総合評価 いつの間にやら タイムスリップ

 小池知事は豊洲移転か築地改修存続かを総合的に判断すると言いました。豊洲市場の安全宣言が出た直後のことでした。このことは移転を決定する以前に,時間を戻してしまったことを意味します。

 知事が急遽移転を延期したのは,食の安全が脅かされるという一点による判断で総合判断ではありません。食の安全は必須条件であり,それが満足できないとだけで移転の中止もあり得ます。試験やコンペでいえば,足切条件であって,総合評価項目ではありません。でなければ,移転直前での延期というちゃぶ台返しはありえません。

 しかし,足切条件は満足することが専門家会議で確かめられました。これで,移転に障害がないと確かめられたので,止めた時計を動かさなければなりません。ところが,知事は動かすどころか,時計の針を十数年前に戻してしまいました。築地再整備すべきか,移転すべきかが検討されていた時代にです。両案は総合的に比較検討されて,豊洲移転が決まったわけですが,それをもう一度繰り返そうとしているわけです。繰り返す理由はありませんが,盛土騒動の余韻でなんとなくあるようにごまかしているだけです。まるで詐欺師の手口です。

 何年にもわたって,多くの関係者が検討してきた過去の総合的な評価を御破算にするというのは先人に対して失礼ですが,それだけでなく,行政や議会の過去の決定を理由なく無視する違法行為ともいえます。技術的,行政的,法的に検討し決定した施設について緊急事態が発生したため,施設の利用を一時中断したまでは良いとして,緊急事態が解消したにも関わらず中断を解かず,さらに技術的,行政的,法的な検討をやり直そうとしているわけです。やり直す理由はありません。

 失礼といえば,4月8日の築地建替私案の説明において,過去に築地再整備は頓挫しているという質問に対して,過去の再整備計画をこき下ろしていました。昔の話なので反論される恐れがないと考えたのかどうか知りませんが,過去に携わった方は憤慨しているのではないでしょうか。

 築地建替私案説明会では,築地再整備は可能と小島座長は言っていますが,そういう問題ではなかったはずです。問題は豊洲移転が食の安全上不可能かもしれないということだったはずです。この説明会では豊洲案も示して,両案とも可能であると小島座長は発言しています。つまり,豊洲は食の安全上不可能ということはないと認めてしまっています。半年前の発端とは話が違っています。

 要するに,盛土や地下水汚染や耐震性不足は,決着のついた移転と再整備の政治的戦いのリベンジマッチを誘導するためのきっかけだったわけです。嘘でも言いがかりでも,一旦移転を止めてしまえば,その間に世論を誘導して再試合に持ち込もうという魂胆だったとしか思えません。しかし,再試合が最終目的とは思えません。なぜなら,とても勝てそうにないからです。なにしろ豊洲市場は既に完成していて,サンクコストは戻ってきません。築地再整備は無理ありすぎです。別の最終的な政治目的のための時間稼ぎに過ぎないと見え見えになってきています。

 建築屋や学者や市場の仲卸業者は利用されているだけでしょう。特に仲卸業者は小池知事と共産党の協調路線がいつまで続くか考えた方がいいと思います。