地下水の汚染は地上の建物の室内空気にどれだけ影響するか?室内空気は食品にどれだけ影響するか?

 表題の疑問は,盛土報道の当初からのもので,ほとんど影響しないんじゃないのという直観がありました。直観はあくまで経験的なもので,例えば,都市の地下には想像しただけで気分が悪くなりそうな下水の汚水が走り回っていますが,その上の建物で普通に生活し,食事もしています。また,発がん物質を多く含む燻製の煙が充満している部屋にはとても入っていけませんが,そこで燻された食品は美味しいといって食べます。

 食品を扱う施設では,一般施設以上に衛生に気を遣う必要がありますが,それは急激に増殖する細菌やウイルス汚染があるからで,空気中の発がん物質の類は一般環境レベルで十分でしょう。地上の運搬車両からは大量の排気ガスが放出されているのに気にせず,地下4.5m下の地下水からわずかに揮発する空気よりも重いベンゼンなどを気にするのはどうも解せませんでした。

 しかし,それも程度問題で,地下4.5mの土の中のこととはいえ,下水汚水が泣いて逃げ出すようなとんでもない汚染があるのなら危ないかもしれません。やはり定量的に判断しなければなりません。ということで,専門家会議の「7.土壌中からの汚染空気の曝露による影響の評価」の計算を自分で追跡し,さらに条件を変えて計算してみたわけです。結果は以前の記事に書きましたが,土壌汚染は地上の建物空気にほとんど影響しませんし,建物空気の汚染はそこで扱う生鮮食品にほとんど影響しないことが確認できました。

 例えばベンゼンでは,排水基準(0.1mg/L)の10倍以上,環境基準(0.01mg/L)の100倍以上の1.1mg/Lの汚染地下水があっても,地上の空地中濃度は0.0013mg/m^3程度で,大気中環境基準(0.003mg/m^3)の半分以下です。さらにその空気中から食品の水分に移行する量は0.0000057mg/Lで,飲料水水質基準(0.01mg/L)よりも3桁小さい値です。しかも,この計算では建物のコンクリート床は無視してあり,盛土の直上という想定です。

 さらに,前の記事に書いたように,最終的な専門家会議提言は地下水濃度は上記計算の1.1mg/Lではなく,建物敷地下以外は排水基準(0.1mg/L)以下に,建物建設地は環境基準(0.01mg/L)以下となっており,技術会議提言では,すべて環境基準以下となっています。つまり,汚染をなくすわけですので,汚染対策としての盛土は不要です。それはともかく,排水基準の10倍,環境基準の100倍の汚染があっても地上の食品には影響しません。

 土壌汚染よりも,影響の大きい汚染源が地上にいくらでもあるのに,ずいぶん過剰でバランスの悪い提言です。でも,そもそも土壌汚染を心配する人たちを説得するための検討なので,こんなことになっているのだと思います。説得のため過剰な対策をすればするほど,それを守ることが大変になります。食品に触れるわけでもない地下水が環境基準を少しうわまわっただけで,食の安全を脅かすと喧伝されてしまいます。実際には,地下水に環境基準の100倍の汚染があっても,むき出しの盛土上の食品という非現実的な想定でも,その汚染は飲料水基準を3桁下回る程度なのですけどね。