原発は国の基幹には係わらない

原発NO!に疑問を持っています
村上さんにおりいって質問・相談したいこと

この先スーパーエネルギーが発見されて、原発よりも超効率がいいけど超危険、なんてエネルギーが出たら、それは止めてせめて原発にしようよなんて議論になりそうな、相対的な問題にしかどうしても思えないのですがどうでしょうか……。

http://www.welluneednt.com/entry/2015/04/09/073000

 私はどちらかとうと反原発ですが,質問者の意見に近く,原発は相対的な問題であると考えています。村上春樹氏のように,国家の基幹にも係わるとは考えていません。

 引用部分の「スーパーエネルギー」と「原発」を,「原発」と「再生可能エネルギー」にでも置き換えれば現状の反原発になります。スーパーエネルギーの場合「それは止めてせめて原発」と判断する理由は,もし事故が起これば国家の基幹に係わるからだと思います。原発の場合では,質問者は国家の基幹には係わらないと考えているのに対して,村上春樹氏は係わると考えています。

 私は原発は国家の基幹に係わらないと考えますが,別の理由で反対です。国家の基幹に係わらないと考えるのは,原発事故の致命的影響は半径数十km程度,大きくても100km程度だからです。現実にも,チェルノブイリ級の事故が起きてもロシアはまだ存在しますし,福島第一の事故でも日本全体の生活はそれほど変わっていません。

 ただし,原発立地の自治体の基幹には大いに係わっています。これが私の反対の理由です。いまや,大熊町双葉町限界集落を抱える自治体同様の破綻の危機に瀕しています。一方で,基幹に係わらない国は国家全体にメリットのある原発を当然やりたがりますし,原発立地自治体以外の国民にとってはメリットが多く,デメリットはさほどありません。さらに,万が一の事態の実感が沸かなければ,原発立地自治体の住民も受け入れます。受け入れたから存在しているわけです。

 国家の基幹に係わり国民全体に深刻な影響が及ぶのなら国だってやろうとは思わないでしょう。そうではないから国は原発を選択しているのだと思います。しかし,立地近辺には深刻な影響が及ぶという不均衡・不公平があります。もちろん,被害を受ける地域にはそれなりの金銭的補償が前もって支払われていますし,事故後も支払われます。補償の前払いだと理解して,それでもって不均衡は補われているとその地域が承諾したのなら,反対する理由はありません。しかし,そうではないのは,福島第一の事故後の状況から推測できます。再び,原発を設置しようという機運がないのは,遅まきながら,実感が沸いたからではないでしょうか。実感とは,直接的な健康被害ではありません。そこには,当分住めなくなり,地域の自立的経済も破綻するということです。

 花火製造業者が私の家にやって来て,「花火工場をお宅の敷地に設置させて下さい」と申し出ても私は断ります。万が一爆発事故が起きれば,わが家族は全滅の可能性がありますから。通常,花火工場は事故が発生しても周囲に大きな影響が及ばないような業者自身の広い敷地に設置されます。原発も考え方は同じであるべきで,電力会社敷地内で被害が納まるようにすべきだと思います。国策ならば,国有地でも構いません。ただし,その広さは原発の規模にもよりますが,最低でも半径数十km程度が必要ではないでしょうか。それだけの敷地が必要となると経済的に原発は見合いません。

 ただ,一家全滅の可能性を理解した上で花火工場の申し出を受ける人がいないとも限りません。似たような判断は他にもしているからです。例えば,ガスコンロは火事を引き起こし一家全滅の可能性をはらんでいます。その可能性は誰でも理解している筈です。にもかかわらず殆どの家庭にガスコンロがあるのは,それが無ければ大きな支障があるからです。大量の死者を出している自動車を受け入れるのも同じ理由です。この種のものは,恩恵も被害も全員が平等に被ります。それに対して,花火工場や原発の利益は,それが存在しない場所にも及びますが,被害は存在する場所に集中します。

 この不均衡を埋め合わせるために,補助金や補償があります。花火工場を受け入れれば莫大な賃料が入って来ます。この報酬は捨てがたいのですが,別の収入源を考えた方がよいと私なら判断します。そうは言っても他の収入源が無ければそれに頼らざるを得ないのですが,そもそも,そういう売血でもしなければ喰っていけないという状況に問題があるのではないでしょうか。それを解決せずに,国全体の利益というのは順序が狂っているように思います。しかも,解決してしまったら,原発を受け入れる必要性はほぼ無くなります。例えば,東京都が原発を受け入れるとは思えません。

 従って,背に腹は代えられなという状況でもない限り仮に花火工場の経営が国民生活に相当の影響があるとしても,利己的な私は一家安泰を優先します。国家全体と公共の利益のために,1家族が危険な博打をしなくてもよいでしょう。公共の利益のためなら,不利益も国民全体で負担して欲しいからです。自治体の首長なら,国家の利益には配慮するにしても,先ずは自分の町のことを考えるべきではないでしょうか。

 原発事故でも福島第一のように直接的人命被害はなく,居住不可能になるだけなら,移住の補償金で解決できるかも知れません。それはそれぞれの個人の判断です。しかし,自治体がそれを認めてしまったら,永続する郷土ではなくて,仮りの居住地に過ぎなかったということになります。それは最早自治体とは言えず,国の補償金で一時的に運営され,事故によって解消する暫定的な寄り合い所帯です。定住地を持たず,どこでも仕事が可能な人なら,そのような場所でも暮らせますが,多くの人は隣人と付き合い土地に根ざした生活というものがあります。

 別の例えをすれば,自治体にとって原発とは,年収500万円の家庭が,数千万円の株取引をするようなものだと思います。確率的には儲かる可能性が高くても,リスクが大きすぎます。つまり,経済的体力との相対的問題であって,条件によって反対にも賛成にも変わります。ただ現状は村上春樹氏のいうように「明日から家を捨ててよそに移ってください」と言われる可能性があり,実際にも福島第一原発近辺はそうなってしまいました。この事実を無視して,国家全体の利益になるからと賛成はできないません。

 最後は空想の話です。仮に私が広大な土地を保有する大富豪ならば,花火工場の申し出も一考します。万が一の事故でも致命的でないかも知れないからです。原発アメリカや中国のような広い国で人も住まず,他に用途もない広大な土地があるのなら良いのじゃないかと思います。あるいは,日本の狭い国土に適した超小型炉とかも。原発には廃棄物処理廃炉という未解決の問題がありますが,それらも含めて技術的に解決できるなら私が反対する理由はなくなります。ただし,現時点では空想でしかありません。将来のことは分かりません。


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