うなぎ屋のコウモリ ー NHK -

 立花氏の言動はアレだけど、「NHK放送のスクランブル化」はごく普通の主張ですね。

 多くの国会議員が「法令で受信料支払い義務がある」と勘違いした発言をしています。放送法では、支払いではなくて、契約を義務付けています。同じじゃないかと言う人もいますが、大違いです。契約とは私法上の契約にしろ公法上の契約にしろ、対等な当事者の合意に基づくものです。乙が甲に義務付ける甲乙契約などというものは矛盾だし、契約の意義をないがしろにしていますね。逆に、法令で支払い義務があるのなら、契約なんか不要です。不満でも、契約なんかしなくても、憲法に納税義務があるので、税金はとられます。

 この契約義務化が放送法の最も奇妙奇天烈な所です。法令で強制的に義務化しておきながら、合意に基づいているという体にするのは、ヤクザのみかじめ料請求の言いぐさですよ。報復を匂わせて強要しておきながら「お願いされたので警備しているだけ」と当事者合意による用心棒契約を装うわけです。

 ヤクザの報復示唆にあたるのが訴訟です。大抵、NHKの勝訴になりますが、その根拠は放送法です。敗訴になって受信料を支払えば、契約したことになり、自主的に合意して支払ったとみなされます。脅して強要したくせに酷い話です。

 契約とは、何かを提供し、その対価を支払うという取り決めです。その前提には、対価を支払わなければ何も提供されないことがあります。支払わなくても提供されるなら、対価を支払う馬鹿はいませんから当然です。垂れ流したうなぎの匂いの代金を請求するのは落語だけです。通常の放送はその前提が成り立たないので、受信料を取るためにはスクランブル化が必須です。

 スクランブル化とは、有料道路の料金所みたいなものです。通行料を払わないと通行できないようになっているわけですが、NHKがやっていることは、料金所を設けないだだ漏れの道路を作って、自動車を持っている人全員から通行料を聴取するようなものです。NHK道路は利用しないといっても聞いてもらえません。結局、この奇妙な有料道路は、税を財源とした一般の道路と本質的に同じになっています。ただ、大きな違いがあります。共有の税金ではなく、NHK専用の「税金」が徴収できるという特権性です。

 道路は公共的性格がありますから、税金を使うのが妥当なように、NHK放送も公共放送と言うのなら、税金で運営すればいいのです。でも当のNHKが一番嫌がっているはずです。なぜなら、国の機関になってしまい、国の介入や制約が増え、職員も国家公務員になってしまうからです。現状のような高給(平均年収1000万円超)や自由な運営は望むべくもありません。

 自由な運営と高給を望むなら、高速道路株式会社のように、ただ乗りさせないようにスクランブル化して運営すればいいのです。でも、これまたNHKは嫌がります。有料道路と違って放送事業では競合する民間放送事業者がいて、競争に負けるのを恐れているんでしょう。つまらなくて誰も見なくても料金が取れる仕組みは魅力的ですからね。

 つまり、NHKイソップ寓話の卑怯なコウモリさながら、鳥(公共)と獣(民間)の立場を都合よく使い分けています。それを可能にしているのが、もはや使命を終えた放送法じゃないかと。

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