共通性を調べるのは,個性を否定しているわけじゃないのだけど

子宮頸がんワクチン調査で名古屋市が結論撤回
http://www.asahi.com/articles/ASJ6W2DJDJ6WUBQU007.html

名古屋市は、子宮頸(けい)がんワクチンの副反応について「接種者に有意に多い症状はなかった」とする評価を撤回した。調査は昨年、市民約7万人を対象に実施。今月まとめた最終報告書では評価を示さなかった。市は「社会的影響が大きく、市だけで結論は出せない」と説明している。

 この苦しい言い訳については,皆さん想像することは一緒でしょうから,特に言及しません。ただ,窓口担当者が気の毒ですね。

 これを受け、市は昨年12月、「接種者に有意に多い症状はなかった」との評価を発表したが、薬害監視の民間団体「薬害オンブズパースン会議」が「副反応の症状は複合的で、一人が複数の症状を持っている。個々の症状ごとに接種者と非接種者との有意差を比べても意味がない」と批判していた。

 ここから本論です。この「複合的」云々は,薬害オンブズパースン会議がかねてから主張していたそうで,「重なり」理論と呼ばれているようです。言いたいことは分からないでもないですが,重なり方は患者さん毎に全部違うので,無数にある「複合的症状」の症例は1個ずつとなってしまい,統計的に扱えません。結局,今後の研究の為の症例報告にしかならず,ワクチンと症状の関係を見いだすことは絶望的でしょう。

 一方,個々の症状要素に分解すれば,統計的手法でワクチンと症状の関係を見いだすことも可能ですし,そのことで「重なり」理論を否定するわけでも有りません。それぞれ行えばよいと思うのですけど,「意味が無い」と否定するのは,何故なのでしょうか。仮にワクチンと個別症状に有意な関連があるという結果がでても無意味なのでしょうか。

 もともと,名古屋市の調査は薬害監視団体の意向を受けて行われたようですから,無意味だと考えるのなら,計画時点で何故修正を求めなかったのでしょうか。ワクチンと個別症状の関連が見いだせると期待していたのではないでしょうか。集計結果が出てからクレームを付けたのは何故なのでしょうか。

 憶測は止めますが,患者さんごとに違う複合的症状の症例調査で原因を突き止めるのは極めて困難と思います。通常の病院の診断も病気の原因を突き止めていますが,沢山の症例があり,既に原因が分かっていて,診断法も確立されている病気だから出来るのですね。しかし,過去に症例がない,未知の病気となると簡単ではありません。それも,その患者さん一人しか症例がないとなると不可能ではないにしても絶望的ではないでしょうか。ただし,社会的に問題になるような症例が数多くある場合は,疫学的に原因を推定することができます。疫学はジョン・スノウ のコレラ研究から始まったと言われています。コレラ菌が発見されていない時代に疫学的手法によって,汚染された井戸水に原因があると突き止め,流行を食い止めた話は有名です。

 つまり,発症メカニズムは分からなくても,個々の患者さんの複合的症状は様々でも,共通する個別の症状を見いだし,原因の推定が可能です。そもそも,薬害というのは,患者さんの個性や特殊性に係わらず,薬という共通の原因が,社会的に問題になるほどの共通の症状を引き起こすので,薬害監視団体は監視しているのじゃないでしょうか。

 仮にワクチンが原因だとしても,患者さんの特殊体質によるのであれば,他の患者さんの原因でもあるとは言えなくなります。共通性が無い以上,一人ひとり原因を突き止めるしかないことになってしまいます。現実にはそういう場合もありますが,その対応をするのはその患者さんの主治医であって,薬害監視団体の仕事じゃありません。

 そのような特殊な事例の救済を行う団体も必要かもしれませんが,それは薬害とは別の問題です。水アレルギー患者さんも存在しますが,水害被害として水道局が訴えられた話は聞いたことがありません。