【言い訳めいた前置き】
最初に言い訳を少し。この記事は医学の素人が個人的印象を述べたものに過ぎません。診断法や治療法を紹介するものでも有りません。もし,何らかの症状があるのなら信頼できる医師の診断を受けてください。
【不確かな診断】
原因のはっきりしない症状で苦しんでいる方は大勢いらっしゃいます。この様な方は肉体的苦痛に加え,原因の分からない不安という精神的苦痛にも苦しめられています。私の知り合いにもそう言う人は何人かいます。もし,原因が分かれば気分的には大いに救われるのですが,拙速に不確かな診断をすれば,正しい診断と治療から遠ざけてしまいます。おそらく,悪意で不確かな診断をする医師はわずかで,善意の医師がほとんどだと思いますが,結果的に患者を苦しめれば同じことです。素人なりに,不確かな診断には共通点を感じます。
【化学物質過敏症】
最初に,化学物質過敏症の診断基準の一例を示します。
化学物質過敏症の診断基準
http://www.e-rousai.com/category2/entry8.html以下のような主なる症状がある事
1・・持続あるいは,反復する頭痛
2・・筋肉痛または,筋肉の不快感
3・・持続する倦怠感と疲労感
そして以下のような副症状がある事
1・・咽頭通
2・・微熱
3・・下痢、腹痛、便秘
4・・集中力、思考力の低下、健忘
5・・興奮、精神の不安定、不眠
6・・皮膚のかゆみ、感覚異常
6・・月経過多などの異常
リンク先にも「個人差が大きすぎるため、診断基準が国や行政によって違っているのが現状です。」とあり,未確立と分かります。また,ありとあらゆる症状が網羅されている印象です。さらに,国や行政によって診断基準が違うのなら,そもそも原因が一つなのか疑わしくなります。にもかかわらず,原因は「化学物質」と特定されています。診断基準や症状が定まっていないのに,原因が特定されているというのは奇妙なことです。
【電磁波過敏症の診断基準】
次に示すのは,電磁波過敏症の診断基準の例です。
電磁波過敏症の症状とその判別方法について
http://www1.bbiq.jp/kanemasa/data4/kabin3.htm米国の専門医ウィリアム・レイ博士による電磁波過敏症の13の症状分類(括弧内は補足分)
1. 視力障害(白内障・緑内障・網膜剥離)、目が痛い、目の奥がうずく(瞳孔が開く・眼球結膜下出血)
2. 皮膚が乾燥する、赤くなる、湿疹(圧迫感・体が熱く感じる・発汗・ひや汗)
3. 鼻づまり、鼻水など(鼻炎)
4. 顔がほてる、むくみ、顔面の湿疹、ピリピリ、チクチクした不快感
5. 口内炎、歯周病、口腔内がメタリックな味がする
6. 歯や顎の痛み(歯周病の悪化)
7. 口腔内の粘膜の乾燥、異常な喉の渇き
8. 頭痛、短期的記憶喪失や鬱症状(突然の失神)
9. 異常な疲れ、集中力の欠如 (イライラ感・難聴・平衡感覚障害等)
10. めまい、耳鳴り、気を失いそうな感覚、吐き気
11. 首筋や肩のこり、腕の筋肉や関節の痛み
12. 呼吸困難、動悸 (口や手が震える・不整脈)
13. 腕や足のしびれ、麻痺
化学物質過敏症とかなり共通する症状があります。化学物質過敏症なのか電磁波過敏症なのか,判断が付かない場合が多そうです。原因に暴露させた場合のみ症状が出るのならばそれが原因だと言えそうですが,残念ながら,ダブルブラインドテストを行うと確認できないのが両過敏症です。
【HPVワクチン関連神経免疫異常症候群の診断基準案】
三番目に示すのは,HPVワクチン関連神経免疫異常症候群の診断基準案です。
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20141119/195161/?P=2&n_cid=nbpwol_else
HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)の診断予備基準案(2014)
(1)子宮頸がんワクチンを接種(接種前は身体的・精神的な異常なし)
(2)以下の症状が複数ある
1.身体の広範な痛み
2.関節痛または関節炎
3.激しい疲労が6週間以上続く
4.心身・精神症状(記憶障害、突然の眠気、呼吸苦、脱力、環境過敏)がある
5.脳画像の異常
(3)以下の症状を伴う場合がある
1.月経異常、2.自律神経異常(めまい、頻脈、動悸、冷や汗など)、3.髄液異常
→(1)+(2)3項目以上、(1)+(2)2項目+(3)1項目以上でHANSと診断
正確には,診断基準ではなくて,予備診断基準案となっています。これも,前出の症状と重なる部分が多くあります。唯一,違うのは「(1)子宮頸がんワクチンを接種」です。この項目は,少し考えて見ると非常に奇妙です。肺がんの診断基準に「肺がんであること」と有るのに非常に近いです。本来,診断基準とは症状から病名を推測するものですが,推測すべき答えが診断基準に紛れ込んでしまっています。
おそらく,(2)以下の症状はHPVワクチン接種をしなかった,例えば化学物質過敏症患者もにも現れるありふれたものですので,(1)の項目を入れざるを得なかったのだと思います。これは犯罪捜査に例えると,様々な証拠から未知の犯人を突き止めるのではなく,怪しそうな容疑者Aのめぼしを先ず付けておき,後から証拠集めをしているようなものです。その証拠が不十分で弱いために,「Aは犯行可能である」を証拠の筆頭にしているのです。しかし,A以外にも犯行可能な者は大勢いるように,HPVワクチンを接種せずとも同様の症状の人は大勢います。Aとその他の証拠に関係がなければ,「Bは犯行可能である」に置き換えることも出来ます。同様に「インフルエンザワクチンを接種」に置き換えることも可能です。
このようなことが生じるのは,HPVワクチンのダブルブラインドテストが出来ないためだと思われます。関係の証明が難しいのです。しかし,そのことは関係の否定も難しいことも意味します。従って,前の二つの過敏症よりも原因である可能性は残っているとも言えます。
【自律神経失調症のセルフチェック】
HANSの診断基準案に「自律神経異常」というのがありますので,最後に,自律神経失調症の診断基準も調べて見ました。ところが,自律神経失調症には診断基準らしきものが有りません。
自律神経失調症に検査は必要なの?診断基準について
http://www.jiritusinkeisyou.com/cat4/kensa.html自律神経失調症を見つける検査はありません。他の病気の可能性を考えて、どの病気にも当てはまらない事で自律神経失調症と初めて診断されます。
ですから、1回の検査で診断が下る事はまずありません。
つまり,原因が分からない場合に「自律神経失調症」としてくくっているだけなのですね。ただ,診断基準はありませんが,セルフチェックというのがありました。
自律神経失調症のセルフチェック
1、安静にしている時でも息切れ、動悸、胸が苦しいという症状がある。
2、吐き気、嘔吐、下痢、便秘など消化器系に不調が見られる。
3、顔色が青白くなったり、逆に赤くなったりする。
4、暑くもないのに汗が止まらない、逆に暑いのに汗が出ない。
5、頭痛、めまい、耳鳴りなどの症状がある。
6、気を失った事がある。
7、体がだるい、倦怠感、疲れの症状がある。
8、ちょっとした事ですぐに緊張してしまう。
9、人と上手に付き合うのが苦手。
10、ネガティブな事ばかり考えてしまう。
11、真面目で几帳面、神経質な性格。
12、家族にうつ病など精神病の人がいる、過去に居た。
13、イライラ、落ち着かない、震えの症状がある。
14、ストレスが体調に出やすい。
15、ストレスを感じる出来事がある、過去にあった、継続している。
16、就職、転職、転勤、結婚、出産、など生活環境が大きく変化した。
17、口、目、喉が渇く。
これまた,他の3つと非常に似ています。しかし,他の3つとの大きな違いは自律神経失調という症状の原因は特定されていないことです。自律神経失調症とは症状を述べているだけで,はたして,原因が一つなのかも分からないのです。それでも,病名が付くだけでも患者にとっては助けになります。以前は力士が休場するときの理由で自律神経失調症を良く耳にしました。病名が付けば仮病と批判されずに休場出来ます。
「どの病気にも当てはまらない事で自律神経失調症と初めて診断されます。」という説明はなかなか意味深長です。ここで言う「どの病気」とは,がんの様なしっかりした診断基準が有る病気だと思います。言外にそのような病気ばかりではなく,診断のつかない病気もあるのだという意味を感じます。では,化学物質過敏症などは,しっかりした診断基準のある病気でしょうか。そうであれば,それらの診断基準類は自律神経失調症のセルフチェックには似ない筈ですが,なぜか似ています。
原因不明だと精神的に辛くなります。しかし,医療は不完全ですから,患者の要求に総て応えてくれません。残念ですが,その現実は受け入れざるを得ません。過剰な医療への期待は自然の病気に加えて人災を招くと思います。