「率」の扱い − 「子宮頸がんワクチンにまつわる計算間違い」の訂正

 「子宮頸がんワクチンにまつわる計算間違い」について,ブクマで間違いの指摘がありました。お詫びして修正記事をあたらめて書き起こします。元の記事には注意書きを加えてそのまま錯覚の見本として残しておきます。

 まず,コメントに罹患率と有病率の指摘がありましたので,その復習からです。

罹患率=「期間中に新たに発生した症例数」
        ÷「期間中の疾患の危険性にさらされる集団ののべ人数」

有病率=「ある一時点における疾患を有する人の数」
        ÷「観測する対象のリスクを抱える母集団の大きさ」

 これをかなり単純化した図で説明すると以下のようになります。図の縦棒は各年代の人口で,単純化のため5年間としていますが,実際は生涯年数になります。図の2年目がHPVワクチン接種年代で,実際には12,3歳です。各年代の人口や発生数は同じにしています。また,実際には死亡者がいるので,累積はもっと少なくなりますが,死亡者がいないとして,単純に発生数を累積した図にしています。概念の理解にはわかりやすいと思い,このようにしています。新規発生が「青」で,前年までの累積が「茶」です。

 子宮頸がんの罹患率と有病率を図の上段に示していますが,中段の鹿野 司氏とskymouse氏の計算している率とは異なっています。skymouse氏の率の分母は全女性の人口なので,疾患の危険性にさらされていない子どもまで含んでいるので大きくなっています。両氏の率はこの後に示すHPVワクチン副作用と比較するためのものですから,必ずしも罹患率や有病率別と同じである必要はありません。ただ,実際に比較対象としている子宮頸がんの率は罹患率なので,skymouse氏の方が近そうではあります。

 一方のHPVワクチンの副作用についても,罹患率と有病率に相当するものを図の下段に示しています。副作用は重篤で治らないとしています。その結果,罹患率も有病率も同じになります。両氏が子宮頸がんと比較しているのもこの率です。

 しかし,このHPVワクチン副作用の率と子宮頸がんの罹患率は比較できないように思います。なぜなら,HPVワクチンはインフルエンザワクチンのように毎年接種するものではなく,最初の1年に3回接種するだけで良いからです。副作用の発生の危険にさらされるのはその年だけです。思春期以降生涯にわたる子宮頸がんの発生リスクと比較するのですから,HPVワクチン副作用も同じ期間のリスクで比較すべきでしょう。言い換えれば,摂取年代の罹患率ではなく,摂取以降のすべての年代の罹患率に相当する率と比較すべきかと思います。それが図の「??率」です。あるいは,有病率を比較することも考えられますが,がんで死亡する人数が抜けていきますので,そのリスクが考慮されないことになります。また,有病率を計算するデータは両氏とも示していませんので,実際には出来ません。

 前の記事では,思春期以降の女性のうち子宮頸がんになる人数の比較が妥当と書きましたが,以上のことから,両氏ともに妥当ではないと修正します。では,私が妥当と思う「??率」で比較するとどうなるか,計算してみたいと思いますが,「率」ではなくて,実数で比較してみます。その方がわかりやすく間違いも少ないと思うからです。

 まず,HPVワクチンを接種しない場合のリスクですが,これを思春期以降の女性のうち子宮頸がんになる人数で評価します。これはそのものずばりが示されていて,年間9000人ほどです。

 次に,HPVワクチンを接種する場合のリスクは,思春期以降の女性のうち子宮頸がんになる人数とHPVワクチン副作用を発生する人数です。子宮頸がんになる人数はワクチン接種しない場合の半分とすれば,4500人です。副作用(重篤)は3年間で100人ですが,接種率を65%とすれば,100%の場合は,160人程です。1年だと50人ほどになり,〆て47004550人程度です。実に簡単な計算ですが,ワクチン接種した方が良いと私は判断します。

 前の記事でしたり顔で計算間違いを指摘しましたが,他人のことは言えないと思いました。ただ,一番言いたかった,下手に「率」の計算をするよりは,母数をそろえて実数で考えた方が間違いが少ないということは変わりません。特に専門分野に素人が口出す場合は注意が必要ですね。ここで述べた以外にも「生涯罹患率」やら「生涯有病率」なんてのもあって,ややこしいです。でも,素人でもおおまかな判断をする必要があるし,不可能ではないと思います。

【5/30追記】

 よく調べてみると,罹患率の分母には既に罹患している者は含めないようです。通常は罹患率は小さいので含めても含めなくても大差はなさそうですが,それ以外にも見落としがありそうです。また,有病率はある時点で考えると説明してありますが,ある期間で考える場合もあったり,累積有病率やら累積罹患率やらとにかく微妙な違いのものが沢山あります。こうなってくると,素人がこのような専門用語を使うのは控えた方がいいという気分になってきました。だからといって,危険性の判断が出来ないわけでは無く,概算で十分可能と思います。もっとも,その概算の意味が分かっていればですが。