放射能と放射性物質 − 重箱の隅?

これでいいのか高校教科書 「原子力」記述間違いだらけ、まかり通る“誤解”と“不正確” 産経ニュース
http://www.sankei.com/premium/news/150522/prm1505220006-n1.html

福一原発事故以来,放射線放射能放射性物質の混同の指摘をよく目にします。私の記憶に残っているところでは、1974年の原子力船むつの放射線漏れ事故でこの混同が話題になりました。事故当初,放射能漏れと報道されたため,誤解が広がりました。
 
 その当時から,放射線放射能の混同は問題視されていましたが,指摘する専門家も「放射能」と「放射性物質」の区別のほうはあまりしていなかったように記憶しています。それ以前に,放射性物質という言葉をあまり聞いた覚えがありませんでした。それは私の個人的な印象で,専門家の間で使われていたのかも知れませんが,「放射能とは放射線を出す能力,あるいは能力を持つ物質」という説明もあったと思います。あらためて検索してみたら,そのような説明も一部,残っていますが、殆どは両者を区別しています。両者の区別を厳密に言い出したのは比較的最近のことではないでしょうか。

 例えば,ATOMICAの説明では以下の様になっています。

放射能 ほうしゃのう
 radioactivity. 放射性物質が自発的に壊変して放射線を放出する能力をいう。単位は、その放射性物質に含まれる放射性核種が単位時間に壊変する数であって、毎秒当り1壊変を1Bq(ベクレル)と定めている。したがって、放射性核種の数が同じであっても、より壊変し易い不安定な放射性核種の方が、より放射能が強い。日本語では放射性物質と概念的に混同されることが多く、しばしば同義に使用される。
http://www.rist.or.jp/atomica/database.php?Frame=./dic/dic_index.php

 「日本語では放射性物質と概念的に混同されることが多く、しばしば同義に使用される。」とあります。これは,素人が混同していると言う意味では無くて,専門家の間でも同義に使用されているという意味でしょう。

 放射性物質よりも放射能のほうが口頭では言いやすいこともあって、同義に使用されたのではないかと思います。正確な表現は煩わしいので、専門家が略語を用いることは良くあります。

 能力と物質は全く違いますが,1つの言葉で表しても,文脈でどちらかは大抵分かり、混乱はあまり生じません。そこが放射線放射能の混同とは大きく違うところです。文脈どころか,単語だけでも意味は分かります。物質から能力だけが遊離して漏れ出すなんてことは有り得ません。ですから放射能漏れとは放射性物質が漏れることしかありえません。放射能漏れという言い方は間違いであるという指摘はあまり聞きませんし(無いこともない),少なくとも,1974年時点では無かったように思います。

 言葉は正確であるに越したことはありませんが,どんな実害があるのかなとも思います。