「幼稚な騙し」という幼稚な騙し

原発再稼働と司法(下)「ゼロリスク批判」を嗤う福井地裁決定の「明晰な常識」
http://www.huffingtonpost.jp/foresight/nuclear-plant-justice_b_7837758.html

 日本における自動車の登録台数は、ざっと8000万台あまり。対する原発は、50基。

 自動車が1台、1年稼働して死亡事故を起こす確率は、8000万分の5000=1万6000分の1である。日本の原発それぞれの稼働年数を全部足し合わせると、およそ1500となる。1基の原発が1年間稼働して、死亡事故を起こす確率は、1500分の2=750分の1となる。どちらが死亡事故の確率が高いかは一目瞭然だろう。

 これは,交通事故死者が年間5000人に対して,原子力災害の死者は30年間で2人の比較をしているのですが,間違いです。塩谷喜雄氏の比較は,1年間に1台の車が原因で死ぬ人数と1基の原発が原因で死ぬ人数を比較しています。ちなみに人数は確率ではありません。(*1)この比較は,タクシーの運転手が自分の車の事故で死ぬ危険性と原発の従業員が職場の原発事故で死ぬ危険性という職業別の危険性の比較の場合は妥当です。しかし,それでは原発の是非の判断にはならず,国民全体の危険性を比較しなければなりません。タクシーの運転手も歩いて居るときに他の車にぶつけられることもあり,それは走行している車の数が多ければ増えます。一人の人間(或いは日本国民)が自動車が原因で死ぬ期待値と原発が原因で死ぬ期待値の比較になります。従って,交通事故の,5000人(÷1.3億人)÷1年と,原発の,2人(÷1.3億人)÷30年の比較でよいのです。

 塩谷喜雄氏は,食中毒死と熊に襲われて死ぬ危険の比較を,食中毒菌1個と熊1匹で比較しているようなものです。それなら,熊が怖いに決まっています。食中毒は膨大な数の菌が存在し,遭遇しやすいから怖いのです。もし,菌の数が熊の数と同じなら,まず食中毒は起こりません。現実には,私はカキに2回あたったことがありますが,熊に襲われたことはありません。正しい比較をすれば原発が車より安全なのは間違いありません。原発に反対する理由に事故の期待値や確率はなりません。原発の問題は別のところにあり,それは以前に書きました。

不公平を内在する原発(1)
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20130720/1374289086
不公平を内在する原発(2)
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20130720/1374289328
鈴つけ役への説明
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20130720/1374298216

*1:「自動車が1台、1年稼働して死亡事故を起こす確率は、8000万分の5000=1万6000分の1である。」という言い方が間違っていることは,「日本で(8000万台の)自動車が事故を起こす確率は5000である」と言い換えれば明白です。確率が1を超えることはありません。確率というのであれば例えば「1台の自動車が1年間にn人殺す確率」と言わねばなりません。この確率をP(n)とすれば,1台の自動車が1年間で人を殺す人数の期待値を計算出来ます。それは,ΣnP(n)となりますから,1/16000=ΣnP(n) という関係になり,これを満たすP(n)は一つに定まりません。