガラパゴス可が進むのかも