設置と携帯

ワンセグ携帯所有者はNHK受信料不要、さいたま地裁判決
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埼玉県朝霞市の大橋昌信市議(NHKから国民を守る党)が、テレビを設置せず、ワンセグ機能付きの携帯電話を所有しているだけで、NHKの放送受信料を支払う必要があるかどうかの確認を求めていた裁判で、さいたま地裁は8月26日、受信料を払う必要はないとする判決を下した。

裁判では、「受信設備を設置した者」に受信契約の義務があると記した「放送法64条1項」の解釈などが争われていた。大橋市議は、携帯電話のワンセグは「設置」ではなく、「携帯」だと主張。対するNHKは「設置」とは「受信設備を使用できる状態に置くこと」と反論していた。

判決文では、マルチメディア放送(サービスが終了したNOTTVなど)の定義を定めた放送法2条14号で「設置」と「携帯」が分けられていることから、ワンセグも「設置」とするNHKの主張を「文理解釈上、相当の無理がある」とした。

 これは、条文の不備をついた申し立てで、地裁がそれを認めたということですね。放送法64条では、次の様に「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に受信についての契約の義務を課しています。

第六四条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。

 そこで、ワンセグ機能付きの携帯電話の所有が「設置」に該当するかが争点になったようです。NHKは「設置」だと主張したのですが、なんということか、第2条14号で、「設置」と「携帯」を区別していたという盲点があったというわけです。

第二条 この法律及びこの法律に基づく命令の規定の解釈に関しては、次の定義に従うものとする。
十四 「移動受信用地上基幹放送」とは、自動車その他の陸上を移動するものに設置して使用し、又は携帯して使用するための受信設備により受信されることを目的とする基幹放送であつて、衛星基幹放送以外のものをいう。

 確かに2条14号では「設置して使用」と「携帯して使用」と明確に区別しています。一方、第64条で契約義務があるのは、「設置」としか規定してありません。この判決は、単に条文を国語のルールに従って読解しただけで,議論の余地がありません。放送の本質にかかわるような内容は特にないといえます。

 そこで,本質にかかわることを考えてみると,携帯ワンセグは、放送というものが不特定多数に受信され、課金や契約になじまないものであることを分かり安く示していると思います。そもそも、課金や契約を行うためには、相手方が特定できている必要があります。しかし、放送の受信者の特定は困難です。それでも、家屋に設置するTV受信機だと、ある程度は可能です。それが携帯ワンセグとなるとほぼ絶望的になります。その結果、たまたま判明した取れそうな相手だけから取るというただでさえて不公平な仕組みがさらに鮮明になっています。取りやすいところから取るという源泉徴収制度がサラリーマンから不評なことを考えれば、NHK受信料制度はそれ以上に不評なのは当然だと思います。

 TV受信機なら特定可能と書きましたが、受信機を設置しているかどうかの情報はプライバシー情報ですので、NHKが得ることは本来できないものです。各家庭の中を覗き込んでTVを設置しているか調べたり、家電販売店から顧客情報を得ることはできません。受信契約が可能なのは、NHKが直接TVを販売する場合だけです。この場合なら、視聴者が受信料を払わないと言うのなら、TV受信機を販売しなければよく、契約は成立しません。契約とは本来そういうものです。

 NHKのやり方は、町中という公共空間に建造物を建設し、その景観を見ることが出来る人から、拝観料を取るようなものです。建造物を拝観したいという意志は関係ありません。従来は,自宅から建造物が見える人が徴収対象だったものを,旅行者も含む通行人にまで徴収範囲を拡大するようなものかと思います。

 しかし,歩いている人からその場での徴収は無理ですから,通行人の把握は,24時間プライバシー監視社会でもないと現実味がありません。 ちなみに,NHKはワンセグ携帯所有者で受信料を払っている人がいるかどうか分からないとも言っています。NHKも非現実的な主張だとわかっているのではないかと思います。