都知事を選ぶのは都民

 生田よしかつさんの住民監査請求が却下されました。これは生田さんも想定済みで,次の訴訟のための第一段階ということです。では,裁判で小池知事の違法行為が認められるかというと,私にはよくわかりません。

 重要なのは,裁判で争うのは小池知事の「行政判断の違法性」であって,「行政判断の失敗」ではありません。いうまでもななく,「行政判断の失敗」が問われるのは再選選挙であって,裁判ではありません。石原元知事に対する提訴もこの点を勘違いしていると思います。以前に環境ホルモン濫訴事件がありましたが,原告側は科学的正しさを裁判官に判断してもらおうという勘違いをしていました。同様に行政判断の良し悪しの判定を行うのは,都民であって裁判官ではないと思います。

 しかし,行政判断の過程に違法行為があれば提訴もありえます。例えば,移転反対派からの賄賂で延期をしたのであれば,収賄罪ですし,あるいは,移転延期の行政手続きに地方自治法に反する不備があっても違法です。これらに該当する行為があれば明白ですが,具体的な指摘は見かけませんので,その可能性は少ないのではないでしょうか。

 従って,残る可能性は,民法国家賠償法行政事件訴訟法による不法行為で,このうち基本は,民法709条の「不法行為による損害賠償」です。

民法 第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 不法行為の要件は「故意又は過失」で,過失とは「予見可能性を前提とする結果回避義務違反」だそうです。これは業務に関わる責任についての弁護士の講演会で聞きました。予見できると大体不法行為の責任が問われるらしいのです。予見する能力は人によって違いますが,職業上の予見能力は,その職業に従事していれば当然保有しているべき能力で職業によって違います。病気になるかの予見能力は一般の人より医師には高いものが求められます。

 それでは,小池知事は十分な予見に基づいて延期判断をしたかというと,個人的には出来ていないと思います。なんというか素人っぽいです。予見出来ていて行ったのであれば,過失ではなく故意になります。

 延期によって関係者への補償金が発生するのは簡単に予見できますが,食の安全が脅かされる危険の方が大きければ延期の判断も妥当でしょう。しかし,食の安全の判断は素人には難しいので専門家会議に判断を任せたわけです。その専門家会議が実質的に安全を宣言したにも関わらず,移転の決断を知事はしませんでした。客観的に,延期による被害が大きいと判断できる材料がそろったにもかかわらず,延期を続けたのですから,過失か故意と言えないこともないと思います。確か,このタイミングで生田さんは住民監査請求をしたと思います。

 もっとも,これ以外の要因によって延期しているという可能性もありますが,知事は明らかにしていません。市場問題PTでは,建築文化だの,売り手と買い手の交流だの,市場経営がどうのこうのと言っていますが,緊急避難的措置の移転延期とは次元の違う雑音でしかありません。あとでゆっくり議論すればいいでしょう。

 移転したあとで築地が良かったとなれば,取り返しがつかないと小島座長は言い出しそうですが,現時点では豊洲市場は完成しています。移転を中止して,築地に新たに改修費用を投入したあとで,豊洲が良かったとなればそれこそ取り返しがつきません。では,築地改修も行わず現状のままで議論するのは,もはや使用に耐えない築地を使うわけですから,それこそ食の安全を脅かす取り返しのつかない事態になる恐れがあります。

 個人的にはこのように考えますが,裁判所がそこまで立ち入って判断するか疑問です。裁判所は門前払いの傾向がありますからね。結局,都民が都議選などで判断するのがよいのではないかと思います。それで,都民が損害を受けても,自分の判断だということかと。実は,都民の損害に留まらないのが問題ですが。