■ 平均寿命は恣意的か?

 「高齢者が死んでも、平均寿命は短くならない」という新型コロナ関連のツイートを見かけました。もちろん間違いだと直観的にわかります。分かるのですが、実のところ、私は平均寿命の計算方法を正確に知りませんでした。そこで、調べてみました。厚生労働省の「生命表諸関数の定義」に説明してあります。

 

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life21-08.pdf

 

 変数と数式がごちゃごちゃ出てきて、一見しただけでは分かりにくく、直観的にイメージする「死んだ年齢の平均」とは違うように見えます。そこで、次の単純な例について厚労省の方法で計算してみました。

10匹のネズミが生まれ、

1歳まで10匹全部生き残る。

1歳から2歳までに2匹死に、8匹が生き残る。

2歳から3歳までに4匹死に、4匹残る。

4歳までに全部死ぬ。

 結果を下に示しています。

 

 

 厚労省の説明図の通り、上のグラフの①と②の面積が同じになる青線の位置が平均寿命になります。この例では2.7歳でした。

 しかし、この計算で何故平均寿命なのか、疑問に感じる人も多いようです。平均寿命の計算法を検索していたら、「平均寿命とは、1年間に亡くなった方の死亡時年齢を平均したものではありません。」と書いてあるものがありました。確かに、計算式ではグラフより下の面積を出生者数(ネズミの例では10匹)で割ったもので、死亡年齢の平均とは違うように感じるかもしれません。

 しかし、グラフより下の面積は、上のグラフのように縦線で区分された面積を合計するほかに、下のグラフの横線で区分された面積を合計しても計算できます。この区分された面積は死亡時年齢にその人数を掛けたもので、その合計を出生者数で割っているのですから、「1年間に亡くなった方の死亡時年齢を平均したもの」になります。言葉で説明すると分かりにくいですが、グラフを見ていると納得できるのではないでしょうか。

 他にも、平均寿命については誤解が多く、平均寿命までに半数が亡くなると書いてあるものもあります。グラフを見れば分かるように、ネズミの半数の5匹が亡くなるのは、2.75歳です。

 さらには、「平均寿命とは、データ算出ではなく、期待値による数値、つまり、どうにでも数字をいじれる数値なのです。」とか、「日本人が長生きなのは、平均寿命の計算方法が恣意的だからで、実態と違う。」などと、ボロカスに言っているものもあります。

 確かに、平均寿命や平均余命は、出生数と死亡数が同数の定常状態になっているという前提で計算しますが、実際には定常状態ではありません。なので、今後の余命の正確な予測でもありません。というか、今後、どのように変わるかなんて確実に予測できるはずがありません。とはいえ、現時点で得られるデータの現在の死亡年齢とその人数から最も妥当な方法で推測したものだと思います。少なくとも、計算法も決まっていますので、どうにでも数字をいじれる恣意的なものではないでしょう。