「眠り姫問題」―自覚しにくいあいまいさ

 前記事追記の製品検査バージョン2では多数の合格品から抜き出す設定です。そこのところが「眠り姫問題」とは違うと感じる人もいるかもしれません。そこでより近い設定にしてみたのが次のバージョン3です。

  • 製品検査バージョン3

コインを投げ表がでたら旧工作機械で、裏が出たら新工作機械で1個だけ製品を作る。その製品は、合格品であった。さて、コインが表だった確率は?

  バージョン2だとほとんどの人が1/3と答えると思いますが、バージョン3ではひょっとしたら1/2と言う人も出てくるかもしれません。しかし、確率の問題として扱う場合の構造は全く同じです。違うのは製品を多数生産するのか、1品しか生産しないかという点です。

 確率クイズで紛糾するのは大抵、1回の出来事についての確率です。1回の出来事の確率は考えにくく、勘違いもしやすい傾向があります。それに比べ、頻度の形式で考えると分かりやすくなります。製品検査バージョン2は頻度で考えやすくなっています。 「旧製作機械が1台あり、200個生産すれば100個の合格品と100個の不合格品が出来る。新工作機械も同じく1台あって、200個生産すれば200の合格品が出来る。都合300個の合格品の内、旧工作機械で作られたものが100個なので・・・」と考えやすいわけです。一方のバージョン3になると、そうはいかず、考え違いを起こしやすくなるのではないでしょうか。

 どこで考え違いを起こしやすいかというと、条件を考えるところです。合格品を選んだことが無視され、そのため事前確率のままの1/2のような気もするのではないでしょうか。

 これと逆に事前確率を無視する例が検査陽性であった場合に感染している確率です。感染していれば99%の確率で陽性となる精度の高い検査で陽性になれば感染間違いなしと早計しがちです。しかし、そもそも、その感染症が極めて稀なもの、つまり事前確率が小さければ、感染している確率はそれほどでもありません。見逃しを小さくしなければならない人間ドックでは特にそうで、引っかかっても精密検査で異常なしになった経験は大抵の人にあるのではないでしょうか。「日本の人口が1億3千万人、そのうち感染者が1万人、非感染者が1億2999万人いて、それに検査をして・・・」と考えていけば事前確率は無視されません。ところが、世界で唯一の存在である自分が検査を受けた場合には、そんなことはあまり考えません。

 ところで、製品検査バージョン3では「合格品であった場合に、コインが表だった確率は?」ではなく「その製品は、合格品であった。さて、コインが表だった確率は?」と書きました。たまたま合格品であったに過ぎないというニュアンスにして、「合格品であった場合」という条件を曖昧にするためです。そうすることで事前確率を尋ねているとも解釈できます。しかも、あいまいさを自覚しにくい仕掛けになっています。それによって混乱させようという魂胆でした。「眠り姫問題」にもそういう自覚しにくいあいまいさがあると思います。