悩ましい「3回コイン投げ」 ー 間違っていた

 前の記事の続きです。やはり、私が間違っていました。

 例えば、初めて〇〇✕が出る2回前までのパターン〇〇、〇✕、✕〇、✕✕のうち3つが可能だとしても、同じ頻度ではありませんでした。どのような頻度になるかは、簡単にはわかりません。試しに、Aが〇✕〇、Bが〇〇✕と予想した場合に、10回までどうなるのか調べたのが下の図です。(見づらくてすみません)

 4回目から10回目にAとBの予想が当たる比率は、1:2、1:3、2:5、3:8、7:12、13:18、6:24となりました。(黄色:オレンジ)それぞれの回で黄色の確率を出して、10回まで累計すると、0.331927でほぼ1/3です。

 規則性が殆ど見いだせない級数なのに、1/3という単純な値になりそうなのが面白いです。なぜなのか分からず、行き詰っていますが。

 

■ 悩ましい「3回コイン投げ」

 「屈辱の数学史」(マット・パーカー)を読みました。その中に、うっかり勘違いしやすい確率の問題が載っています。

 2人で次のような賭けをしたとき、どちらが勝つ確率が大きいかという問題です。

 コインを連続して投げ続け、予想した3回連続のパターンが先に出た方の勝である。ただし、3回ごとに区切るのではなく、両者の予想のどちらも出なかったら、次の1回を投げ、その前2回と合わせた3回のパターンで判定する。そのようにして1回投げるごとに判定する賭けで「あなた」が先に予想し、「私」はそれを見て、自分の予想をするならば、「あなた」の予想が先に出る確率はどのようになるか。

 3回ごとに区切っての判定でないのが少し気になりますが、3回連続の出目のパターンの確率はどれも1/8なので、後で予想したところで、じゃんけんの後出しではないので、「あなた」の勝つ確率は変わらないように思えます。著者も最初はそう思ったと書いています。しかし、実はじゃんけんの後出しと同じで、「あなた」の勝つ確率は次のようになると書いてあります。

あなたの予想  私の予想    あなたの勝つ確率

表表表     裏表表     12.5%

表表裏     裏表表     25%

表裏表     表表裏     33.3%

表裏裏     表表裏     33.3%

裏表表     裏裏表     33.3%

裏表裏     裏裏表     33.3%

裏裏表     表裏裏     25%

裏裏裏     表裏裏     12.5%

 

 具体的に確率を確認してみたところ、上記の二つ目まではすぐにわかりました。ところが、3番目で行き詰まってしまいました。順番にコインを投げて「あなた」の予想が先に出るパターンを調べる方針だったのですが、爆発的に調べるケースが増えてしまい収拾がつかなくなってしまいました。この過程でいろいろ面白いことに気づきましたが、それはまた別の機会にします。

 3番目の確認をあきらめかけましたが、ヒントは本に書いてありました。最初から順番に調べるのではなく、逆に調べれば簡単でした。予想したパターンが初めて出た時から前に遡って、可能なコインの表裏の出方を調べればよいのでした。解答は次の様になります。見やすいように表を〇、裏を✕で表します。

 

1 〇〇〇と✕〇〇の場合

 初めて〇〇〇が出る前はしかありえない。が出たのなら、1回前に    〇〇〇がでたことになり、初めてではないからだ。したがって〇〇〇が出る1回前に〇〇が出ていて、私の勝である。結局、〇〇〇で勝つのは、初っ端に出る場合しかありえず、その確率は1/8である。

 

2 〇〇✕と✕〇〇の場合

 初めて〇〇✕が出る2回前までの可能なパターンを考える。の4通りがあるが、可能なのは1通りだけである。

 

 〇〇✕ 可能

 〇〇✕ 1回前に〇〇が出ているのでありえない

 〇〇✕ 2回前にが出ているのでありえない

 〇〇✕ 1回前に〇〇が出ているのでありえない

 

 それに対して、初めて✕〇〇が出る2回前までの可能なパターンは3通りである。

 

 ✕〇〇 2回前に✕が出ているのでありえない

 ✕〇〇 可能

 〇✕〇〇 可能

 ✕〇〇 可能

 

 以上より、あなたが勝つ確率は1/4である。

 

3.〇✕〇と〇〇✕の場合

 初めて〇✕〇が出る2回前までの可能なパターンの内、可能なのは1通りだけである。

 

 〇✕〇 1回前に〇✕が出ているのでありえない。

 〇✕〇 2回前に〇が出ているのでありえない。

 〇✕〇 1回前に〇✕が出ているのでありえない。

 〇✕〇 可能

 

 初めて〇〇✕が出る2回前までの可能なパターンの内、可能なのは3通りである。

 

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 2回前に〇が出ているのでありえない。

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 可能。

 

 以上より、あなたが勝つ確率は1/4である。

 

4.〇✕✕と〇〇✕の場合

 初めて〇✕✕が出る2回前までの可能なパターンの内、可能なのは2通りだけである。

 

 〇✕✕ 1回前に〇✕が出ているのでありえない。

 〇✕✕ 可能。

 〇✕✕ 1回前に〇✕が出ているのでありえない。

 〇✕✕ 可能

 

 初めて〇〇✕が出る2回前までの可能なパターンの内、可能なのは4通りすべてである。

 

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 可能

 

 以上より、あなたが勝つ確率は1/3である。

 

  なお、3回以上前の出目は、あなたと私の最後の3回のパターンとは関連しないので考慮しなくてよいです。

 

 さて、お気づきでしょうか。私の解答と、本に書いてある3番目の解答は違います。著者はプロの数学教師ですので、私が間違っている可能性が大きいです。簡単だと書きましたが、実のところ、少し自信がありません。ところが、さらに悩ましいことに、この本の著者は、「第0章はじめに」に次のように書いているんですよ。

実は、本書を作る際にもいくつかミスをしたが、面白いのでそのうち3つはそのまま残してある。

 

【5/30 追記】

どうも、3番目のケースは、〇✕〇と〇〇✕の場合は、私が間違えているようです。力ずくで10回まで投げた場合の「あなた」の予想が先に出る確率は、0.33008となりました。この時点で既に1/4を超え、1/3に極めて近いです。

しかし、どこに間違いがあるのか分からないのだな。

 

 

国家財政と家計の違いは何かな?(その9 タンス預金となった日銀当座預金)

■ 日銀当座預金を覗いてみた

  準備預金制度の目的を日銀は、「準備率操作を通じて金融を緩和、または引き締めることを目的としていた」と説明しています。

www.boj.or.jp

   過去形なので、現在は準備率の操作はしていません。1991年以降、法定準備率は0.3~1%程度のままです。本来、銀行は預金を運用して増やすもので、日銀に預けて眠らせておきたくないはずなので、法定準備率を定め強制していたのだと思います。しかし、2000年代以降、法定準備率を上回る「超過準備」が常態化しており、逆にマイナス金利によって準備率を下げさせようとしている不思議な状態になっています。では、どのくらい超過しているのか、実態を覗いてみて驚きました。

 

業態別の日銀当座預金残高日本銀行

www.boj.or.jp

  法定の準備額(所要準備額)12兆円程度に対して、準備預金額は、なんと490兆円もありました。準備預金制度を適用されない金融機関も含めると550兆円になっています。それも、2000年頃は数兆円程度だったのが、この20年ほどで急激に増えています。

www.tokyotanshi.co.jp

 素人目にも異常な状態に見えます。財務省は、国債を発行し続けると民間資金が枯渇し、国債を買えなくなって、財政が破綻するなんて言ってますが、枯渇どころか、バブル崩壊以降、数兆円から500兆円に増えています。増えてはいますが、日銀当座預金にただ眠っているだけで、投資には使われていません。結局、お金を日銀が回収したのと同じ結果になっており、金不足のデフレになるのも当然です。

 通常、国債を発行するのは政府が支出するためですので、国債発行で吸い上げた民間資金はすぐに支出されて、民間に戻りますし、日銀が民間銀行の国債を買えば、お金を新規に発行したことになります。このようにして増えたお金が市場で回転して景気がよくなるのを期待するのが金融緩和です。ところが、実態は、お金は日銀当座預金に眠っているだけで不景気が数十年も続いています。

 

■ スタグフレーション対策は?

 そうこうしているうちに、原油価格上昇などによるコストプッシュインフレになり、一方給料は下落し、消費は低迷し、景気は良くならないというスタグフレーションになってきました。なのに、銀行は日銀当座預金にお金を500兆円預けていて、誰も使おうとしないのです。政府が行うべきスタグフレーション対策はあるはずですが、政府からのアナウンスはまだ聞こえてきません。1970年代のオイルショックでは、インフレ対策の公定歩合引き上げを行い不況に陥りました。それまでの好景気が一気に冷え込んだのですから、デフレが続いた今、似たようなことはしないと期待したいですが、どうでしょうか。

 財務省は、お金があれば使おうとするのが人間で、抑制する必要があるという認識が強いのではないか思います。確かに、人間には、そういう面もありますが、お金を貯めこむ傾向もあります。質素な生活をしていた一人暮らしの老人が亡くなり、家から莫大なタンス預金が見つかったりします。金は天下の回り物、使ってこそ意味があると昔から言われているんですけどね。

国家財政と家計の違いは何かな?(その8 財政法第4条)

■ 国家財政のお金に相当するのは、家計の借用書

 これまでは、お金を発行できる国家財政と発行できない家計は全然違う、と述べてきました。ただ、家計でも自分で発行できるものがあります。借用書です。国家財政を家計に例えるなら、お金は借用書に相当すると考えるといいかもしれません。その3に書いたようにお金は借用書が発祥ですからね。

 

■ 借用書は振り出してから回収する

 お金を発行できない家庭では、先に収入があり、それを支出します。この限りでは、支出は収入を上回ることはできません。ただ、お金を借りて支出することもあります。その場合、お金の代わりの借用書を先ず振り出し(とそれに伴う支出)、後で返済(借用書の回収)します。返済には利子を付けなければいけませんが、借金を運用して、利益を出せば、返済できます。つまり、借金する場合の支出はその時点の収入で賄うのではなく、将来の返済時の収入で賄います。収入が不足するから借金するわけですから、当たり前のことです。もちろん、返済できるだけの収入が将来得られる見込みは必要で、いくらでも借金できるわけではありません。見込みのない人には誰も金は貸しません。

 政府日銀の場合も同様で、ある年度の支出は、その年度の税収と公債で賄います。公債の返済は、将来の税収で行いますので、将来の経済状況の見込みが必要です。ある年度の支出をその年度の税収で全部賄う必要はありません。ところが、財政法には、それに反するようなことが書いてあります。

 

■ 財政法 第4条

  1. 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
  2. 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
  3. 第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。

 

 公債又は借入金以外の歳入つまり税金をもって、歳出(支出)の財源とするとなっています。公共事業などの例外を認めないと、この法律を遵守するのは不可能です。税金としてお金を回収するためには、それ以上の支出を先にしておかなければなりませんからね。そこで、最初の1回は(いつのことかよくわかりませんが)支出だけして世の中にお金を供給し、次の年から財政法に従い、支出を税収以下に抑えるとどうなるでしょうか。結果は、世の中のお金の量は徐々に減っていきます。税として回収したお金以上の支出(お金の発行)をしないのですから当然です。こんな当然のことが財政法を作った役人には何故わからなかったのでしょうか。

 

■ 計算するまでもないが計算

 当然のように見えて勘違いもあるので、一応確認してみました。次の表は、それを示しています。表-1では政府と日銀をまとめて統合政府として表しています。最初の年度だけ、100の支出をしてお金を民間に供給します。財政法に反しますが、民間にお金がなければ税は徴収できませんので仕方ありません。次の年度からは、民間にあるお金の1割を徴税し、財政法に従い、税収の9割を支出します。その結果、3年後には、政府の負債100が「めでたく」97まで減りました。同時に民間のお金も100から97に減りました。結局何をしているかというと、最初に民間に供給した100のお金を回収しているだけです。いずれ、世の中からお金は無くなります。

 その次の表-2は、冒頭で述べた普通の借金の場合です。この場合の支出Eは、民間が20%の経済成長をして、将来の民間のお金が120になるという見込みに基づいています。将来には、120の1割の税収があるので、その9割を支出(お金の発行という「借金」)しています。3年後には、政府の負債と民間のお金が102に増えています。いずれ、120を超えるでしょう。

 

■ 現実はどうか

 公共事業の例外のせいか、あるいは第4条が守られていないのか、現実には、表-2のように、お金は増えています。それは、統計を調べなくても、戦後と現在の物価を比べればすぐにわかります。仮に、高度成長がなく、戦後と現在の生産性が同じと仮定しても、お金の量が変わらないなら、物価は同じになります。実際には生産性は大幅に向上しているので、物価は下がっていなければなりません。現実は、全く逆で、今の丸亀製麺のかけうどん並は340円ですが、昭和30年代は30~40円程度だったような記憶があります。

 

■ 統合政府を政府と日銀に分離

 表-2では、税収と歳出が一致しません。その差額0.8は政府発行通貨で補っているわけですが、統合政府は通貨を発行できるので問題ありません。その通貨発行を日銀に分離したのが、表3-1と表3-2です。政府の表3-1に公債欄が増えて、歳入と歳出が同じになりました。公債は財政ファイナンスが出来ないので、民間からの借金ですが、最終的に日銀が引き受けます。日銀は、日銀券を発行できるので、政府から返してもらう必要はありません。従って、表3-2の日銀は、支出だけで収入はありません。支出とは日銀券の発行です。

 統合政府の表-2から、日銀の表3-2を差し引いて、表3-1だけ示すことで、お金の発行が見えなくなります。この単純なトリックで、歳出はその年度の税収で賄わなければならないという錯覚を生み出すことができます。歳出が上回れば公債という借金をしなければならず、それが積もり積もって返済できなくなると勘違いさせることができます。

 公債発行は、信用創造による銀行預金に似ています。銀行預金は融資先への投資ですが、公債は、国民への投資みたいなものです。融資先が利益を上げれば利息付で返済してくれるように、国民が経済成長すれば増えた税金で返してくれます。その税金で公債は償還され消滅します。それを繰り返せば経済は成長を続けます。

 書くのも馬鹿馬鹿しいですが、借用書には財源は不要です。信用創造による銀行預金も公債も日銀券も借用書の一種です。必要なのは、将来の予測です。信用創造による銀行預金にも現金という財源は不要でしたが、融資先の与信調査は必要です。

 

■ 財政規律

 財政法 第4条のようなものがあるのは、お金を乱発し、過剰なインフレとなり破綻した歴史にも原因があるのかもしれません。ただ、破綻の原因は、同じ年度の歳入と歳出のアンバランスではなく、将来の経済成長の見誤りです。銀行も甘い融資を行っていると、不良債権を抱えることになります。財政規律とは、目の前の財政赤字を気にするような単純で近視眼的なことではなく、将来を正確に見通すことでしょう。

 財政法第4条にイチャモンを付けましたが、将来を見通せば借金OKと一応書いてあります。

 

2.前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。

 

 財務省は、将来を見通して償還計画を作る能力がないので公債発行したくないのかどうかは、知りません

 

■ 財政法は、インフレの戦後にできた

 戦時中は国債の大量発行で戦費を調達しました。それに加えて、戦災で日本の供給能力は大打撃を受け、物不足になりインフレになりました。財政法はそのような時代背景の昭和22年に出来ています。当時は、インフレを抑制する第4条もそれなりに意味があったのでしょう。とはいえ、お金を増やさなければ、物価は上がりませんが、収入も増えないので、生活が良くなるわけじゃありません。生活水準を回復向上させるには、供給能力を高めなければなりません。

 戦後のインフレも「緊縮財政」で抑え込みましたが、逆にデフレ不況に陥りました。そこから脱出できたのは、朝鮮戦争の軍需でした。消費増税は需要を冷え込ませる効果的な方法なのですけどね。

国家財政と家計の違いは何かな?(その7 地域通貨)

■ 通貨の発行者の通貨の累積収支は「赤字」

 その4で述べたように、偽札でも出回らない限り、通貨の発行者は、発行した以上の通貨を徴収することはできません。従って、累積収支は「赤字」にしかなりませんし、それで何も問題ありません。通貨を発行するのは、政府が公用で使うものを調達するためというよりも、国民にお金を使って経済成長してもらうためです。公用の調達目的だけなら、通貨を発行して使うなどと回りくどいことをせずに、直接、必要なものを供出させればよいわけで、実際に年貢米というものがありました。政府はその権限を持っています。

 通貨の発行に当たっては、調達の対価という形式で支出し、通貨として使えるという信用を与えています。政府と国民は対等な立場で商取引を行っているのではありません。また、信用を損なわないよう、通貨発行者が注意しなければならないのは、通貨流通量を適正に調整する事です。穏やかなインフレで通貨発行量が増えていくことが経済成長であり、政府財政は、一時的に黒字になることはあっても、長期的には適正な赤字でなければなりません。そもそも、通貨発行者に対して赤字とか黒字という言葉を使うこと自体が間違いでしょう。

 しかし、財務省は馬鹿の一つ覚えのように「健全財政」という念仏を唱えるばかりです。健全財政が「黒字」を意味するのならば、その馬鹿馬鹿しさは、単純化した地域通貨を考えてみることでよくわかります。

 

■ 地域通貨の発行と回収

 地域通貨は、地域活性化のために「使われる」ことを前提とした通貨です。貯蓄には適していません。例えば、マイナス金利や使用期限を設けて、ため込まずに使わせるようにできています。

 地域通貨を手に入れるには、ボランティア活動を行うほか、日本円で買うなどの方法があります。前者は、ボランティア活動を事務局が発注し、地域通貨で支払うとも解釈でき、国の公共工事等の発注に対応しています。

 後者の場合は、地域外の観光客などが日本円を地域通貨と交換するような例があります。普通は、地域通貨を日本円には替えることはできないので、地域内で消費するしかありません。これは、日本円という外貨を得たことに相当します。

 以上が地域通貨の発行になりますが、使用期限がある場合は、特に、税として回収する必要はありません。徴税は通貨流通量の調整のためで、支出に使う為の収入ではないことが、地域通貨だと理解しやすいと思います。地域通貨では、徴税しなくても、期限が来れば消滅し、流通量は発行だけで調整できます。

■ 地域通貨事務局の収支

 地域通貨の事務局は、日本円での会費を徴収する場合もありますが、地域通貨は徴収しません。従って、支出だけあって収入がないのですから、事務局の「地域通貨の収支」は、当然「赤字」です。事務局の「赤字」が地域住民の「黒字」であり、「黒字」自体は単なる数字もしくは紙切れに過ぎませんが、経済活動に使われ、実体的な富を生み出します。それが地域活性化です。

 では、事務局の人件費などの経費はどのようにしているかといえば、ボランティア活動や日本円での会費で賄います。地域が活性化して潤えば、そのごく一部を戻せば済みます。というか、ごく一部で済まないようであれば、地域は活性化しておらず、地域通貨は失敗です。

 このように、事務局の運営と地域の活性化が地域通貨では明確に分かれています。地域の活性化のために地域通貨を発行し、その管理のために事務局は運営されるわけで、事務局の運営のために地域通貨があるのではありません。以上について、大抵の人にはご理解いただけると思います。

 ただ、世の中にはいろんな人がいて、国レベルの規模になり、さらに事務局(政府)の運営も地域経済(国民経済)も同じ日本円で行われていると、ご理解いただけない人々も少なからず存在します。

■ 財務省地域通貨(フィクション)

 日本村の財務省は一風変わっていました。新しく地域通貨を発行しようと計画しましたが、そのために地域通貨を集めようとしたのです。つまり、世の中に存在しない「地域通貨」を税金として徴収しようと不可能なことを考えました。さすがにこれは無理なので、とりあえず地域通貨を発行しました。しかし、これはバラマキであり事務局の「赤字」ということなので、解消しなければならないと決意しました。とはいえ、集めた地域通貨を全く支出しない訳にもいきませんので、多少はボランティアに支出しました。ただし、全額支出はせずに必ず手元に残す「黒字」の健全財政を目標としました。累積では絶対に黒字にはなりませんが、単年度の収支では黒字もあり得るため、妄想の目標が実現すると信じ込んだのです。その目標に向かって邁進し、やがて地域通貨は総て回収され、累積赤字も解消しました。ただし、地域経済は活性化どころか、停止しそうになりました。現実には日本円や民間通貨が使われて経済活動は続きましたが、財務省という地域通貨事務局は地域通貨と共に消滅しました。

国家財政と家計の違いは何かな?(その6 日銀当座預金は何のためにある)

 先ず、言い訳です。本シリーズは、素人が財政、経済、金融を聞きかじって自分なりに確信したことを書いてきましたが、今回は確信がありません。確信がないと、言い切ることができないので文章が長くなって書くのが面倒くさくなってきました。そこで、あえて言い切ることにしました。言いきっていますが、怪しいこと書いてます。

 

■ 日銀当座預金の原資は何?という質問

 ネット上には、もやもやしたQAがあります。

日銀当座預金の原資はなにか?

日銀当座預金は、日銀に銀行が預けているのか、日銀が銀行に貸しているのか?

 これらの回答は分かるようでよく分からない釈然としないものが多いですが、形式的な答えは明確で、日本銀行が模範解答しています。

日本銀行が取引先の金融機関等から受け入れている当座預金のことです。

 つまり、銀行が日銀券を預けています。では、その日銀券を銀行はどのようにして手に入れるかというと、銀行の取引先が預けたもので、さらにその現金は日銀が発行しています。ということは、日銀当座預金の原資は日銀が提供していることになります。ただし、何もせずに、日銀がお金をくれるわけがありません。何かと交換してしているはずですが、何でしょうか。もやもやします。

 さらに、次のような事実もあります。

金融自由化以前は、銀行は準備預金の大部分を日銀から借入することにより調達していた。自由化以後は、インターバンク市場で他の銀行からの借入により行っている。

 金融自由化以前だと、日銀から借りて日銀に預けていたことになります。これは一体何をしているのでしょうか。また自由化以降のインターバンク市場というのは、日銀当座預金に余裕のある(法定準備率より多い預金がある)銀行から他の銀行が借りるのですから、日銀当座預金の中で融通しあっているだけです。相撲協会年寄株みたいです。

 この疑問と少し違いますが、似たような疑問もあります。

whatsmoney.hateblo.jp

 ここで、言われているのは、日銀は、日銀当座預金を民間銀行から調達したのかという疑問です。冒頭の疑問は、その逆で民間銀行は日銀当座預金に預ける現金をどこから調達したのかです。鶏と卵の議論みたいですが、明らかに日銀が最初に日銀券を生み出しています。「収入」、「支出」、「借金」という言葉は、お金を発行する政府日銀の行為に使うことは不適切ですが、「調達」や「原資」も同様です。言葉使いの間違いです。

■「負債」という言葉の意味

 再び、基礎の基礎にもどり、負債としてのお金の発祥を考えます。物々交換は時間的に同時に行われ、両者は対称な関係にあります。しかし、先ず、釣り針を受け取り、後で釣れた魚を渡すのは、時間的に非対称な関係になります。将来は不確実なので、履行を保証する借用書を書きますが、それがお金の発祥でした。借用書があっても確実とはいえないので、利子をつけて補います。交換しているものは、物品と紙切れ(信用)で、全く性質が異なります。

 また、借用書を発行する側が負債を負い、その時点ではまだ取引は完了していません。後で負債を負った側が約束を果たして、取引完了です。完了すれば借用書は消滅します。最初は釣り針と借用書を交換し、次に、借用書と魚を交換するという二段階があります。現在ではお金を使った取引が普通ですが、それらは、本来の取引はまだ完了していないとも言えます。負債を負った人がいなくなって完了だと考えれば、貨幣経済では、多人数の間の複雑な取引が継続して行われ決して終わることなく続いていることになります。

■借用書と借用書の交換

 さらにややこしいことに、借用書と借用書の交換も行われます。現代の金融ではそれがほとんどです。さて、この場合の負債を負うのはどちらでしょうか。それは、信用度の低い借用書を発行した側でしょう。信用度を定量化すれば、借用書の利息になります。利息の小さい借用書は、信用度が大きいということになります。

 この例として、銀行の融資があります。融資では、直接、現金を貸すのではなく、融資を受ける側の借用書と銀行の借用書を交換します。銀行の借用書とは銀行預金のことです。銀行預金は現金と交換を約束した借用書です。非常に信用度が高く、現金に交換せずに預金のまま取引に使われるので、現金と同じ通貨と日銀も認めています。現金や当座預金には利息はありませんが、融資を受ける側の借用書にはしっかり利息があります。融資とは銀行が貸し手側というのが常識的解釈です。

■ 銀行預金通帳を通帳発行銀行に預ける。

 ここから、仮想的な話になります。当座預金には預金通帳がありませんが、仮に通帳があったとしても、預金通帳を銀行に預けることは普通しません。会計的意味がほとんどないからです。そんなことしても、預金通帳預かり証(預金通帳の通帳)を銀行に持っていき、預金通帳を引き出して、その預金通帳を銀行に示して現金を引き出すことになり、手間が増えるだけです。

 普通預金には通帳がありますが、預金者は、それを発行銀行に預けません。借用書の発行者に借用書を預けることもしません。ところが、それと同じことを銀行はしなければなりません。日銀が発行した通貨を日銀に預けたのが日銀当座預金だからです。

 日銀券も日銀当座預金も日銀の負債なので、その信用度は同じです。銀行にとって、日銀券と日銀当座預金を交換(現金を日銀に預けること)しても、意味はありません。どちらかの負債が増えたということもなく、同じようなものを交換しただけなので、片方がもう一方に預けたとか、貸したとか、そういう解釈もできません。会計的には、何の変化も起こっていません。

■ 当座預金とは

 では、何故日銀当座預金があるのかを考えるにあたり、先ず民間銀行にもある当座預金の機能をおさらいします。当座預金の「当座」とは「さしあたり」の意味です。当座預金には、お金を長期間保管するとか、銀行に運用を委任し利子を得るというような用途はありません。現金を使わずに、取引相手との決済を効率的に行うためのものです。日銀当座預金も同様で、銀行間の決済や、政府から民間への支払い(支出)や民間からの徴税・国債代金受け取り(回収)に使うものです。

■ 日銀当座預金の残高は別に何も表していない

 日銀当座預金は決済(お金の受け渡し)に使うだけで、政府口座の残高が政府の財政状況を表しているものでも、民間銀行口座の残高が銀行の経営状況を表しているわけでもありません。しかし、ボーっと生きていると、家庭の収入を預けている普通預金の残高のように見えてきます。そこに付け込んで、財務省は子供だましのたとえ話をします。たとえ話は私も好きですが、ボーっと聞いていると、子供だましの与太話に騙されます。最近も週刊現代が騙されて記事を書いていました。お金を発行できない庶民の住宅ローンをお金の発行できる政府日銀の国債にたとえています。

gendai.ismedia.jp

■「日銀当座預金の原資はなにか」の答

 最後に冒頭の疑問への答えをまとめます。

  • 日銀当座預金は、日本銀行が民間の金融機関等から受け入れている当座預金です。
  • 民間の金融機関等は、日銀当座預金に預ける現金を取引先との取引で得ます。取引とは借りることです。金融機関は直接的な物品サービスの生産は行わないので、物品サービスとの交換ではなく、なんらかの借用書と交換します。
  • 現金が一番最初に日銀から民間の金融機関に渡るのは、政府が何らかの支出をしたときです。例えば、公共工事を発注すれば、建設会社の取引銀行の日銀当座預金に現金が振り込まれます。

 紆余曲折はあるものの、政府の支出が民間銀行の日銀当座預金の源です。そして政府の支出とはお金の発行のことです。銀行は何もしないでお金を得たように見えますが、建設会社に対する負債としての銀行預金ができますので相殺します。銀行は政府と物品サービスを提供する建設会社の仲介をしているだけです。その仲介に使うのが日銀当座預金です。

 政府日銀には、「原資」など必要ありません。自分が発行した日銀券と交換して、公共工事などの物品サービスをえる権限があります。

国家財政と家計の違いは何かな?(その5 お金を発行できるのに「借金」するのは何故)

■ 国債は何の為に発行するの

 財務省は、国債を支出の財源だと説明します。でも政府日銀はお金を発行できますから、支出のために借金する必要はなく、明らかに嘘です。国債を発行する理由は別にあるはずです。その理由は、国債を発行して支出する場合と、支出だけする場合では、結果にどのような違いが生じるか確認すると分かってきます。

■ 支出だけするとどうなるか

 政府が支出するときの具体的手続きは、次のリンク先に説明してあります。

 

38news.jp

 

 それによると、政府が建設会社に10億円の公共工事を発注する場合の手続きは以下の通りです。

  1. 政府は10億円の政府小切手を建設会社に渡す。
  2. 建設会社は政府小切手を取引銀行に持ち込み「政府からの取り立て」を要求する。
  3. 銀行は、建設会社の預金口座へ10億円を記帳し、代金の取り立てを日銀に依頼する。
  4. 日銀は、「政府の日銀当座預金」から「銀行の日銀当座預金」に10億円を振り替える

 以上は、すべて、民間銀行や日銀の預金口座の数字の操作だけで現金の移動はなく、結果は、「政府の日銀当座預金」が10億円減り、「銀行の日銀当座預金」と「建設会社の取引銀行の預金」が10億円ずつ増えます。これを、イメージしやすくするため、現金の移動に翻訳してみます。

  1. 政府は日銀当座預金から10億円の現金を引き出し、建設会社に渡す。
  2. 建設会社は10億円を取引銀行に預ける。
  3. 取引銀行は預かった10億円の現金を日銀当座預金に預ける。 

 最初、日銀にあった10億円の現金は日銀に戻ってきて、前の数字だけの操作と同じ結果になります。政府はお金を発行したわけですが、民間の現金が増えたのではなく、民間銀行の預金が増えています。いずれにせよ、市中に流通するお金(民間銀行預金)が増え、政府の日銀当座預金から銀行の日銀当座預金へ10億円が移動したという結果になります。

 

■   国債発行して公共工事を発注した場合

 この場合は次のようになります。

  1. 政府が発行した10億円の国債を民間銀行が買う。その結果、民間銀行の日銀当座預金から政府の日銀当座預金に10億円が移動する。
  2. 政府は先ほどと同様に、建設会社に工事を発注する。その結果、政府の日銀当座預金から銀行の当座預金に10億円が戻り、民間銀行預金は10億円増える。
  3. 日銀当座預金は最初の状態にもどり、市中に流通するお金(民間銀行預金)が10億円増える。

■ 支出だけした場合と国債発行し支出した場合の結果の違い

 どちらの場合も市中に流通するお金が増えるのは同じですが、支出だけ行うと、日銀当座預金の状態が変わります。これが変わると金利等に影響します。これは日銀が金融政策でコントロールすべきものですが、政府の支出で影響を受けてしまいます。

 それに対して、国債を発行して支出すれば、金利には影響しません。

 

■ 政府と日銀のしていること

 日銀は日銀当座預金の残高を調整して金利を制御します。あるいは、金利を調整して残高を調整します。これは金融政策といわれています。また政府は、支出や税の徴収、国債発行などで、通貨の流通量を制御します。これは、財政政策といわれます。これを行うのは、国民生活にもろに影響する景気や物価を制御するためです。

 つまり、国家財政の支出や徴税や国債は、これまで繰り返し述べてきたように、家計の支出や収入や借金とは全く違うのです。財務省が家計と同じ用語を使って財政危機を訴えるのは詐欺師のミスリードみたいなものです。支出は通貨の発行であり、徴税や国債は通貨の回収と考えるべきです。発行した額以上の回収はできませんので、国家会計は「赤字」になるのが普通です。順序として、まず通貨の発行をしなければ回収はできませんので、「赤字」は当然です。累積で「黒字」になった状態とは、すべてのお金を回収したということで、世の中のお金がなくる事です。これを目指す財務省は頭がおかしいのではないでしょうか。

 なお、政府日銀発行の通貨以外に、銀行が信用創造で生み出した預金という通貨もあります。これも考慮を入れれば、政府日銀発行額以上の回収も可能のように一見、思えます。しかし、多分無理です。簡単に言えば、日銀当座預金は政府日銀発行の現金扱いのお金しか預けられそうにないからです。これについては、別記事で考えてみたいと思います。

 

■ 民間資金の枯渇ってなによ?

 財務省は、国債をいわゆる「借金」に例えて、財政破綻になると脅します。多額の国債を発行すると民間資金が枯渇し、金利が上昇するとも言います。確かに、国債を売って民間から回収したお金を金庫に仕舞っておけば枯渇します。実際は支出して民間に戻すので、枯渇するはずがありません。前述の通り、政府会計が黒字を続けると枯渇するのであって、全く逆です。財務省は何を考えているのでしょうか。