定量的に考える

 放射能汚染水を希釈して海に撒けば害はないという菊池誠さんの発言に引っかかっている人がいます。

菊池誠?@kikumaco 2013年7月31日 - 20:55
放射能汚染水だって、タンカーみたいなもので運んでいって海に薄ーく広ーく撒けば、害はまったくない。それができないのは、やってはいけないことになっているから

 薄めてもなにがしかの量が含まれているのだから,続けていれば大量の汚染水が放出されることになり危険であるように感じるのでしょう。それは,次の発言からも伺えます。


影山竜(脱原発に一票・困民党員) ?@bontaro_1 8月8日
@kikumaco 最終的に行方不明の核燃料が全て海に流れ出したとしてもですか?そして、世界中の核関連施設が全てフクイチ級の事故を起こしてもそのやり方で大丈夫ですか?フクイチはやってもいいけど他はやってはいけないなんて理屈は当然通用しないですから。

 菊池さんは、そんな話はしていないのですが、もし可能なら問題ないのではないと思います。薄めるだけの水が存在するのであればですが。普通,様々な汚染物質も許容出来る濃度まで薄めれば放出して構いません。どれだけ大量に放出しようが,薄めた濃度より濃くなることはあり得ないからです。仮に,許容する濃度を厳しくして一般環境濃度と同じした場合を考えれば分かりやすいでしょう。一般環境と同じかそれ以下の濃度のものをいくら放出しても,一般環境の濃度は変わりません。

 問題は,薄めるだけの海水が存在するかです。海水の量は莫大なので普通はこの心配は無用です。しかし,小さな溜め池に放流する場合はこの限界が効いてくる可能性があります。許容出来る濃度を1ppmとすると,1kgの汚染物質を薄めるには,1000トンの水が必要です。溜め池の容量が100トンしかなければ,1kgの汚染物質を薄めて放流することは不可能です。

 多分,菊池発言に引っかかっている人は,この溜め池の様な状況を考えているのだと思います。海は広く海水の量も莫大ですが,有限であることは溜め池と同じです。世界中の核関連施設の放射性物質の量が溜め池に放流する汚染物質1kgに相当するようであれば,不可能ということになります。福一原発の汚染水程度であれば,多分薄めるだけの海水は十分有ると菊池さんは計算したのでしょう。

 もちろん,濃い濃度で放出して,海水で薄まることを期待しては駄目です。希釈してから放出しなければなりません。それは,一般の汚染物質の排出と同じです。

 なお,菊池さんは薄めて放流ではなくて,どこか外洋で広く薄く撒くと言っていて私の説明と少し違います。原液を広く薄く撒くということは実際上困難ですし,管理や監指も出来ません。だから,禁止されているのではないでしょうか。薄めてから放出するのであれば,外洋まで行かなくても,沿岸でも全く問題有りません。管理も可能です。

 自然の海水にも放射性物質は含まれているわけで,それと変わらない排水を放出しても,何も変わりませんから。実際に福一の汚染水に含まれる放射性物質の量と海水の量で計算して考える事が重要で,何となく考えているだけでは,不安になるだけです。もっとも,定量的思考を拒否し,一切,放射性物質の放出は許さないと考えている人には通じないでしょうが。