100%の成果を請け負わさせる

とんび@外岡則和
‏@tubupoko
“何パーセントは治るからやってみます”、なんてえ医者はいないでしょうが。そういうものを“治療”と称して 実施する“厚生省”の詐欺、について言っている。その詐欺の小道具の一つが統計だ、と僕は言ってるのね。悪いけど、あんたに引用する資格はないわ。 @akimi_o
https://twitter.com/tubupoko/status/589829230252298241

 実例を挙げますと,私自身言われた経験があります。悪性リンパ腫と診断されたのですが,治療の説明で,「70%以上治ると思います。少し古いデータなので,今はもう少し高いでしょう。」と。医者が治る確率を説明するのは,医療ドラマでもよく見かけるシーンです。

 それでも,治せなかったのに治療費を払うのは納得できないと言う人も少ないながらいます。治療を頼む側からすれば,100%を期待するのは人情なのですが,普通の人は医学が100%ではないことも十分理解していますので,とんび@外岡則和さんのような無茶をいうのは少数です。法的には,成果を約束する請負契約ではなく,行為を約束する委任契約と言う位置付けになっています。

 ところが,業種が違って来ると,お客の認識も少しずつ変わってきます。弁護士の仕事も原則は委任契約で,勝訴を約束するものでは有りません。ただ,成功報酬という特約を付すのが普通のようで,単純ではないようです。

 人間ドックの検査で癌を見落とした場合も,委任契約なので結果への責任は無いのですが,善良な管理者としての注意義務違反があれば,検査実施上の責任を問われます。問題はどの程度の注意義務があるかで,裁判で争われます。争われるということは,万人の共通認識ではないということを意味します。

 がんの見落とし ー 御器谷法律事務所
 http://www.mikiya.gr.jp/Oversight_of_the_cancer.html 

 それでも,人間の体は複雑なので治療でも検査でも100%があり得ないことはほぼ共通認識といえます。ところが,対象が建築物になると趣が違って来ます。少なくとも,建築工事は請け負い契約ですので,不具合は許されません。では,建築物の人間ドックとも言える点検業務はどうでしょうか。建築物の点検は建築基準法で義務づけられています。最近は,札幌で看板が落下したりして,世間的にも点検が注目されました。おそらく,殆どの建物所有者が点検で不具合の見落としなど有ってはならないと思っているのではないでしょうか。しかし,点検業務は委任契約です。委任契約ですが,建物所有者の認識と裁判官の認識が近いとすれば,極めて厳しい注意義務が有ると判断される可能性が有ります。

 一方,建築の専門家は建築物は人間の体と比べれば単純とはいえ,簡単に不具合を見つけられないことを知っています。徹底的な破壊検査でもすれば分かるでしょうが,それでは本末転倒です。目視の外観点検で分かる事など限られています。車検と同じでブレーキパッドの摩耗などは一目瞭然ですが,エンジンの不調などは簡単には分かりません。ですから,車検の場合は点検項目がかなり明確に定めれています。建築物も一応定められていますが,車と違って規模も形状も様々ですので,どの程度行うかははっきりしません。

 というようなことで,建物点検業務は報酬の割に過大な責任を負わされる可能性のある仕事になりつつあり,関係者は戦々恐々としているのではないでしょうか。点検した建物のタイルが落下して人身事故を起こした責任を問われる可能性は十分あります。少なくとも,注意義務は果たしたという証拠を残しておく必要があります。安全にはコストが必要ですが,注意ばかり求められるおそれがあり,今後の動向が気になります。

 また,建物関係では,清掃などの施設管理業務もあります。これも委任契約ですが,いい加減な清掃にお金は払えないと建物所有者が思うのはもっともです。そこで,業務受注者も社内検査を徹底して,清掃の質の確保を計ったりしています。ただ,これは結果の保証に近く,委任契約で求められている業務遂行上の注意義務とは違うので,問題も有ります。例えば,建物使用者がきれい好きか,だらしない性格かで,建物の汚れ具合は違って来ます。その責任まで業務の受注者が負わせられては堪りません。水光熱費の節約なども同様です。

 逆に言うと,仕事の出来映えが受注者の能力や努力だけで決まらず,発注者やその他の条件に左右されるような性質のものを委任契約にしていると言えます。逆ではなくて,こちらが本来という気もしますが。にもかかわらず,多くの発注者の興味は出来映えのみで,しかも自分自身が出来映えに与えている影響を意識していない場合があります。出来映えに係わる当事者の一人という意識がなく,お金を出しているお客というつもりだけだと,困った注文主としてなにかとトラブルを招きます。