改善を嫌がる理由

 普通は,古い建物よりも,新しい建物の方が快適ですので,新しい建物は歓迎されます。しかし,必ずしもそうとは言えない場合もあります。それは,お金が絡むからです。

 建築基準法関連の用語に「既存不適格」というのがあります。法令は,過去に遡って適用されませんので,既に存在する建築物は,現行基準法を満足していなくても違法ではないという意味です。「既存不適格」という言葉には,合法だけど,決して望ましくはないという意味合いがあります。ただし,建築確認申請が必要な修繕や模様替えを行うと,現行基準法への適合を求められます。

 このため,確認申請が必要になる大規模修繕や建て替えを行わずに,古く危険な建物に住み続けるという事態が生じます。また,光熱水費などの維持管理費も新しい建物では高くなることが多く,それを嫌い建て替えに反対する人もいます。単純に面積が増えれば,維持費も増えます。快適さを我慢して節約するのは自由ですが,現行基準法に適合しない危険な建物が解消されないこと,特に耐震改修が進まないことは以前から問題視されています。

 自分の建物だから勝手だというわけにはいきません。都市の危険な建物は周囲への影響があるからです。隣の建物が火事になれば大迷惑ですし,地震で崩壊した建物が避難道路をふさいでしまえば,避難や救援活動に支障を来たします。そのため,法改正も行われていますが,建物の修繕や建て替えには費用が必要なので,難しい面があります。それでも,3年程前に耐震改修促進法が改正され,不特定多数の者が利用する大規模建築物に耐震診断が義務付けられ,その結果が公表されています。耐震改修の義務付けはありませんが,努力義務はあります。このような法改正が行われた背景には,多くの人にとって,耐震性のない危険性よりも,費用が掛かることの方が切実だということでしょう。

 豊洲市場移転に反対する大きな理由は,豊洲の土壌汚染ですが,それが明らかになる前から移転に消極的な人はいたのではないでしょうか。その理由は,移転すればお金がかかるからでしょう。ただでさえ経営が苦しいのに,これ以上の出費には耐えられない,移転ならば廃業だという業者もいらっしゃるのではないでしょうか。市場のように多数の関係者が入居する建物では,常に問題になることで,マンションの建て替えや大規模修繕で入居者がもめるのも同じ理由です。

 豊洲の土壌汚染を心配するのも,実害よりも風評被害による経営への影響ではないでしょうか。実害の心配であれば,築地市場の方が大きいと思うのですが,築地では風評被害は起きる気配がありません。多分,歴史という実績があるからです。仮に築地に建て替えをするのならば,豊洲市場以上の浄化対策が求められると思いますが,古いままで使い続ければ見逃されます。建築物の既存不適格と同じような配慮が働くからです。

 結局,豊洲移転が円滑に進まないのは,関係者への費用的な支援や補助が不足していたということはないでしょうか。そのあたりの情報が全くないので,とんだ勘違いかもしれませんが,耐震改修でも様々な支援,補助が行われています。それでもなかなか進まないのです。