NHKは、違法行為を強いられている

■ 顰蹙を買うNHKの調査

 テレビのない仕事場まで押し寄せ、あるはずだというNHKの理不尽に怒り心頭のツイートです。スレッドを見ていくと、携帯電話の機種を教えろとまで言われています。

ただ、こんな権限のない調査をせざるをえない事情もあります。欠陥だらけの放送法が諸悪の根源です。少々、回りくどくなりますが、契約自由の原則との関係から始めて、放送法の欠陥とその弊害について私見をまとめてみました。

■ 契約自由の原則に反しない放送法64条の解釈

 放送法第64条は、契約自由の原則に反していると思いますが、反していないと解釈することも可能です。ただし、その場合は契約の当事者であるNHKが契約を求めることはあり得ません。求めるとすれば、家電販売店でしょう。その理由は、類似の契約と比べてみればわかります。例えば、原子力事業者は、損害保険契約を国から求められます。また、公共工事を受注するには、「履行保証保険」契約を公共工事の発注者から求められます。当然、契約自由の原則があるので、契約の当事者である保険会社が契約を求めることはありえません。保険契約しないのも自由ですが、その場合は、事業や工事受注が出来なくなります。

 これらの場合の関係者を一覧表にして下表に示します。

 いずれも、主役は行為を許可する者(契約を求める者)と原子力事業者等(A)です。保険会社等(B)は脇役に過ぎません。原子力事業者等(A)は、事業を行う条件として保険会社等(B)との損害保険契約を国等から求められているのであって、保険会社等から契約を求められているのではありません。同様に、受信契約を求めているのは、放送法を作った国であり、NHKではないというのがこの解釈です。当然、国は受信設備設置者がNHKと契約していることを確認して設置を許可しなくてはいけません。この場合、許可条件である受信契約がなされているか国が労力をかけて調査する必要はありません。受信設備設置者が自ら、契約書の写しを提出するからです。

■ 実態と全く違う解釈

 いうまでもなく、この解釈は実態と全く違います。実際には、NHKが受信設備設置者に受信契約を求めています。受信設備設置は自由に出来ますので。受信設備設置の条件として受信契約があるのでもありません。自由に設置した後で契約を強制しますので、契約自由の原則に反していると言えるでしょう。いや、契約したくなければ受信設備を設置しなければよいだけなので、強制ではないと反論があるかもしれません。ですが、この反論は、結局、原子力事業や工事受注と同じと言っていることになります。なぜなら、受信設備設置には許可が必要で、その条件に受信契約があるに過ぎないと言っているわけですからです。また、この解釈では、NHKは、受信設備を設置しているか調査する必要はありません。契約しないと受信設備を設置できないという解釈ですから。しかし、現実には、自由に設置されており、それを、NHKは多大な労力と費用を注ぎ込み調査してきたのが現実です。

 以上のように放送法64条は、契約自由の原則に反しないという机上の解釈は可能ですが、実態とは全く違っています。実態は、受信設備を設置した者はNHKと受信契約する義務が生じます。この契約もNHKが受信設備を提供設置したのならその対価として設置料を受け取るという普通の契約ですが、受信設備を販売設置したのは家電販売店であり、その対価は既に支払い済みです。また、文字通りの受信契約、即ちNHK放送の視聴契約ならば普通の契約といえますが、民放しか視聴しなくても料金を取られますので、これも違います。NHKが提供した物品やサービスの対価として料金を支払う契約にはなっていません。

■ 受信契約の実態

 実態は自動車税や重量税に似た税金です。道路整備などの公共目的のために自動車所有者から費用を徴収するように、民放も活用できる放送技術開発や受信環境整備などの公共目的のために受信設備設置者から費用を徴収しているのです。それらしきことが放送法には書いてあります。道路を利用しなくても車を所有すれば税金を取られるように、NHKを視聴しなくても受信料を取られるのも同じです。また、税金を払わなくても車は買えるように、受信料を払わなくてもテレビは家電販売店で買えます。ただし、自動車は公道を走るためには登録が必要でその際に納税します。これに相当する仕組みがないのが放送法の欠陥で、次の項目でもう少し述べます。このような性格の税金や料金を進んで納める奇特な人はいませんので、法で義務付ける必要があります。これが自由意志で締結する契約との違いです。

 前の項目で述べたように、放送法の受信契約はNHKが提供した物品やサービスの対価ではなく、公共目的事業を行うNHKを運営するための実質は税金ですので、自発的に払う人はいません。そこで、法で義務化されているわけです。「受信契約」という名称になっていますが、契約するかしないかを自分の意志で決められる契約ではありません。

■ 実態と違う「契約に基づく料金」とした弊害

 契約という形にした大きな弊害が受信料未払いです。自動車税等を徴収するには、車検制度やそれに係わる組織の整備などが必要です。自動車保有者を捕捉し、費用を徴収する権限を車検関係組織に法的に与えなければなりませんが、受信契約にしたため、NHKにはその権限がありません。とはいえ、受信料を徴収しなければNHKを運営できないとなれば、評判の悪い違法な調査が行われるのは必至です。権限がないので受信設備設置者の捕捉は不十分になり、取りやすいところから取るという不公平も生まれます。

 なお、サービスの対価として料金をとる受信契約にする方法も可能です。ただし、放送は対策を講じないとただで視聴されますので、民放は広告収入で運営されることが普通ですが、スクランブル化などの対策を行った有料放送もあります。適切な対応をすれば、やり方はいろいろ可能です。放送法は、考え方は税金方式なのに、不適切な契約方式とした欠陥法と言えると思います。

■ まとめ

 ここまでに述べた、料金徴収方式を整理すると次のようになります。

 

・契約方式(有料道路方式)

 NHKのサービス提供の対価として受信料を視聴者が払う契約を締結する方式。

 この場合は、契約せずにただで視聴できないようにスクランブル化などが必要

 NHKが受信設備設置を調査する必要はない。

 両者の合意により契約するので、法に規定する必要もない。

 

・税金方式(一般道路方式)

 NHKの公共目的事業遂行のために、受信設備設置した者から負担金を徴収する方式。

 この場合は、負担金徴収を法に規定する必要がある。また、受信設備設置の調査権限をNHKに与える必要がある。

 負担金徴収は契約ではなく、放送法の規定に基づき行われる。

 

・欠陥方式(放送法方式)

 受信設備設置者にNHKと受信契約を義務付ける。

 一方、受信契約なしの受信設備設置も自由。

 受信契約なしの受信設備設置者の調査権限はNHKにない。

 

 受信設備をNHKは提供せず、民放しか視聴しなくても視聴料金を支払わなければならないのが放送法方式の受信契約です。しかも、受信契約なしでも受信設備は自由に設置できます。このような契約を進んでする物好きは存在しませんので、法で義務付ける必要があります。つまり自由意志による契約ではありません。

 一方で、受信設備設置に対する料金であるのにNHKには調査権限がありません。自主的に申告する物好きはいないので、顰蹙を買う違法な調査をせざるを得ません。この点では、同情します。NHKの中の人に良識がないのではありません。放送法がおかしいのです。