不安解消のための理屈と経験

[有るかどうかわからないのは小さいから]の続きみたいな話です。
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20140522/1400748240
■ありふれたものに大きな影響があるなら既に知られているはず
  純度の高い金鉱石やまとまった量の金鉱石は希です。従って、純度の高い金鉱石にめぐり合う可能性は低いので、大金持ちになる心配はそれほどありません。一方で、純度が低かったり、僅かな量ならそこらへんに存在します。パソコンや携帯電話や金歯に金は含まれていますし、空気中にも金原子が1個や2個なら含まれているかもしれません。従って、これらにめぐり合う可能性は高いです。いや、既に巡り合っています。だからと言って大金持ちになって節税対策に頭を悩ます心配はありません。その程度の量では財布に与える影響は小さいですから。

 金に限らす、大抵のものが同じ傾向にあります。エントロピーは増え続けるという法則がありますから、この現象はかなり普遍性が高いといえます。物質でも情報でも薄く散らばる傾向があり、逆に高濃度に集まってくるというのは例外です。

 金は固まって存在したほうが嬉しいですが、毒物は薄いほうが有難いです。毒物を大量に摂取すると危険ですが、少量なら健康に影響はありません。これは大変好都合なことです。なぜなら、毒物もまとまって大量に存在することは稀だからです。一酸化炭素は危険ですが、少量なら空気中にも存在して健康への重大な影響はありません。もし仮に、空気中の少量の一酸化炭素の健康影響が大きいなら、いたるところで中毒が発生するでしょう。このような状況では、少量の一酸化炭素中毒は非常にポピュラーで、誰でも知っていると想像できます。医学界で少量の一酸化炭素中毒症状について分かっていない、なんてことはないでしょう。

 放射線の健康影響も同様で、仮に、低線量の健康影響が大きいのなら、至るところで放射線障害が発生しているはずです。まず自然放射線がいたるところに降り注いでいますが、それ以外の人工の放射線も低線量ならあちこちにあります。大学や研究所には大抵RI施設がありますし、研究用原子炉もあります。病院では検査用や治療用の放射線源が沢山あります。勿論厳重に管理されて高線量が漏洩することは殆どありませんが、低線量はそうはいきません。管理する基準値以下は管理されませんからね。また、非破壊検査でもつかわれていて、時々廃棄の処理が適正でないため汚染事故が発生しています。時計の文字盤の蛍光塗料からも出ています。このようなSFの世界では、低線量放射線の健康影響は風邪みたいにおなじみの症状でしょう。

 こういうことを考えると、低線量放射線に知られていない高線量並の健康影響があるということは非常に考えにくいです。もちろん、気づきにくい小さな健康影響ならあるかもしれません。大きな影響が全く有り得ないとは言いませんが、物事を心配する順番としては、最下位に近い部類だと思います。

■不適切な例え
  大きな影響が有ることが,あとでわかった例として水俣病が良く持ち出されますが,水俣病は大量の有機水銀が魚に含まれており,その出所がチッソの工場であることがわかったのです。よくよく調べて見たら,少量でも重大な影響があることがわかったのでは有りません。

 有機水銀が有害であることは大昔からわかっていました。水俣病でよくよく調べてみてわかったのは魚に大量に含まれていたことと,その出所です。

 水俣病放射線に例えるなら,次の様な状況が妥当です。

 ある地域で急性放射線障害と思われる被害が発生した。
 調べてみると,その地域の空気や土壌から大量の放射性物質が検出され,それは,その地域にある廃棄物処理場から,排出されたものであることがわかった。

 このような重大事故では鼻血だけでは済まず、他にも深刻な症状があらわれているはずです。鼻血や鼻詰まり、肩こりや頭痛、このような症状はありふれていて、ちょっとした原因で発生します。しかし、同じ症状が放射線で発生したとなると、命に関わる重大時です。言葉で書けば同じ症状ですが、実際にその症状を呈する患者を観察すれば全く違う状態だということが一見してわかるはずです。水俣病でも深刻な症状があらわれていて、鼻血がでて気になるというような症状とは次元が違います。


■不安を感じる理由
 しかし、同じ頭痛でも単なる偏頭痛の場合と重大な脳の障害の予兆である場合があり、その区別は素人には難しいです。素人判断せずに医者に診てもらった方が良い場合があります。そのようなこともあるので、鼻血を心配する人がいても、おかしくありません。ですので、医者に診てもらうという行為は、一人で心配するよりは賢明です。忙しい医者にとっては迷惑かもしれませんが。ただ、困ったことに頭痛なら医者の診断を信用しても、鼻血の診断になると信用しなくなったりします。

 なぜ信用しないかというと、原発事故という極めて希な事態から派生した出来事だからじゃないかと思います。自然放射線原発由来の放射線も同じ放射線なのですが、希な原発事故由来の放射線には何か知られていない恐ろしい危険が潜んでいるような疑心暗鬼に陥りがちです。素人考えでは、希な出来事は専門家もよくわかっていないのではないかと心配になります。馴染みのない遺伝子組み換え食品のような新しい技術は専門家だってよくわかっていない問題があるかもしれないから避けた方が良いと保守的な反応をするのと同じです。

 確かに原発事故は稀ですが、実は,放射線の影響は非常に良く分かっている部類になります。というのも,普通なら行えない人体実験とも言えるデータが大量に有るからです。動物実験結果から推測するしかない様々な物質より余程詳しく分かっています。

 ただ、そういう理詰めの説明をしても不安はすぐには無くなりませんね。馴染む時間がどうしても必要です。慣れて怖くなくなる必要が理屈の他に必要なのです。逆にいうと、本当に危ないものでも慣れれば怖くなくなるという面もあります。だから本当に危ないものを正しく怖がるためには理屈が必要で、この場合はそれほど時間はかかりません。

 しかし、恐怖をなくすには理屈の他に時間が必要で、それがどれほど長い時間なのかは、いまだに飛行機が怖いという人がいることからわかります。私も何となく怖いです。自動車より余程安全だと説明されても不安は無くなりません。自動車が地面でしっかり支えられているということは,理屈ではなく実感で感じる事が出来ます。飛行機も揚力でしっかり支えられているのですが,これは実感として感じることは困難です。

 エンジンが故障しても自動車は落ないけど飛行機は落ちるという違いがあるという人もいますが、自動車だってブレーキが故障すれば危険なのです。実際、私は免許取り立ての頃はブレーキが効かなくなる夢をよく見ました。あせりますよ。運転の経験を積むにつれてそういう夢も見なくなりました。飛行機の恐怖も経験を積んで克服するしか有りません。そう言う経験は昔より増えているので,飛行機が怖い人は少しづつ減っています。放射線への恐怖の克服も理屈の他に経験が必要だと思うのですが、一般人にはなかなか難しいです。