国家財政と家計の違いを考えてみた(その2政府が支出せず、お金を貯めこみ黒字が増えるとどうなる)

 その1では、国債の借り換えを考えました。今回は、国家財政と家計は、全然違うよねという話です。特に「赤字」についてです。

 

■赤字と債務超過

 先ず、一般的な会計の基本知識を復習します。経営の本に書いてあるようなことです。赤字とはある期間の損益計算書において、費用(原価など)が収益(売上など)を上回る額です。マイナスの利益ですね。それに対して債務超過とはある時点の貸借対照表において、負債が純資産を上回った状態です。毎年の赤字が累積していくと負債が増えていき、純資産を全て売却しても負債の返済ができない状態になると債務超過です。

 

■赤字は日常茶飯事で、債務超過でも破綻するとは限らない

 家計では、費用と支出と言わずに、支出と収入ということが多いと思います。収入より支出が多いと借金(債務)で補わざるをえません。その借金が蓄積して家屋敷を売り払っても返済できなくなるのが債務超過と言えます。ただ、債務超過になっても破産するとは限りません。財産のない若者が借金すれば、即、債務超過ですが、お金を貸してくれる者がいれば何とかなります。お金を貸す理由には、「出世払いでいいよ」という銀行視点や、「資産家の親(や退職金)を食い物にできるぞ」という闇金視点などいろいろです。闇金も見放すと、万事休すで破産です。

 

■家庭、企業、銀行、国家財政の会計

 家庭では、働き手が働き、家庭の外から収入を得たり、借金したりしたお金を、家族の衣食住その他のために家庭の外に支出します。そのお金の出入りが家計簿です。

 企業も、生産活動を行い、企業の外から収益を上げます。その収益の一部を生産活動のために企業の外に支出しますが、借金が家庭より大きくなります。

 家庭や企業と銀行は少し違います。自らは生産活動を行わず、収益をあげそうな他の企業を見つけて貸し付け、利子付で返済をうけます。貸し出すお金は信用創造による預金です。預金には現金の裏付けは、ありませんが、貸出先が利子を付けて返済してくれるだろうという見込みがあります。出世払いみたいなものです。

 政府はさらに違います。自ら生産活動を行わず収益もありませんし、銀行のような貸付による利子収益もありません。国民から集めたお金を国民に配っているだけといえます。配ることを支出と言いますが、企業の支出とは全く様相が違います。企業は支出によって、原料や設備などの自分が使うものを得ますが、政府は社会資本などの国民が使うもののために支出します。これは、国民から集めた税金を国民に戻していることになります。だから税金は返済されません。ところが、借金である国債は、返済されます。借金して自分の服を買えば、返済するのは当然ですが、お金を預かって、預かった相手のために服を買っても、なぜか返済しなければならないのが国債です。何故でしょうか。

 以上のように財政と企業会計や家計はずいぶん違います。とても、同列に考えられません。とはいえ、お金を発行できる政府(正確には日銀を含めた統合政府)は、借金はいくらでも返せ、赤字は問題にならないというのは、少し乱暴に感じます。お金を発行できるなら、そもそも税金の徴収や借金の必要はないのですからね。お金の発行については別の回で考えることにして、今回は、財政の赤字を考えます。

 

■お金分配クラブ

 企業や家庭は、企業や家庭の外部から収入を得て、外部に支出します。それとは少しちがう架空のクラブを考えてみます。会員から会費を集めて、会員に再分配するだけの閉じたクラブです。無意味なクラブに思えますが、とりあえず架空なので話を進めます。このクラブの幹事が集めた会費以上のお金を分配するには、余裕のある会員から借金をするしかありません。さて、この借金は返せなくなることがあるでしょうか。

 表1を見ればわかるように幹事は必要なだけ会費を集めれば必ず返せます。段階5のところで会費を集め、段階6で返済しています。このクラブは内部でお金をぐるぐる回しているだけです。お金を会員以外に支出するか、会員以外から借金しない限り返済不能はあり得ません。とはいえ、1200以上の借金はできません。一方、家計は、家庭の外の勤務先からの給料や銀行からの借金を、八百屋で人参を買うために使うなど家庭の外に支出します。だから、返済不能はあり得ます。家計とクラブの大きな違いです。

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■国家財政

 海外との収支を無視すれば、政府は、国の中でお金をぐるぐる回しているだけですので、国家財政は家計よりもクラブ会計に似ています。政府は、国民のお金をただ集めて、国民のために使用(配分)しているだけです。労働の対価として国民から収入を得て、それを政府のために支出しているわけではありません。一部、役人が使う庁舎のような公用財産取得のための支出もありますが、ほとんどが国民の使う社会インフラなどの公共財産整備に支出されますからね。

 

■単なるぐるぐる回しから経済へ

 クラブでお金をぐるぐる回しているだけなら何の意味もありません。しかし、お金は使うことで増やせます。使うとは、実体的な物品や労働と交換することです。交換することで、利用されない資源が加工できる者へ移動して製品が製造されます。製品の価格は元の原料、設備の損耗費用、投入労働の価格より大きくなります。もし、通貨量が変わらないならば、お金の価値が上がるデフレになるはずです。しかし、このような経済成長では、むしろインフレになるので、どこかで通貨が発行されています。この過程についても別の回で考えることにして、経済活動で実体的な価値と通貨が増えることになります。例えば、釣り針と船を買った漁師は魚を釣ることができるので、魚という実体的価値が増えています。それだけでなく、通貨も増えていて、それを司るのは政府しかないでしょう。

 表1では経済成長しませんので、お金回しは無意味ですが、経済活動を行うクラブでは、余裕のある会員Aのお金を会員Bに回すことでお金が増えます。ならば、幹事は、会員Aから借金して他の会員に配分すべきでしょう。その結果、幹事の会計は赤字になりますが、家計の赤字とは意味が違います。クラブのお金の総額は幹事が借金した額以上に増えており、会費を集めれば返済できます。にもかかわらず、借金もせず会員への配分(支出)も減らし、幹事の財布にため込んで黒字になったと喜ぶ幹事は頭がおかしくなっています。

 

■ぐるぐる回しクラブ幹事の借金は返せる。

 経済活動を行うクラブの幹事は、もう殆ど政府と言ってよいでしょう。そして、会員から集めた会費を配分せず、ため込んで黒字だと喜んでいる頭のおかしい幹事に相当するのが財務省です。大局的に見れば、国債などの借金は支出した時点で国民に返済されたと言えます。表1で言えば、会員Aからの借金を配分した4の段階に相当します。幹事の金庫は空になり、会員の財布の合計は1200と元に戻っています。ただ、会員間での不均衡があるので、さらに会費を集め、会員Aに返済して不均衡を解消します。表1の6の段階で不均衡は解消し、2の段階に戻ります。表1では経済成長しないので、合計は1200のままですが、現実には、配分した4の段階の後で増えます。

 借金した表1の3の段階では幹事は120の赤字です。これが返済できなくなって破綻すると財務省は言っているわけです。しかし、会費を集めれば必ず返済できます。返済額が徴収可能な会員の持っているお金を超えることはあり得ません。グルグル回しですからね。経済成長がある場合は、その見通しが外れれば、返済できない可能性はあります。ですから、経済成長の見通しによって借金の限度額は決まりますが、借金は赤字だからダメということはありません。そんなことを言うのは財務省ぐらいです

 

■現実の経済は複雑だが

 なお、実体的な価値を生むのは資源や労働力のぐるぐる回しですが、お金を介して行うことで物々交換的経済より飛躍的に効率的で活発にできます。さらに、資源や労働力とお金の関係、つまり物価も変動します。貨幣量の調整という金融政策と、政府支出の調整という財政政策が絡み合い、物価や経済成長に影響し、そのメカニズムは素人の私には手に負えません。物価や金利の変動という時間の要因とさらに人間の思惑が関係するので簡単ではなく、専門家の意見もさまざまです。

 それでも、お金を発行できる政府が赤字を気にするのはおかしいと、素人の私でもわかります。むしろ、政府は自らが赤字になり支出することで、お金を回すのが仕事じゃないのと思います。経済成長のない表1では、借金や会費徴収は、合計1200を超えることはできませんが、経済成長があれば、将来の成長を見越して超えることが可能になります。この成長の見積もりが重要で、それに応じた借金をして、通貨も増やすのが任務だと思います。

 

■奇妙な財務省の任務

 頭のおかしくなったクラブ幹事と同じことを財務省がするのは、多分、財務省設置法に原因がありそうです。設置法には財務省の任務として「健全な財政の確保」とは書いてありますが、「国の経済発展に資する」のようなことは書いてありません。国民を貧乏にして、政府の財政を健全にしてもよいのです。国民が貧乏になれば財政も健全にはなりませんが。

 

■奇妙な総務部の任務

 会社でいえば政府は総務部です。総務部は会社全体の会計を健全にするのが任務だと思います。しかし、仮に総務部だけの健全な財政が任務になっていればどうなるでしょうか。直接的な収益のない総務部は、他の部の収益を上納させて、ため込むだけになり、いずれ会社は倒産するので、総務部も同時に消滅します。

 

■奇妙な審判の任務

 クラブの幹事と会員の立場は違いますし、政府と国民の立場も違います。同様に、スポーツの選手と審判の立場も違います。

 審判がレッドカードを選手に配布するスポーツがあります。レッドカードはマイナスのお金のようなもので、限度を超えると、退場させられます。選手がレッドカードを持っているのは赤字のようなものですが、立場の違う審判には関係有りません。試合を公正に進めるためにレッドカードを配る立場です。

 しかし、審判の任務が、「健全なレッドカード保有」となっていて、レッドカードを持っていると自分も退場させられると審判が心配しだしたらどうなるでしょうか。まず選手が殆ど退場させられ、試合続行不能になり審判も失業しますね。