ダムや遊水池は周囲の農地や町を守るためにあり、それ自身が水を湛えるためにあるのではない

 通貨発行権を持つ政府に「健全財政」なる概念はないと思います。といっても赤字になればお金を刷ればよいから大丈夫という単純な話ではありません。適正な通貨発行量というものはあり、いわば「健全通貨発行量」はあるけど「健全財政」はないという話です。

 話を単純化するため「ベビーシッター組合」で考えます。「ベビーシッター組合」とは経済を単純化したモデルですが、知らない方は、リンク先の説明でも読んでください。経済と通貨を発行する国の役割の分かり安い説明になっています。

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  さて、組合員の夫婦にはクーポン券の健全財政が必要です。必要な時に子守を頼むために手持ちのクーポン券をもっていなければなりません。つまり、クーポン券の収支は黒字の方がよいです。しかし、信用があれば借用書を書いて借金ならぬ借クーポンすることもできます。借クーポンは子守をすることで返済します。しかし、度が過ぎると信用を失い借クーポンできずに破綻します。財政破綻です。

 クーポン券を発行する組合事務局には、組合員夫婦のようにクーポン財政が破綻しないように健全財政を心掛ける必要がないのは明らかでしょう。そもそも子供のいない事務局に子守を頼む需要もありません。事務局の仕事はリンク先で説明されているクーポン券のインフレやデフレが起こらないように適正量を発行することです。その仕事を組合員の輪番かつ無料で行うのなら、会計も不要です。ただし、事務局作業に報酬を払うのなら会計が必要になりますが、その報酬をクーポン券で支払うなら収入は不要です。組合全体のクーポン券経済に比べれば事務局費用は微々たるものなので、インフレも起きないでしょう。会計といっても、事務局経費として発行した微々たる額のクーポン券を記録するたけで、収支を気にすることもありません。

 この事務局経費は国の会計でいえば公務員の給料に相当します。実際の国の会計ではそれ以外に公共工事発注なども行いその額の方がはるかに大きくなります。公共工事はそれなりの必要性があって発注されますが、経済的観点だけからいえば通貨量の調整のために行われ、ケインズが言ったように穴を掘って埋めるだけの工事でもよいのでしょう。

 公共工事の類も含めれば会計は大きくなりますが、デフレの時は市中の通貨を増やすため赤字になり、インフレなら市中通貨を吸い上げて黒字になります。「黒字の健全財政」だからいいってものじゃありません。ただし、国外(ベビーシッター組合)外との外部経済を考えれば破綻はあります。

 公共工事とはベビーシッター組合事務局でいえば、クーポン券デフレ状態で誰も子守を頼まないようなときに、子供もいない事務局が子守を組合員に頼み、組合活性化する呼び水のようなものじゃないでしょうか。実際に子守をしてもらうためには、別の組合員の子供の子守をしてもらうことになるかもしれませんが、その手法は何でもよく、重要なのはクーポン券流通量を増やすことで、それは事務局会計の赤字を意味します。クーポン券インフレの時は事務局の子守発注を抑え、支出をへらすので会計は黒字になります。

 国の会計は、ダム遊水地にもたとえられます。洪水になりそうなときは水をため込み、日照りの時は水を放出します。日照りなのに水をため込んだりしません。ダム遊水池は周囲の農地や町を守るためにあり、それ自身が水を湛えるためにあるのではありませんね。

 

【追記8/19】

世の中に流通しているお金に比べて、国家公務員の給料が微々たるものでインフレは起こらないと書きましたが、どんなものか調べてみました。

 お金の定義は色々有りますが、最も少ないM1(現金通貨+預金通貨)を考えてみます。

現金通貨はM1の1割程度で、現金を紙幣(日本銀行券)とすると120兆円程度ですので、流通しているお金は1200兆円ほどになります。

https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/money/c06.htm/

 国家公務員の人件費は5.3兆円でした。国家予算が100兆円程度なのでその5%程です。

https://www.mof.go.jp/faq/budget/01ah.htm

 紙幣は古くなると廃棄され新規発行され、その額は11兆円ほどです。

https://www.boj.or.jp/note_tfjgs/note/order/bn_order.pdf

 以上より、国家公務員人件費は世の中に流通しているお金の0.4%、国家予算の5%、新規発行紙幣の半分程度です。