素人が誤解するのも無理は無い専門用語

サンプル数とは何か? JILPT研究員 堀 春彦
http://www.jil.go.jp/column/bn/colum005.html

 「サンプル数(標本数)」と「サンプルサイズ(標本の大きさ)」の混同は,素人の文章のみならず,専門家にも見られるという指摘は以前からあります。確かに,この両者は別の意味を示す専門用語なのですが,後者の意味で前者を使う事例はよく見かけます。私自身,間違った使い方をしていた可能性もあります。

 念のため復習すると,「標本数」とは標本を抽出した回数を意味し,1回の抽出に含まれている標本の個数を「標本の大きさ」と言います。例えば,1000枚のコインの母集団から,10枚のコインを抽出する試行を5回行ったとすれば,標本数は5で標本の大きさは10になります。

 専門家なら,理解しておくべきことで,標記も正しくすべきなのは当然です。ただ,素人が勘違いするのは,専門用語の名付け方にも一因があります。専門用語には日常会話で用いられる一般的な用語が使われる場合が有りますが,一般的な意味と違っていて戸惑う場合がしばしば有ります。数学などではその種の用語の宝庫で,集合,群,体,等々があります。ただ,数学の文脈では一般用語として理解することが殆ど無理なので,幸いにも誤解や混乱はあまり生じません。

 ところが,一般用語としても理解可能になると混乱が起こります。例えば,「遺伝毒性」と聞けば「子供にも遺伝する毒性」と思っても無理は無いと思います。正しい意味は「遺伝子に変異が起こって生じる障害」のことで,必ずしも遺伝するとは限りません。この用語は一般に相当誤解を引き起こしている可能性があります。

誤解を生む“遺伝毒性”という言葉、リスクコミュニケーションの障害
http://icchou20.blog94.fc2.com/blog-entry-586.html

 「サンプル数」という用語も,「数」という日常用語からの類推では「サンプルサイズ」の意味だと思うのが自然です。「サンプル種数」とか「サンプル回数」とでもしたほうが誤解は少ないのではないでしょうか。「自動車数」と聞けば,自動車の車種数よりも台数を思い浮かべるのが普通だと思います。

 従って,一般の人が「遺伝毒性」や「サンプル数」という用語を使っている場合,誤解しているということは,文脈から大体判りますから,素人の言葉使いに目くじらを立てることもないかなという気もします。専門以外の分野について言及する場合は,それなりに調べるべきだとは思いますが,あまり実害はないような気もするので。