責任追及の裁判は消極的騙しあい

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟提訴にあたっての声明
http://www.hpv-yakugai.net/2016/07/27/%E6%8F%90%E8%A8%B4%E3%81%AB%E3%81%82%E3%81%9F%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%AE%E5%A3%B0%E6%98%8E/

 この声明は原告への支援を求めています。ですが,支援するには真相がわかっていなければなりません。その真相はこれから裁判で明らかにされるわけで、まだわかりません。声明に書かれているのは原告の主張です。

 そして、裁判では、原告であろうと被告であろうと、その主張は一方的なものです。裁判では自分に不利な証拠を自主的に提出する必要はありません。例えば、薬害エイズ裁判では、検察はギャロ博士などからの証言を得ていましたが、検察に不利な証言だったので隠していました。被告側の要求で証拠として認められました。裁判とはこういうもので、裁判官は真相究明に努めますが、原告と被告は自己の利益のために騙しあいの戦いをしているようなものです。お互いに協力して真相究明しているのではありません。

 不利なことを言わないのは声明でも同じです。裁判に限らず物事の判断は議論の余地がないことは少なく、功罪を衡量して決めなければならないことがほとんどです。善の要素のない極悪人や悪の要素のない聖人君子は非現実的です。しかし、声明では被告を単純な悪として記述しています。

 そもそも子宮頸がんは、原因ウイルスであるHPVに感染しても発症に至る確率は極めて低く、また、子宮頸がん検診によって、がんになる前の病変を発見し、負担の少ない治療で予防できる疾病です。にもかかわらず、有効性にも安全性にも問題のあるHPVワクチンの製造販売が承認されました。製薬会社は、接種推進を謳う専門家団体に巨額の寄付金を提供するなどして大々的なマーケティング活動を行い、承認から異例の短期間で公費助成、定期接種が実現しました。そして、公権力による接種勧奨によって300万人を超える中学生・高校生の女子に接種されたのです。

 また、原告は被告の利益追求や公権力の行使による犠牲者として記述しています。

 副反応による被害はとても深刻です。多様な症状があり、それらが併発、重層化するため、身体的に多大な負担をもたらします。また、これらの症状は改善と悪化を繰り返す特徴があり、今後も発症の可能性があります。加えて、病院や学校などにおいて詐病であると言われるなど、無理解な対応によって苦しんでいる被害者も多数います。治療法も確立されておらず、将来に対する不安は計り知れません。多くの被害者の未来が奪われようとしています。

 しかし、それは物事の一面です。接種推奨停止によって、諸外国より子宮頸がんが多くなるという予測もあります。仮に国が副作用の責任追及を恐れてHPVワクチン接種を導入していなかった場合、逆方向の提訴がなされたかもしれません。そして「症状が副作用である証明はされていません。接種推奨を廃止した被害はとても深刻です」という不作為を咎める声明が出されたかもしれません。導入しなかったのは、製薬会社の抗がん剤の需要を減らさないためと言われるかもしれません。一般に予防より治療が高コストと言われます。

 つまり、ワクチン接種してもしなくても、被害は生じます。したがって、功罪を衡量して判断しなければなりません。しかし、それは裁判官の仕事であって、原告にはその義務はなく、接種には罪しかないように言えばよいわけです。また、功罪を比較したとしてもそのバランスに保証がないのは、薬害エイズ裁判の検察の態度からもわかります。

 HPVワクチンは、子宮頸がんそのものを予防する効果は証明されていません。一方で、その接種による重篤な副反応(免疫系の異常による神経障害等)が多数報告されています。

 この功罪衡量における手加減を第三者の証人が行えば偽証に相当しないのか私は疑問です。原告が自己に不利なことをいう必要はありませんが、それは有利なことしか言わないという立場が明確だからです。不利な証拠と衡量するのは裁判官の役目であるので構わないのだと思います。しかし、証人が比較衡量したという立場で功罪の一部を無視するというのはどうなのでしょうか。原告自身の場合は、そういう偏りがあるのは明白なので構わないのかもしれませんが、例えば専門家の立場で証言する場合は微妙です。専門家の間でも議論が分かれているならやむを得ないかもしれませんが、その場合は専門家の間でも見解の一致がないのですから、被告の判断が間違いということも無理です。しかし、裁判官がそれを判断するというのはなかなか難しいようにも思えます。

 だれから聞いたのかも忘れてしまった、こんなジョークがあります。

 Early bird gets the worm.(早起きは三文の徳)というが、早起きの虫は鳥に食べられる(早起きは大損)。

 鳥や虫の立場はそれぞれもっともですが、国は様々な立場を考慮しなければなりません。症状がHPVワクチンの副作用かどうかも不明ですが、仮に副作用だとしたら、その患者さんの立場ではHPVワクチンは結果的に害悪だったことになります。それでも、接種者の多くにとってHPVワクチンが有益であるとしたら国は接種を推奨します。どちらを選んでも被害者が出るのなら、少ないほうを選んだほうが良いからです。とはいえ、症状の出た患者さんには救済が必要です。ただし、そのためには国の過失による損害賠償しかないとしたら、だれも積極的に医療にはかかわらなくなります。医療は不確実で、残念ながら、だれにも過失がなくても副作用は起こります。