国家財政と家計の違いは何かな?(その8 財政法第4条)

■ 国家財政のお金に相当するのは、家計の借用書

 これまでは、お金を発行できる国家財政と発行できない家計は全然違う、と述べてきました。ただ、家計でも自分で発行できるものがあります。借用書です。国家財政を家計に例えるなら、お金は借用書に相当すると考えるといいかもしれません。その3に書いたようにお金は借用書が発祥ですからね。

 

■ 借用書は振り出してから回収する

 お金を発行できない家庭では、先に収入があり、それを支出します。この限りでは、支出は収入を上回ることはできません。ただ、お金を借りて支出することもあります。その場合、お金の代わりの借用書を先ず振り出し(とそれに伴う支出)、後で返済(借用書の回収)します。返済には利子を付けなければいけませんが、借金を運用して、利益を出せば、返済できます。つまり、借金する場合の支出はその時点の収入で賄うのではなく、将来の返済時の収入で賄います。収入が不足するから借金するわけですから、当たり前のことです。もちろん、返済できるだけの収入が将来得られる見込みは必要で、いくらでも借金できるわけではありません。見込みのない人には誰も金は貸しません。

 政府日銀の場合も同様で、ある年度の支出は、その年度の税収と公債で賄います。公債の返済は、将来の税収で行いますので、将来の経済状況の見込みが必要です。ある年度の支出をその年度の税収で全部賄う必要はありません。ところが、財政法には、それに反するようなことが書いてあります。

 

■ 財政法 第4条

  1. 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
  2. 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
  3. 第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。

 

 公債又は借入金以外の歳入つまり税金をもって、歳出(支出)の財源とするとなっています。公共事業などの例外を認めないと、この法律を遵守するのは不可能です。税金としてお金を回収するためには、それ以上の支出を先にしておかなければなりませんからね。そこで、最初の1回は(いつのことかよくわかりませんが)支出だけして世の中にお金を供給し、次の年から財政法に従い、支出を税収以下に抑えるとどうなるでしょうか。結果は、世の中のお金の量は徐々に減っていきます。税として回収したお金以上の支出(お金の発行)をしないのですから当然です。こんな当然のことが財政法を作った役人には何故わからなかったのでしょうか。

 

■ 計算するまでもないが計算

 当然のように見えて勘違いもあるので、一応確認してみました。次の表は、それを示しています。表-1では政府と日銀をまとめて統合政府として表しています。最初の年度だけ、100の支出をしてお金を民間に供給します。財政法に反しますが、民間にお金がなければ税は徴収できませんので仕方ありません。次の年度からは、民間にあるお金の1割を徴税し、財政法に従い、税収の9割を支出します。その結果、3年後には、政府の負債100が「めでたく」97まで減りました。同時に民間のお金も100から97に減りました。結局何をしているかというと、最初に民間に供給した100のお金を回収しているだけです。いずれ、世の中からお金は無くなります。

 その次の表-2は、冒頭で述べた普通の借金の場合です。この場合の支出Eは、民間が20%の経済成長をして、将来の民間のお金が120になるという見込みに基づいています。将来には、120の1割の税収があるので、その9割を支出(お金の発行という「借金」)しています。3年後には、政府の負債と民間のお金が102に増えています。いずれ、120を超えるでしょう。

 

■ 現実はどうか

 公共事業の例外のせいか、あるいは第4条が守られていないのか、現実には、表-2のように、お金は増えています。それは、統計を調べなくても、戦後と現在の物価を比べればすぐにわかります。仮に、高度成長がなく、戦後と現在の生産性が同じと仮定しても、お金の量が変わらないなら、物価は同じになります。実際には生産性は大幅に向上しているので、物価は下がっていなければなりません。現実は、全く逆で、今の丸亀製麺のかけうどん並は340円ですが、昭和30年代は30~40円程度だったような記憶があります。

 

■ 統合政府を政府と日銀に分離

 表-2では、税収と歳出が一致しません。その差額0.8は政府発行通貨で補っているわけですが、統合政府は通貨を発行できるので問題ありません。その通貨発行を日銀に分離したのが、表3-1と表3-2です。政府の表3-1に公債欄が増えて、歳入と歳出が同じになりました。公債は財政ファイナンスが出来ないので、民間からの借金ですが、最終的に日銀が引き受けます。日銀は、日銀券を発行できるので、政府から返してもらう必要はありません。従って、表3-2の日銀は、支出だけで収入はありません。支出とは日銀券の発行です。

 統合政府の表-2から、日銀の表3-2を差し引いて、表3-1だけ示すことで、お金の発行が見えなくなります。この単純なトリックで、歳出はその年度の税収で賄わなければならないという錯覚を生み出すことができます。歳出が上回れば公債という借金をしなければならず、それが積もり積もって返済できなくなると勘違いさせることができます。

 公債発行は、信用創造による銀行預金に似ています。銀行預金は融資先への投資ですが、公債は、国民への投資みたいなものです。融資先が利益を上げれば利息付で返済してくれるように、国民が経済成長すれば増えた税金で返してくれます。その税金で公債は償還され消滅します。それを繰り返せば経済は成長を続けます。

 書くのも馬鹿馬鹿しいですが、借用書には財源は不要です。信用創造による銀行預金も公債も日銀券も借用書の一種です。必要なのは、将来の予測です。信用創造による銀行預金にも現金という財源は不要でしたが、融資先の与信調査は必要です。

 

■ 財政規律

 財政法 第4条のようなものがあるのは、お金を乱発し、過剰なインフレとなり破綻した歴史にも原因があるのかもしれません。ただ、破綻の原因は、同じ年度の歳入と歳出のアンバランスではなく、将来の経済成長の見誤りです。銀行も甘い融資を行っていると、不良債権を抱えることになります。財政規律とは、目の前の財政赤字を気にするような単純で近視眼的なことではなく、将来を正確に見通すことでしょう。

 財政法第4条にイチャモンを付けましたが、将来を見通せば借金OKと一応書いてあります。

 

2.前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。

 

 財務省は、将来を見通して償還計画を作る能力がないので公債発行したくないのかどうかは、知りません

 

■ 財政法は、インフレの戦後にできた

 戦時中は国債の大量発行で戦費を調達しました。それに加えて、戦災で日本の供給能力は大打撃を受け、物不足になりインフレになりました。財政法はそのような時代背景の昭和22年に出来ています。当時は、インフレを抑制する第4条もそれなりに意味があったのでしょう。とはいえ、お金を増やさなければ、物価は上がりませんが、収入も増えないので、生活が良くなるわけじゃありません。生活水準を回復向上させるには、供給能力を高めなければなりません。

 戦後のインフレも「緊縮財政」で抑え込みましたが、逆にデフレ不況に陥りました。そこから脱出できたのは、朝鮮戦争の軍需でした。消費増税は需要を冷え込ませる効果的な方法なのですけどね。