迷惑工事

 このところ,能天気な築地再整備の意見を目にしますが,市場関係当事者は大迷惑ではないでしょうか。移転推進,移転反対という立場に関係無く阻止されそうです。なにしろ,過去に仕事ができないと,再整備工事を中止に追い込んでいる実績があります。是非はともかく,私はその心情はよく理解はできます。私だけでなく,改修工事に関わったことがある建築関係者なら,建物使用者から「止めてくれ」と切実に訴えられた経験があると思います。

 特に,生きているうちに発生するかどうか定かではない地震対策の耐震改修工事は迷惑工事の代表です。工事中だけでなく,耐震壁で部屋が分断されれば,完成後の仕事に支障を来たしますので,本当に気持ちは分かります。それでも,官公庁は大義名分があるので,せっせと耐震改修を行い,ほとんど終わっています。残っているのは築地市場のような取り壊し予定のような場合です。官公庁では,改修推進を唱え予算を付ける部署と工事の現場が別なのであっさり予算が付きますが,いざ工事に着手すると,現場の建物使用者は不平不満たらたらです。2年もすれば転勤するかもしれないのに,たまたま自分が居る時に工事にぶち当たるとはなんたる不運と皆さん嘆かれます。

 民間工事になると,そもそも工事に積極的ではありません。耐震性不足の報道を見ながら,「耐震性のない建物なんか不安で住めないよね」と井戸端会議で宣う人が,いざ自分の家に耐震性がないとわかると,耐震改修工事を渋ります。というか,耐震性が無いと知りたくないのでそもそも耐震診断をしません。第一にお金がかかることがありますが,お金と命のどちらが大切なんだと言っても無駄です。不確実な災厄は都合よく無視されるのは,健康診断や病院を敬遠する人の多さからも分かります。ということで,民間建物の耐震改修はなかなか進みません。

 それでも,将来のことを考えるのなら,一時の不便を耐えてでも,現状を変えようという気になります。ただ,将来が見えないと,その意欲も削がれます。地下水の汚染,耐震性不足,機能性不足,風評被害,さらには不安と次々に理由が変化してくると,どうも後付けの感が否めません。本当の理由は現状維持したい,それだけではないでしょうか。あるいはそういう気持ちに付け込まれて政治的に利用されている感がぬぐえません。

 仮に,豊洲移転が中止になれば,これだけ築地の問題が公になった以上現状維持はあり得ず,築地再整備せざるを得ないでしょう。そうなれば,多分,延々と実現しない再整備計画の議論が続くのではないでしょうか。それを利用して得する部外者は喜ぶかもしれませんけどね。