化学物質過敏症と帯状疱疹後神経痛

 読売3月13日のコラム記事

 数年前,伯母が「帯状疱疹後神経痛」になった。
 帯状疱疹は,幼少時にかかった水ぼうそうのウイルスが,多くは50歳以降に活性化し発症する。発疹が消えても強い痛みが残ることがあり,治らない痛みに伯母も悩んだ。
 やっと出会った専門の皮膚科医,こう説明した。激しい痛みはウイルスによる神経の破壊が原因の場合もあるが,痛みへの不安や恐怖が神経を過敏にし,痛みを増幅させて起きるケースも多いーー。「気のせい」ではなく,心の状態が本当に痛みを強くするのだ。
 その場合,医師が共感しながら話をじっくり聴くだけで治ることがあるという。伯母は,話を丁寧に聞いてもらって薬の処方をウケ,痛みは劇的に消えた。このように心と体が互いに影響し合うことを,心身私学でが「心身相関」と呼ぶ。
 子宮頸がんのワクチン接種後に体の痛みなどを訴える女性が相次いだ問題で,国の検討会はこの痛みを「心身の反応」と結論づけた。心身相関による痛みの増幅ということだろう。
 そうかもしれない。しかし,断定もできない。
 たとえば腰痛では,背骨の形状に異常がないのに激しく痛む人が少なくない。心身の反応が原因のこともあるが,腰の神経を締め付けている筋膜を切開して治る場合もある。慢性の痛みには,まだまだ分かっていないことが多いのだ。
 日本産婦人科学会などは,ワクチン接種後の痛みを適切に治療する体制を今月中に作ることにした。医師は,症状の原因を決めつけることなく,患者に誠実な治療を行ってほしい。

 「医師は,症状の原因を決めつけることなく・・・」って大事ですね。「化学物質過敏症」の患者さんを診る医師も肝に銘じて欲しいです。

 帯状疱疹になったことは間違いない事実でも,その後の痛みの原因は違うかもしれないわけです。「化学物質過敏症」の患者さんの経験談を読むと,きっかけは超微量とは言えない化学物質への暴露で有った場合が多いようです。それは紛れもない事実でも,その後の体の不調の原因は違うかもしれません。にもかかわらず,化学物質だと思い込むことで症状をこじらせているように思います。

 帯状疱疹後神経痛でも子宮頸がんワクチン接種後の痛みでも「化学物質過敏症」でも,痛みや症状を否定している人はいません。原因について見解の違いがあるだけのことで,患者さんが原因について思い込まされるのは実に不幸なことだと思います。一旦思い込むと,消し去ることは困難になります。最初の医師の対応って大事だとつくづく思います。思いこみを植え付ける医師は罪作りです。

 患者さんとしては,できるだけ広い可能性を受け入れる方が,症状改善の可能性も増えて良いと思うのですが。