コンクリート調合管理強度の試験に必要な供試体数

供試体数

 コンクリート工事では、圧縮試験を行いコンクリート強度の確認を行う。この試験に必要な供試体数の質問は多いらしい。その中で、「調合管理強度」というものの供試体の数が良く話題になる。

 調合管理強度の判定の目的は、生コン工場が建設現場のゼネコンに納入する生コンクリートが注文通りの品質なのかの確認である。現場納入時点ではまだ固まっていないので強度の確認は出来ない。よって固まった後(28日から91日の間)に試験する。しかし、固まるまでの温度や養生の仕方で強度は変化するし、現場搬入後は生コンを受け取ったゼネコンの責任になる。そこで、現場に係わらない一定の条件で養生した供試体で試験を行う。この試験の強度は実際の建物に打ち込まれて固まったコンクリートの強度とは違うが、生コン工場が保証する強度である。

 さて、JASS 5では、この試験の供試体の数次のように定めている。

打込み日ごと、打込み工区ごと、150㎥以下ごとに1回の試験

1回の試験には3個の供試体を用いる。

 さらに、合否の判定基準は次の二つを満足することである。

(a)1回の試験の3個の供試体の強度の平均値が調合管理強度の85%以上

(b)3回の試験の9個の供試体の強度の総平均値が調合管理強度以上

  つまり、判定を下すためには3回の試験(9個の供試体)が必要そうである。

 ここで問題である。

毎日150㎥ずつ4日間で600㎥のコンクリートを打設した場合、供試体はいくつ必要か?

 実は、公式の回答はなく、次のように様々な意見がある。

①最も厳しい意見。コンクリート強度の確認は打ち込んだ日ごとに前記の(a)(b)の1セットを行わなければならない。従って、1日に9個、全体で36個必要である。

②比較的主流の意見。1日に行わなければならない試験は1回でよく、(b)の3回の試験は別の日のものでよい。450㎥以上あるので、2セットの試験を行うため18個必要である。

③緩い意見。3日目までの450㎥までで1セットの試験を行うため9個必要である。4日目に3個採取し、(b)の総平均値は2から4日目の3回の試験の平均値とする。よって12個

 この議論が行われる時に、そもそも何故(a)と(b)の二つがあるのかという根本的な理由は俎上に載ることは少ない。それよりも現場でどうすれば規定に反しないのかを知りたいのである。そのため、規定文の形式的な解釈の議論になる。しかし、規定文があいまいなのでどれほど議論しても結論は出ない。

 

私の意見

 私は、①から③とは違う意見だ。そもそも3個の平均値や9個の総平均値とするのは、コンクリートがバラツキの大きい材料だからである。本来は総ての供試体が調合管理強度以上であるべきだが、それでは厳しすぎるので2段階で緩和しているのだ。

 緩和の一つは、1回の試験では調合管理強度以上である必要はなく3回の試験の総平均値が調合管理強度以上であればよい。ただし、1回の試験の値があまりに小さい、つまりバラツキが大きすぎるのも問題なので、調合管理強度の85%とバラツキも制限している。

 二つ目は、1個の供試体には特に制限はなく、3個の平均値つまり1回の試験が調合管理強度の85%以上であればよい。1個の供試体は強度ゼロでも規定上は良いのである。

 つまり、1セットの判定に9個もの供試体が必要なのは、1個の供試体強度が小さくても(ゼロも可)全体的な強度があればよいわけだ。言い換えれば、大きな450㎥というボリュームの平均の強度があれば、局部的な50㎥のコンクリートの強度が小さくても、他の強度の高い部分が補っていて大丈夫と考えているのだ。150㎥なら85%以上あればよいのである。

 では、補ってくれる大きなボリュームがない場合は、どうすればよいか。補ってもらわなくても良いようにどの局部的箇所も強度があればいいはずである。例えば総量でも150㎥しかないならば、1回の試験が調合管理強度以上あればよい。

 ということで、私の意見は3日目までの9個の供試体で1セットの確認を行い、4日目は1回の試験で調合管理強度以上を確認するというものだ。都合12個と前述の③と同じ個数になる。ただし、判定基準が違うので③よりは厳しくなる。

 

楽ではない可能性

 供試体の数では12個と少なく、緩いのではあるが、1回の試験の判定基準が85%から100%となるので、実はそれほど緩くない可能性もある。しかし、現実にはその可能性はほとんどないだろう。前述のようにコンクリートはばらつきの大きい材料であるため、調合では相当の安全率を見込んであり、圧縮強度試験を行うとかなり大きな値になるのが普通である。さらに調合管理強度の試験とは別に構造体コンクリート強度の試験もある。これは実際に出来上がった建物の強度を推定する試験であり、ゼネコンが保証しなければならない強度である。そして、目的は違うが試験そのものは調合管理強度の試験と殆ど同じだが、1回の試験での85%緩和規定はなく、100%必要なのである。

 

【追記】

 調合管理強度はゼネコンと生コン工場間での責任に係わるが、施主にとってはあまり気にする必要はないと思う。施主はゼネコンに最終的な構造体コンクリート強度を保証してもらえばよい。他の材料、例えば鋼材などは製造過程での性能などは施主は求めない。プロセス管理は製造者には重要だが、施主は最終的な性能があればよいのである。

 レディミクストコンクリートが登場する前の現場練コンクリートの時代では施主側の監督が製造過程についても検査確認していた名残なのだと思う。鋼材のような工場製品は規格証明書を提出すれば試験も不要である。レディミクストコンクリートも工場製品でありJIS規格もあるが、何故か試験を行う。

 まだレディミクストコンクリート工場は信頼性に乏しいと見られているのだろうか。

 

【7/17追記】

 質問が多いのは、少量の場合だ。50㎥しか打ち込まないが供試体は9個必要なのかと。個人的には1回の試験を行い3個の供試体の平均値が調合管理強度以上あればよいと思う。450㎥を150㎥ごとに3つの区画に打設する場合、それぞれの3個採取する。一つの区画をみれば、その平均値は調合管理強度の85%以上しか確認していない。それと比べれば十分だろう。