マイナス金利

国債入札、初のマイナス金利…買い注文殺到で
 http://www.yomiuri.co.jp/economy/20141023-OYT1T50102.html

 10月22日ののエントリーで,借金するだけで得になるPFIのVFM計算に触れた。現実にはそんな馬鹿なことはあり得ないのだが,マイナス金利という似たような現象が有る。折しも今日(10月24日)の朝刊に短期国債がマイナス金利になったと報道されていた。マイナス金利をまともに受け取ると,お金を貸した方が金利を支払い,借りた方が金利を受け取るという実に不可思議なことになる。利子を支払って金を貸す(国債を買う)馬鹿がいるのかと思ってしまうが,実は裏話があって新聞記事にも解説してあった。

 それによると,日銀が通貨流通量を増やしたいために,国債を大量に買うだろうという予測が有るらしい。額面の金利はマイナスでも実質の取引ではプラスになると期待しているわけだ。要するにマイナス金利とは経済活動の一部分に着目しただけで,全体としてはプラス金利に相当する分を支払ってくれる者がいるということなのだ。でなきゃ,金融機関がそんな買い物をするはずない。

 世の中には「名目(額面)」と「実質」があるので,それに騙されてはいけない。日本の国債のマイナス金利は初めてだそうだが,海外ではよく有るらしく,銀行金利のマイナスというのも時々有る。そのためか,昔,私が「PFIのVFM計算は奇妙だと思わないか」と関係者に尋ねた際にも,「マイナス金利というものもあるのだよ」と言われたことがある。しかし,これは「名目」と「実質(額面)」を混同しているのだと思う。

 マイナス金利国債を買って,満期まで保有して国から買値以下の償還を受けて喜ぶ馬鹿はいない。それ以前に日銀が高値で買い取ってくれるという見込みがあるから買うのだ。マイナス金利とは局面の一部を見ているだけだ。ところが,PFIのVFM計算では日銀が高値で買い取ってくれるというような要素は一切無い。純粋にマイナス金利で融資してくれる馬鹿な金融機関が存在するという計算なのだ。この説明は大ざっぱであり,正確に(それでも大幅に簡略化しているが)説明すると次の様になる。

 VFM計算とは,国が保有の自己資金で事業を行う場合と,民間資金を利用(つまり借金して)事業を行う場合の比較をする。この際,現在の金の価値と将来の金の価値には違いがあると考える。今一万円もらうのと,1年後にもらうのではどちらが良いかと問われれば,誰だって「今でしょ」と答えるはずだ。だから,将来の収入や支出は割り引いて考えるのだ。この割引率を金利のようなものと説明することが有るが,少し違うと私は考える。1年後に1万円をもらえると言う約束は確実ではない。くれるという相手が破算しているかも知れないからだ。だから,まるまる1万円の価値とは考えられず,1万円を貸して1年後に1万円を返してもらうという約束は公平ではない。要は,貸し倒れの可能性があるということだ。個人的な貸し借りのような全く儲けを考えない場合でも,将来の返済額は大きくしないと釣り合いがとれない。これが社会的割引率だと私は理解している。金融機関が融資する場合の金利は,これに手数料や利益を加算しなければ経営が成り立たない。つまり,金利は社会的割引率より必ず大きくなるはずだ。世の中で一番信用のある相手への利益抜きの金利が社会的割引率と考えてもよい。

 さて,国が保有の自己資金1万円で事業を行う場合の支出の現在価値は,1万円そのままだ。一方,1万円を借りて,1年後に5%の金利即ち,1万5百円返済する場合は,社会的割引率を3%とすると,1万5百円×0.97=10,185円となる。従って自己資金で事業を行った方が得だ。ただ自己資金が無ければ借りるしかない。それでも,事業からの収入の現在価値が185円以上あれば借金して事業を行っても黒字で成立する。融資する側も185円の利益が得られるので,融資も成立する。

 ところが,私が見たことのあるVFM計算は,金利が2%で社会的割引率が4%と言うようなものだった。1万円を借りて,1万2百円を返さなければいけないが,それを現在価値化すると9,800円程度にしかならないので200円のVFMが出るという計算なのだ。この事は,現在価値化すれば貸した金より安い返済額の融資をする馬鹿な融資者の存在を前提にしている。実は1万2百円の債券を日銀が1万1千円で買い取ってくれるというような裏話は何処にもない。もしあるのなら,それはVFM計算書に明記しておかなければならない。

 この4%という割引率は長期国債金利から来ているというような解説付きでPFIのマニュアルに記載してあった。しかし,そのデータは随分古く,当時は既に低金利時代に突入していたのだ。ハコモノPFIの実施部隊は建設の技術者であったりして,経済の門外漢のことが多い。単にマニュアル通り行っていただけではないかと私は疑っている。私自身も門外漢であるので,専門家に質問したこともあるが,答えをもらえなかったり,有っても腑に落ちる説明ではなかった。そのため,いまだにスッキリしない状態が続いている。私が勘違いしている可能性も十分有る。もしそうであれば,指摘して頂ければ非常にありがたいのだが。

 なお,マイナス金利のような現象は本来あり得ない不安定状態だが,市場の調整が行われる時差で一時的に生じている現象である。物理現象なら過冷却のようなものではないだろうか。投機とは不安定状態が解消される隙を突く職人技のようなもので,時々刻々の判断が必要である。一方のPFIのVFM計算は,数十年という長期にわたる事業計画であり,誰もが納得出来るものでなければならず,全く次元の異なることと思う。