仮処分

仮処分 ー 知恵蔵2015の解説

権利に関する紛争について、債権者に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるために、財産を差し押さえたり一定の法的な状態を作り出したりして、判決による解決または強制執行が可能となるまで、権利の実現に支障が生じないようにする暫定的措置を行う民事保全制度の一種。金銭債権に関する仮差し押さえに対して、金銭債権以外の権利の保全について行われる。土地など特定の物に対する将来の強制執行を確実にするための、係争物に関する仮処分と、紛争によって債権者に生じる現在の危険や不安を取り除くための、仮の地位を定める仮処分とがある。
(土井真一 京都大学大学院教授 / 2007年)

 仮処分とは,本訴の決定までに債権者に生じる損害を避けるための暫定的措置だそうです。例えば,「自分の所有する不動産の登記が他人名義になっているため、抹消登記を求める訴訟を提起する場合に、相手方(債務者)が訴訟係属中に第三者に登記を移転してしまわないようにする」という例がwikipediaにあります。原発裁判の場合,本訴の決定までの数年間に原発が事故を起こして債権者に与える損害と言うことになるかと思います。

 従って,暫定的な措置が必要な程の急迫した危険があるかどうかが仮処分の判断になるはずです。不動産の名義が誰のものかは本訴で判断するとして,仮に債権者の名義であった場合に債務者が登記を移転してしまうと取り返しがつかない損害が生じるかどうかで判断することになります。逆に,仮に債務者の名義であった場合に仮処分を認めてしまうと,債務者の損害を与えますので,そのための供託金を債権者は用意することになっています。債務者の被害は金銭的に取り返し可能と考えているわけで,非対称な関係と言えるわけで,この辺りの考え方はよく分かりません。仮処分決定に対する仮処分申請なんてあるのでしょうか。際限が無くなりますから多分無いと思いますが。

 さて,原発裁判の場合,本訴と仮処分の判断根拠が殆ど同じという奇妙な事になっているように見えます。つまり,原発の運転で住民に重大な危険を及ぼさないかが,本訴でも仮処分でも争点だということです。不動産の場合,登記の移転をされてしまうと債権者に重大な損害が発生しますが,名義が債権者のものでなければ,そもそもそう言う損害は有りません。だから仮処分であるわけです。ところが,原発裁判では,名義がどちらに属するかという本訴の争点が存在しません。存在する争点は重大な危険が有るかどうかだけです。

 不動産の場合,仮に債務者の名義であった場合に損害があるかどうかは比較的簡単に判断できます。そのため,時間の掛かる本訴の判決よりも迅速に仮処分をする意味があるわけです。これが,原発裁判では重大な損害が有るかどうかは,地震の発生の可能性やら,工学的安全設備の妥当性など専門的判断が必要になります。そして,それは本訴でも行うわけです。ならば,仮処分の判断などせずに,則,本訴の審議をすべきではないでしょうか。本訴で慎重に審議すべきことを,仮処分で拙速に判断する意味があるのでしょうか。

 素人考えながら,本来の主旨と違う目的に仮処分申請が利用されている気がするんですね。