補足「率の率 - 5年相対生存率」

【この記事は,7/16に「訂正「率の率ー5年相対生存率」」として書いたものをタイトルと内容を修正したものです。6/26の「率の率ー5年相対生存率」に間違いがあったとして書いた訂正記事でしたが,再確認してみると,結果的には間違っていませんでした。「相対生存率」の意味を良く理解していなかったため,このような二転三転の見苦しいことになってしまったと思います。
 訂正部分を削除し,補足説明を修正して残しました。
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20160626/1466891740】 
 どうも,「率の率 - 5年相対生存率」に間違いがあるようなので訂正します。
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20160626/1466891740 

 間違い箇所の説明の前に,5年相対生存率の定義をおさらいしてみます。本来は専門書で確認すべきですが,仕事ではないので,手抜きします。手軽にネット上で見つかるものの内,私が分かりやすいと思ったのは次の定義です。

 がん情報サービス
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
5年相対生存率
あるがんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体*で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。
 * 正確には、性別、生まれた年、および年齢の分布を同じくする日本人集団

 うっかり,最後の注記部分を軽視していました。でも注記で「正確には」と書いてあると軽視しますね。だから,専門書をみないといけないのでしょうけど。
 最後の注記部分が重要です。私はこの注記通りに考えて,前の記事「率の率ー5年相対生存率」に書いた条件式を導き出していましたが,その意味を十分に理解していませんでした。そのため,後でその意味に気づいた時に,条件式が間違っていないのに間違っていると混乱してしてしまいました。

 それはともかく,「あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合(実測生存率という)」を割る「日本人全体*で5年後に生存している人の割合(期待生存確率という)」は,実測生存率の対象者と同じ性・年齢分布をもつ日本人でなければなりません。

 従って,男性(女性)の5年相対生存率の分母の期待生存率は男性(女性)のものでなければなりませんが,前の記事では日本人全体としていました。ということで記述した関係式は間違いです。正しくは次のようになります。

男性のあるがん診断者数:M1
男性のあるがん診断者数の生存者数:M2
あるがん診断者数と同じ性(男性)・年齢分布をもつ日本人数:M3
あるがん診断者数と同じ性(男性)・年齢分布をもつ日本人の生存者数:M4

女性のあるがん診断者数:F1
女性のあるがん診断者数の生存者数:F2
あるがん診断者数と同じ性(女性)・年齢分布をもつ日本人数:F3
あるがん診断者数と同じ性(女性)・年齢分布をもつ日本人の生存者数:F4

 以上の記号を用いると,
 
 男性の相対生存率:(M2・M3)/(M1・M4)
 女性の相対生存率:(F2・F3)/(F1・F4)
 日本人の相対生存率:{(M2+F2)・(M3+F3)}/{(M1+F1)・(M4+F4)}

この場合でも,日本人の相対生存率は男性と女性の中間の値になるとは限らないという結論は,以前の記事と同じです。a/b

 5年相対生存率は,率を率で割ったものです。「あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合(実測生存率という)」を「日本人全体*で5年後に生存している人の割合(期待生存確率という)」で割ります。その際の期待生存確率は,実測生存率の対象者と同じ性・年齢分布をもつ日本人となっています。

 ではなぜ,相対生存率の分母を実測生存率の対象者と同じ性・年齢分布をもつ日本人にするのかについては,例えば,「全がん協加盟施設の生存率共同調査」のQAには次の様に説明してあります。

相対生存率って何ですか?
http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/faq.html
生存率には実測生存率と相対生存率があります。実測生存率とは、死因に関係なく、全ての死亡を計算に含めた生存率です。この中には、がん以外の死因による死亡も含まれます。がん以外の死因で死亡する可能性に強く影響しうる要因(性、年齢など)が異なる集団で生存率を比較する場合には、がん以外の死因により死亡する確率が異なる影響を補正する必要があります。性、年齢分布、診断年が異なる集団において、がん患者の予後を比較するために、がん患者について計測した生存率(実測生存率)を、対象者と同じ性・年齢分布をもつ日本人の期待生存確率で割ったものを相対生存率といいます。地域がん登録では、相対生存率を用いています。生存率を世界と比較する際も相対生存率が用いられます。

 少し,分かりにくい説明ですが,ここで注意しないといけないのは,生存者数に死因は無関係だと言うことです。死因が何であれ,死んだ人数を当初の人数から差し引いたものが生存者数です。素人考えだと,あるがんやそのがんの治療の効果を調べる指標ならば,そのがんで死んだ人の人数を用いた方が良さそうに感じますが,おそらく死因の特定は実際上は困難なのだと思います。死因は無視しているので,あるがんと診断された人の「実測生存率」が低くても,実は別の死因が多い可能性もあります。そのため,あるがんの患者さんの実測生存率が向上しても,それはそのがんの治療法の効果ではなくて,他の病気の治療の効果かもしれません。あるいは,あるがんと診断された人に高齢者が多くて,実測生存率が低くなっているのかもしれません。
 そこで,あるがんと診断された人と性別、生まれた年、および年齢の分布を同じくする日本人集団の生存率(期待生存率という)で実測生存率を割ったものを指標とします。これが相対生存率です。つまり,あるがんと診断された事以外は同じ条件の集団の生存率との比較することで,そのがんの影響だと推測するわけですのでしょう。

 以上のことから,男性,女性,日本人全体の相対生存率生存率を比較できないことがわかります。なぜなら基準とする期待生存率が全部違うからです。そもそも相対生存率はそのような比較のためのものではなく,あるがんであること以外の条件が同じ集団と比較することで,がんの影響や治療効果を推測するためのもののようです。しかし私のような素人は男性と女性の相対生存率を示されるとつい比較してみたくなりますね。まさに生兵法は怪我の元です。さらに,さまざまなバイアスや過剰診断があると,必ずしも治療効果を現わすわけではないとなると尚更です。でも,専門家の間でもこういうことが言われだしたのはそう古い話ではなさそうです。
  ただ,そのがん以外の要因を本当に取り除けているか私には疑問です。また,異なる集団,例えば男性と女性の相対生存率を比較して良いものなのが疑問があります。