NHKの役割 ー 負担金に契約はいらない

「合憲」NHK受信料、実はまったく不明!?徴収「お願い」困難で「特別センター」出動、最悪「訴訟に」

その結果、64年、郵政相(当時)の諮問機関である「臨時放送関係法制調査会」が受信料に関する答申を出した。

 その答申で同会が、受信料を「国家機関ではない独特の法人として設けられたNHKに徴収権が認められたところの、その維持運営のための『受信料』という名の特殊な負担金と解すべき」と定義したのだ。

 1964年「臨時放送関係法制調査会」答申は,NHK受信料が何たるかを明瞭に述べています。「NHKの維持運営のための『受信料』という名の特殊な負担金」です。砕いて言えば「受信料」という名前だけど、中身は受信料ではないということです。受信料ならば、放送受信の対価であ 、放送局と受信者の合意に基づき契約を交わし、放送局は放送の義務、受信者は受信料支払いの義務が生じます。要するに売買契約に過ぎません。押し売りは買い手の合意がありませんので契約は成立しません。

 これに対して「負担金」は、公共的事業の受益者から徴収する分担金です。その根拠は当該事業にかかる特別法にあり、契約は不要です。そして、NHK事業の受益とは、NHK放送の受信ではありません。もっと広く、一般的な放送の受信です。つまり、NHKを見なくても、民放を見ていれば受益があるということで、それは、放送法の目的を読むとはっきりします。

第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

 「放送」であって「NHK放送」にはなっていません。テレビ放送の黎明期に、放送技術開発や公共に資する放送コンテンツ開発を放送法は目的としていて、その事業を行うのがNHKです。事業の成果は広く民放にも活用され、NHK視聴に関わりなく受益があるので、負担金は受信機の設置者から徴収するということにしたのでしょう。もっとも、「臨時放送関係法制調査会」の後付けの解釈ですので、当初はあいまいだったようです。

 この種の公共的事業は、民間営利事業として成立しにくい新しい技術を利用した事業で行われます。古くは、明治時代の官製製鉄工場から、最近では旧通産省主導で行われた第五世代コンピューター開発などがあります。古い官製製鉄工場は成果を上げて、民間に払い下げられて役目を終えましたが、少し前の通産省の事業をあまり成果を上げることなく消滅してしまいました。失敗もありますが,宇宙開発の類は公共的事業として行う必要がまだまだありますし,大学での基礎的研究は民間では困難です。

 いずれにせよ、これらの個別の事業は民間に引き継がれるまでの時限的なものです。基礎研究を行う大学や研究所は公共的組織として存続しますが、研究開発テーマは常に変化しています。さて、NHKはいつ役目を終えるのでしょうか。改めて、放送法第一条を確認してみます。

一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。

 十分、普及して、もはや衰退期といっても良いかもしれません。とうの昔に役目は終えています。

二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。

 政府広報ですら、時の政権政党の見解に偏っており、そもそも、放送の不偏不党なるものが成立するとは思えません。それでもあえて言えば、不偏不党とは、多くの民放が自由に放送できるということだと私は思います。単一の公共放送が不偏不党を標榜するのは困難なだけでなく、危険ではないでしょうか。黎明期にはNHKしか存在しませんでしたので、せめて不偏不党の努力くらいはしろだったかもしれませんが、現在では多数の民放が存在しますので、これまたNHKの役目は終わってるんじゃないでしょうか。

三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること

 これは、放送法に関わる立法、あるいは放送事業者団体の職業倫理策定のようなことだと思います。前項同様に放送黎明期にはNHKが果たす役割もあったかもしれませんが、現業として放送を行っている単一放送事業者がいつまでも主導するのはいかにも危険です。

 では、放送法では「受信料」となっており、しかも自由意思に基づくはずの「契約」を義務づけるなどという支離滅裂な規定になっているのは何故でしょうか。これは推測するしかありませんが、有料道路料金などの公共的料金と同じように考えただけかもしれません。その際に、放送には純粋公共財の性質があり、料金徴収に適さないという経済の知識が欠落していたのではないでしょうか。放送は「ただ乗り」可能ですし、「ただ乗り」されても料金を払っている人のサービスが低下するわけでもありません。そのため、ただ乗り防止策を講じて、受信料を払わないつまり契約しない人は視聴できなくするのが常識です。有料道路には料金所やETCゲートが必須です。そうで無い場合は、受信料ではなく広告料で運営され,それが一般的です。単に、そこまで知恵が回らなかっただけという気がします。垂れ流しのウナギの臭い料を徴収しようというのは落語の話だけです。

 そして、現実に「ただ乗り」が発生します。これを解決するには、本来の負担金に法改正する必要があります。しかし、それをしてしまうと、視聴者が自分の意志で契約して受信しているのではないことが、明らかになり、NHKの役割、放送法の目的の再検証につながりかねません。そうなると、NHKは役目を終えたと判断される恐れがあります。NHKとしては、それだけは是非とも避けたいでしょう。それゆえ、視聴者をお客様と呼び、お客様に喜んでいただける朝ドラ,大河ドラマなどを制作し,お客様がNHK放送を気に入って自主的に契約して受信料を支払っている体を取り繕い,その一方で,欠陥放送法に基づき強制的に受信料という名の負担金を取り立てるという分裂的行動をしているのだと思います。