昭和19年1月上旬 豚生肉の美味しさ

 或日,U生,K池,M池,N田4人で分哨勤務したことがある。U生上等兵がジャングル内で豚の足跡を探し出し,此処には豚が出てくる何とか仕留めたいと言う。他の3人は立哨は自分等でやるからU生上等兵はジャングル内豚の通路に張り番をしてくれと頼み,OKとなった。U生上等兵は豚の通路に此方が見えない樹木で遮蔽し,銃を構えて一晩中豚と対視する。夜二時頃銃声一発,仮眠していたM池,小生が飛び起きる。「班長,命中した来てくれ」と呼ぶので行った処大きな豚が横になっている。二人で分哨まで引きずり運んだ。いよいよ勤務交替。分隊へ土産物も出来た。前後肢を綱で結び棒を通してK池,U生上等兵が二人で担ぐ。意気揚々と分隊へ帰る途中M地上等兵が「班長,この肉食べてよいですか」と聞く。「早く帰って料理して戴こう」と言うと「班長今ですよ」と言う。「今生の侭食べるのか」と問い返すと「これが美味ですよ」と言うので「U生君が仕留めて権利がある,聞いてみよう」と彼に聞くと「どうぞ」との返事,海に向かって休憩した。M地上等兵は股の処をナイフでえぐり取り,おいしそうに一人で食べた。食べ終わると「U生君有り難う,これで元気が出た俺が担ぐよ」と言って担ぎ帰隊したが,生ってそんなに美味だろうか。