豊洲地下水なんて目じゃない汚染源が室内にあるが換気すれば何の問題もない

 何度か引用した専門家会議の「7.土壌中からの汚染空気の曝露による影響の評価 」はとにかく安全側,保守的な評価です。第一に,建物の室内の空気について考えているのに,建物の床を無視しています。盛土の土間の上に部屋があるという設定です。コンクリートの床があれば,土壌汚染対策としてはそれで十分だと思うのですけどね。でも,それでは説得力に欠けると思ったのか,数値を示す計算をしていますが,その仮定がべらぼうに安全側なのです。

 室内空気の有害物質濃度を計算するために,気流については換気回数0.5回/hという値を使っています。これは建築基準法の住宅の最低基準です。実際は住宅居室や事務室なら5回/h,他人の集まる会議室,展示室なら10回程度が普通です。市場は多くの人が活動しますので,会議室よりも換気回数は多くしないといけないでしょう。換気回数0.5回/hから求めた風速はなんと,0.625cm/sです。これは,ほとんど空気の流れがないレベルです。

 それでも,コンクリート床のクラックから全く流入しないとは言い切れませんが,きわめて微量です。換気を行えば,簡単に浄化できるレベルです。そして建築物は換気するものです。通常の建築物では室内の汚染を清浄な外気で換気しますが,室内空気の最大かつ共通の汚染源は人間です。人間の呼気には二酸化炭素一酸化炭素が含まれていますので,換気が必要です。ちなみに,ノンスモーカーでも一酸化炭素濃度が0〜7ppm,超ヘビースモーカーでは35ppm以上の呼気を出しています。一方,ビル管法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)の基準は10ppmです。つまり,基準値の3倍以上の濃度の一酸化炭素を放出する汚染源が室内に存在する可能性も多いにあります。また,二酸化炭素のビル管法の基準値は1000ppmですが,空気中に30〜40ppm,呼気中には4000ppm程含まれています。基準値の3,4倍の濃度の二酸化炭素を放出する汚染源が確実に屋内に存在していることになります。それ以外にも,湯沸かし室などでは,燃焼ガスが発生しますし,粉じんも発生します。料理すれば発がん物質を含む煙がでますし,室内に持ち込まれた塗料や建材からはVOCがでています。

 これらの室内の汚染源に比べれば,地下水から揮発して微小なコンクリートのクラックを通り抜けて侵入してくるベンゼンなど無視できる量です。環境基準0.01mg/Lの100倍の1.1mg/Lの地下水の上に盛土だけ行いコンクリートの床がなく,0.625cm/sというほとんど空気が停滞している仮想室内でも大気の環境基準0.003mg/㎥以下になるというのが専門家会議の計算です。実際にはそれよりはるかに少ない量しか侵入してこないはずで,しかも換気回数0.5回/hの数十倍の換気を行います。

 簡単に言えば,建築物の室内では豊洲市場の地下水から発生する量なんて目じゃないほどの有害物質が発生していていますが,換気によって浄化しているのです。室内に侵入しないように莫大な費用をかけて土壌対策などしなくても,普通の換気をしていれば十分だったのではないでしょうか。

 念のために,室内に侵入させない対策をするのなら,建物下は盛土にするよりも空間にしてそこを換気する方がはるかに有効です。盛土にすれば床下換気は出来ませんので,地下水から揮発してきたベンゼンの行き所は床のクラックを通って室内に行くぐらいしかありません。床下換気を行い屋外に出してしまう方が良いに決まっています。もっともその必要もないと思いますが。

 豊洲の土壌汚染対策には,ケガレ思想みたいなものを感じます。AIDS感染をおそれ患者と握手しないのに似ています。フグは食べなければ中毒しませんが,フグ毒の瘴気を閉じ込めようと,厳重に密閉容器に保管しているような滑稽さです。豊洲の地下水は環境基準を満足せず,飲めばおなかを壊すかもしれませんが,地上に揮発してきたベンゼンなどを恐れることはありません。風が吹けばあっという間にどこかに拡散されてしまうだけです。

 これに対して高レベル放射性廃棄物や遮断型最終処分場の廃棄物は隔離遮断保管しなければなりません。豊洲の対策は地下水をまるで高レベル放射性廃棄物のように扱っているようです。しかし,地下水は地中でどこに流れていくか分かりませんし,遮断できません。ベンゼンのような物質は大防法でも隔離遮断するようにはなっていません。工場の機器類から排出されるベンゼンの排ガスは大気に放出して薄めればよいという考え方です。もちろん排ガス濃度の規制値はありますが,50〜200mg/㎥というレベルで,大気環境基準0.003mg/㎥とはけた違いです。豊洲の土壌を機器と考えれば,50〜200mg/㎥という濃度でも,速やかに大気で薄められるのであれば問題ありません。実際には密閉されていたモニタリング空間でさえ水銀蒸気を除いて環境基準以下でした。


(参考)大防法の排ガス放出量と豊洲市場の放出量の比較

 大防法のベンゼンを蒸発させる機器の規制値は次の通りです。
既設:
200 mg/㎥N(排ガス量 1,000 ㎥/h以上 3,000 ㎥/h未満)
100 mg/㎥N(排ガス量 3,000 ㎥/h以上)
新設:
100 mg/㎥N(排ガス量 1,000 ㎥/h以上 3,000㎥/h未満)
50 mg/㎥N(排ガス量 3,000㎥/h以上)

 排ガス量の上限が3,000㎥/hの新設機器のベンゼン濃度規制値は100 mg/㎥ですので,1時間当たりの放出量上限は,

100 mg/㎥×3,000㎥/h=300,000mg/h です。

一方,豊洲市場ベンゼン濃度の計算は次のようにしています。
盛土表面から高さ(大気混成域の高さ)2mの範囲までベンゼンが供給され続けますが,1時間に室内容積の半分が入れ替わり(換気回数0.5回/h),濃度0.0013mg/㎥の平衡状態になります。水産仲卸市場棟の建築面積は70,000㎡なので,盛土表面からの供給量は,

0.0013mg/㎥×70,000㎡×2m×0.5回/h=91mg/h

地下水から盛土を介して地表に出てくるベンゼンは圧倒的に少ないです。