再婚禁止期間

 女性に離婚後6か月間再婚を禁止する民法の規定について、最高裁判所は「100日を超える部分は憲法違反だ」との判断を示しました。

 この判断は正しいでしょうか。といっても結婚制度や親子関係についての判断にケチをつけたいのではありません。単純に日数計算はあっているのかという話です。一見したところ,300−200=100で間違いないようですが,法律の期間計算は細かい所まで気を遣わなければなりません。

 民法の定めによれば,子どもの父親の推定をするためには,6ヶ月も必要ではなく,100日を超える部分は違憲,というのが最高裁の判断の理由です。

第七百三十三条
 女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。

第七百七十二条
 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

 離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定する一方で,結婚後200日を経過した後に生まれた子は現在の夫の子と推定することになっています。このため,再婚日は,離婚後100日経過後であれば,推定期間は重複しなくなるので6ヶ月も禁止する必要はなくなります。それは間違いありませんが,100日より短くできないでしょうか。

 この計算を確かめるには,期間の計算の仕方を明確に定めなければなりません。それに関しても民法に定めがあります。

第百四十条  日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

 「午前零時から始まる」が具体的にどのような場合か分かりにくいのですが,調べて見ると,期間の初日を参入しない理由は次の様に説明されています。5月1日の午後1時に契約を結び,契約書に「5月1日から10日間」と書いてあったとします。もし契約締結日を期間に含めてしまうと,締結前の午前にまで効力が遡って及ぶので,5月1日は含めないようにしているらしいです。一方,5月1日に締結した契約書に「5月10日から10日間」とあれば,10日の午前零時も期間に含めても支障はないので5月10日も含めて計算するということらしいです。これは,24時間未満の時間は切り捨てて,正味24時間ある日数を期間として数えるということですね。

 役所の窓口へ午前零時に離婚届を提出することは出来ませんので,「婚姻の解消の日」は期間の初日に含めないことになるかと思います。離婚届の直前に最後の性交渉,という可能性まで考慮しているのでしょうか。民法には恐れ入ります。ただ「婚姻を解消した日」ではなく「婚姻の解消の日」というところが微妙ですが,初日は含めないとして以下話を進めます。

 念のため,「経過した後」とは期間の満了日の翌日からという意味になります。これについても「経過した日から支払う」なら期間満了日の翌日から支払うことになりますが,「経過する日から支払う」だと期間満了日から支払うことになるという微妙な違いがあります。

 以上,準備が出来ましたので,計算を始めます。

 離婚日を1日目として数えると,「離婚から100日を経過した後」は102日目からになります。102日目から再婚可能になります。

 次に,「再婚から200日を経過した後」は再婚日から202日目からになりますので,前夫と離婚してから102日目に再婚したとすると,離婚日から数えて,303日目からになります。現夫の子と認められるのは303日目からです。

 最後に,「離婚から300日以内」の満了日は,離婚日から数えて301日目になります。301日目までは前夫の子と認められます。

 つまり,離婚日から301日目までは前夫の子で,303日目から現在の夫の子と推定されます。1日余裕があります。離婚禁止期間は99日でもよいです。最高裁,1日分違憲ですよ。だらだら書きましたが,下の図を見た方が分かり安いです。どうでもいいか。