傍目の素人に与える印象

  • sivadさんの反論

続々・NATROM氏『化学物質過敏症は臨床環境医のつくった「医原病」だと思う』等について
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20130718/p1

 なんというか,「信頼できる報告は何か」について対立する当事者だけで議論しても埒があかないのではないでしょうか。いわば,信頼できる審判は誰かということを,対戦する両チームで言い争っているようなものかと。「信頼できる報告」は中立な第三者でなければなりませんが,そうであるという判定も第三者にしてもらわないと決着しません。で,そのまた第三者のとなって、キリが有りません。普通は,医学界全体の主要な意見はどうなのかということで判断するしかないでしょう。権威主義的だと批判する人もいますけど,最初からNATROMさんが言っていることなんですね。で、また、医学の主流の解釈が違うわけです。専門家なら簡単にわかると思いますけど、問題は、傍から見ている私のような素人です。多数決で判断してはいけないでしょうが、化学物質過敏症に否定的な国が多そうにみえます。

 そのような、第三者のお墨付きとは別に、ご本人の主張そのものを見ると、NATROMさんの場合、「覚書」をはじめとして具体的に問題点を指摘してあって、一応素人でも理解できます。根拠として引用した報告書の該当部分も示してありわかりやすいです。

 sivadさんの場合、非常に一般的な説明です。その説明が化学物質過敏症とどのように関わるかわからないというか、無関係に思えます。引用されている報告書に実はどのように書いてあるかもよくわかりません。それは、自分で読べきですが。該当箇所を示してある場合も、主張されているようなことは書いてないように思えます。例えば、デンマークの報告書
にsivadさんの見解を支持する内容があるような引用になっていますが、よくわかりません。ひょっとして「生理的」というのが、「超微量の化学物質に反応している」を意味するということなのでしょうか。また、「in particularly predisposed persons」を「特に一次曝露を受けた個人」と訳してあって、これが「超微量の化学物質への曝露」であるかのようですが、誤訳ではないでしょうか。(8/13追記 修正されています。)

  • 具体的に書いてないので、素人には疑問の残る部分

 

内容に関しても、こちらのUpToDate記事には米国の臨床環境医の治療が不適切な場合があるとの指摘はありますが、『化学物質過敏症が臨床環境医がつくった医原病』であるとの論証はありません。

前にも書きましたが,「医原病」とは誤診・根拠のない治療による被害を意味する医師の倫理の指摘であって,医学上の病名ではありません。当然,医学上の病名としての論証があるはずもありません。しかし,医師の倫理上の問題として「医原性の影響」との指摘はあります。

証明されていない治療法 ― 臨床環境医によって施行される処置の種類は、彼らの想像力と臨機応変さだけによって制限される。 これらは、化学物質からの回避、環境変化、特別な食事、市販薬もしくは処方された薬物、嫌疑のかかっている化学物質の小用量の舌下もしくは皮下投与、デトックスを含む。いくつかの介入は、医原性の影響を引き起こして、患者の生活を深刻に途絶しうる。 これらの処置を正当化する理由は存在しない。(NATRONさん訳)

ここでは生理的エビデンスの不足を述べていますが、たとえばこちらで免疫システムは関係ない、との根拠にされている文献は1986年および1993年のもの2件のみ、酸化ストレスに関しても1992年1999年の2件のみと、きわめて古く限定的で、近年の多数の免疫学的分子生物学な知見が考慮されているとは到底いえません。こちらの著者は、生命科学の知識に関してはかなり遅れており、偏っていることがわかります。

「近年の免疫学的分子生物学な知見」では,超微量の化学物質が反応を引き起こすことと,環境臨床医の治療が有効であることを示しているのでしょうか。そして,免疫システムは関係ないという2件の報告の誤りを指摘しているのでしょうか。
 よく分かりませんが,分子生物学の研究によって,様々な可能性があることは分かると思いますが,医療現場の患者さんの症状とその可能性を結びつけるには,まだ,数段階の検証が必要ではないかと。基礎的研究の成果が臨床現場に反映されるにはそれなりの時間を要すると思うのですが。

また、先に書いたように、化学物質過敏症には『疫学的根拠』はあります。

これは、

Chemical sensitivity: pathophysiology or pathopsychology?
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23642291(総説)

のことですが、総説だけ読んでもピンときません。超微量の化学物質に暴露したかどうかは,疫学的には区別しようがないと思うんですけどね。発端が多量の化学物質に晒されたことなら分かるんですが。患者さんはシックハウス症だったり,仕事で溶剤中毒になったというのがきっかけと言う人が多いですから,これなら,ある程度疫学的に分かると思います。

  • その他、反論になっていないのではと思える箇所

水俣病には疫学的証拠があったが、化学物質過敏症には不足している、のように氏は書いていますが、なにがいつどの程度あれば十分で、どのくらい不足していれば『医原病』になるというのでしょうか?

 これ,ちょっと意味不明です。
文字通り読めば,「疫学的証拠が不足しているので「医原病」とは言えない」とNATROMさんが主張しているかのようです。立場が逆転してます。確かsivadさんがそう主張していたとはずですが。もちろん,医学上の病名ではない「医原病」に疫学的証拠があるはずもなく,疫学的証拠のないMCSに基づく治療行為による被害が「医原病」なわけです。
 
 

同じなのは水俣病化学物質過敏症ではなく、政府や加害企業の公害被害を悪化させる姿勢がNATROM氏と共通している、ということです。

 このステレオタイプの悪役作りがsivadさんの一番言いたかったことかと思います。そのために水俣病を持ち出したはずです。同じ病気でないのは当たり前ですが,既に根拠のあった有機水銀説を無視したのと同様に,既に根拠のある「超微量の化学物質に反応説」を無視したと言いたかったはずです。「既に根拠のある」と言うところは共通という主張ではなかったのでしょうか。それに対してNATROMさんは根拠などないと反論したのですから,そうではないと再反論しないといけないのですが。
 水俣病化学物質過敏症は同じではないと認めたら,政府や加害企業とNATROMさんも同罪だという理由がなくなります。

ホメオパシーの批判はどうぞご自由に、また疑わしい医師がいれば個別に批判すればよろしい。そこから化学物質過敏症や環境医に一般化するのは詭弁としかいいようがありません。

ホメオパシーではなくて,誘発中和法や化学物質からの回避の指摘なのですが。

また先に述べたように、特定の実験条件で差が見えないことは、環境条件において超微量の化学物質群一般と関係がないことは意味しません。その条件で検出できない、ということを示すだけです。

これ、「悪魔の証明」をしないと認めないということです。

  • 「医原病」に関してのポイント

・臨床環境医は無効,あるいは有害な治療をしてきたのではないか。
・臨床環境医は,いい加減な診断基準で,アレルギーや心因性の病気をMCSと誤診し,治癒を妨げたのではないか。

治療効果を示す資料やちゃんとした診断基準を示せば、有効な反論になると思います。