分母が足りないー総合コスト縮減率(1)

1. 出費削減
 家計が苦しいので,光熱水費を節約。2万円を1.8万円に,10%削減。しかし,これ以上どうしても下がらない。何とか20%は削減したいのだが。そうだ,食費も切り詰めよう。3万円を2.8万円に2千円削減。
光熱水費と食費で合計4千円の削減。従って,縮減率は4千円/2万円=20%。目標達成ヽ(゚∀゚)/

 説明するまでもない計算間違いです。正解は,4千円/(2+3)万円=8%。
 ところが、同じような計算間違いを国交省がしています。

2. 国交省の総合コスト構造改革
 国交省では,総合コスト構造改革というものを行っています。元々は,H9から始まった工事費のコスト縮減でした。それが,H12から,維持管理費や便益をコストに換算して含める「総合コスト縮減率」になりました。更に,H15から工事実施上の施策に加え公共事業の総てのプロセスを含む「コスト構造改革」に衣替えしました。現在はH20からの新コスト構造改革になっています。

 ただ,改善率として計算する縮減率は総合コスト縮減率からあまり変わっていません。この総合コスト縮減率が奇妙な代物で,世間一般でいう縮減率とはかけ離れています。総合コスト縮減率の計算式は,下記リンク先でご覧頂けます。
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha02/13/131220/131220_1.pdf#search='%E7%B7%8F%E5%90%88%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%88%E7%B8%AE%E6%B8%9B%E7%8E%87'

 一見して,分母が足りない様ですが,ちょっと分かりにくい表現になっています。そこで,世間一般でいうところの分かりやすい縮減率から説明し,それと比べてみます。


3. 世間一般のコスト縮減率
 コスト縮減率とは,改善前のコストに対する,改善による縮減額の割合のことです。簡単明瞭で,工事費に関してならば,次式で計算できます。

    コスト縮減率=縮減額/縮減前の工事費

 建設段階の工事費だけでなく,工事完成後の維持管理費を含めても同じです。

   コスト縮減率
    =(工事費の縮減額+維持管理費の縮減額)/(縮減前の工事費+縮減前の維持管理費)
    =(ΔC+ΔM)/(C0+M0)

C0:改善前コスト
      C1:改善後コスト
      M0:改善前維持管理費
      M1:改善後維持管理費
     ΔC:工事費縮減額  C0-C1
ΔM:維持管理費縮減額 M0-M1

 さらに,費用(コスト)だけでなく,便益の改善も考慮するのが,総合コスト縮減率です。便益を含んだものをコストと呼ぶのは,おかしいのですが,便益を産むためのコストに換算して計算すればよいだろうという考えです。

 これはには少し工夫が必要で,具体的には次の様に考えます。

 改善前にはC0を要して,便益B0を得ていたとします。これを改善し,コストがC1、便益がB1になったとします。便益が違っていては比較できませんので,同じB1の便益を得る為に改善前の方法でかかるコストを仮想の改善前のコストとします。

 改善前にはB0を得るためにC0のコストを要していたので,単位便益当たりに必要なコストはC0/B0となります。従って,B1を得る為のコストはB1×C0/B0となります。これを仮想の改善前コストとし,改善後C1に縮減したと考えます。

便益考慮建設コスト縮減率=便益考慮縮減額/仮想改善前コスト
               =ΔCb/(B1×C0/B0)

B0:改善前便益
      B1:改善後便益
     ΔCb:B1×C0/B0-C1

 維持管理費も含めれば,下式になります。

   総合コスト縮減率=(ΔCb+ΔM)/(B1×C0/B0+M0)

4.国交省の総合コスト縮減率

 これに対して国交省の総合コスト縮減率はどうなっているかというと,

  国交省総合コスト縮減率=(ΔCb+ΔM)/(C0+ΔM)

 全然分母が不足です。
 維持管理費と便益考慮を同時に考えるとゴチャゴチャするので,分けて解説します。

 先ず,建設費と維持管理費については,

  (ΔC+ΔM)/(C0+M0)

 とすべき処を,
 
   (ΔC+ΔM)/(C0+ΔM)

 としています。M1だけ分母が足りません。
 これから建設費を取り除き,維持管理費だけの縮減率にすると,

   ΔM/ΔM=100%

 となってしまいます。縮減額に関わらず常に100%になる殆ど無意味な数値。
 
 次に,便益考慮建設費については,

   ΔCb/(B1×C0/B0)

 とすべき処を,

   ΔCb/C0

 としています。
 分子を「【改善後の便益と同じ便益を得るために必要な改善前のコスト】からの縮減額」に修正したのですから,分母は当然【改善後の便益と同じ便益を得るために必要な改善前のコスト】でなくてはなりません。しかし,【改善前の便益を得る為の改善前のコスト】になっています。分子と分母が整合していません。これだと,コストに比較して大きな便益が得られる場合に,縮減率が100%を越えることが有り得ます。

 この様に定義したと言われればそれまでですが。(続く)