「眠り姫問題」について、昨年から、いろいろ書いてきました。今年は、主に、何故パラドクスのように感じるかについて見解を述べてきました。区切りとして、簡潔に述べます。
パラドクスだと思う原因は、表である事前確率と月曜日の場合の表の事後確率と目覚めの場合の表の事後確率が同じであるはずという思い込みです。以上、終わり。
ちょっと簡潔過ぎたので、前言を翻して、例によってくどくど説明します。
■ 普通に解く
パラドクスと錯覚する原因について述べる前に、普通の解釈を示します。先ず、用語の説明から。
- 根源事象:「眠り姫問題」の問題設定には3つの状態があります。コインの表裏、月曜か火曜か、目覚めか睡眠かの3つです。この組み合わせで根源事象は8つになります。例えば、「表かつ月曜日かつ目覚めている確率(表月覚)」などです。
- 事前確率:他の二つの状態について限定しない場合の一つの状態の確率を事前確率と言います。例えば、「表である確率」などです。
- 条件付き確率:他の状態について条件を付けたものが条件付き確率です。例えば、「月曜日で有る場合に表である確率」などです。
これ以降、次の記号を用います。
F:表
B:裏
M:月曜日
T:火曜日
A:目覚め
S:睡眠
これらの確率は、問題の設定から求められます。根源事象のうち、(FTA)、(FMS)、(BMS)、(BTS)の確率は、問題の設定からすぐに0とわかります。F、B、M、Tの事前確率も1/2とするのが自然です。つまり、
表の事前確率:
(FMA)+(FMS)+(FTA)+(FTS)=(FMA)+0+0+(FTS)=1/2
裏の事前確率:
(BMA)+(BMS)+(BTA)+(BTS)=(BMA)+0+(BTA)+0=1/2
月の事前確率:
(FMA)+(BMA)+(FMS)+(BMS)=(FMA)+(BMA)+0+0=1/2
火の事前確率:
(FTA)+(BTA)+(FTS)+(BTA)=0+(BTA)+(FTS)+0=1/2
また全事象の確率は1なので、
(FMA)+(FTA)+(BMA)+(BTA)+(FMS)+(FTS)+(BMS)+(BTS)
= (FMA)+0+(BMA)+(BTA)+0+(FTS)+0+0=1
以上より、0以外の根源事象の確率は、計算でき、
(FMA)=(FTS)=(BMA)=(BTA)=1/4
になります。
また、目覚めの事前確率は、
(FMA)+(FTA)+(BMA)+(BTA)=1/4+0+1/4+1/4=3/4、
睡眠の事前確率は、
(FMS)+(FTS)+(BMS)+(BTS)=0+1/4+0+0=1/4です。
これらをまとめたのがこれまでも度々示してきた八分表です。今回は下図のように立体的に表現しました。条件付き確率は、八分表からわかります。
例えば、月曜という条件での表の条件付き確率は、1/4÷(1/4+0+0+1/4)=1/2です。
目覚めという条件での表の条件付確率は、1/4÷(1/4+0+1/4+1/4)=1/3です。
これ以外の解はありません。ただし、眠り姫は「目覚めという条件での表の条件付確率」ではなく、目覚めた時に「表の事前確率」を尋ねられたという解釈も可能です。そういうあいまいさが問題文にはあります。
■ パラドクスに陥る
次に、パラドクスに陥る考え方を示します。
上記、普通の解釈の結果1/3に違和感がある人が多数です。私も第一印象はそうでした。これは結局、事前確率と同じになるはずだという思い込みによるものですが、1/2にすることも可能です。次がその解釈です。
寝ている時に眠り姫に意識はなく質問を受けないので、目覚めの状態だけ考えればよい。つまり、(FM)、(BM)、(BT)が根源事象である。FとBの事前確率は1/2なので、(FM)=1/2、(BM)=(BT)=1/4である。これらは総て目覚めの状態なので、目覚めている場合の表の確率も1/2である。だが、まてよ、月曜日に表である確率は1/2÷(1/2+1/4)=2/3になる。あれ?
そこで考えなおします。
月曜日に表である確率を1/2にするには、(FM)= (BM)=(BT)=1/3とすればよい。あれ、表である事前確率が、1/3÷(1/3+1/3)=2/3になっちゃった。
この混乱の原因は、「表の事前確率」と「月曜日の場合に表である条件付き確率」と「目覚めの場合に表である条件付確率」が同じであるはずという思い込みです。これらが一致するのは、3つの状態の事前確率が互いに独立な場合のみで、普通はそれが成り立ちます。ところが眠り姫問題の設定では、眠り姫は、恣意的に目覚めさせられたり、眠らされたりしていて、独立ではありません。一致しないのは当然です。
つまり、上に示した解釈はパラドクスではなく、問題の設定に合っていないだけです。問題の設定に合うようにするには、睡眠かつ表かつ月曜日を根源事象に加える必要があります。この場合でも、目覚めの場合に表である条件付確率と表の事前確率は同じにはなりません。このことに違和感があるため、あれこれ考えますが、どのように考えても、一致するはずはないのですね。